中国弁護士 李 美燕
北京魏啓学法律事務所
 
商標法第10条には、商標として使用してはいけない標章が規定されている。ここ近年、当該使用禁止条項に違反することで商標が拒絶査定された事例はますます増加し、中には特に、商標法第10条第1項第7号及び第8号、いわゆる「欺瞞性を帯びており、商品の品質などの特徴又は産地について公衆に誤認を生じさせやすいもの」、「社会主義の道徳、風習を害し、又はその他の悪影響を及ぼすもの」といった規定に該当することを理由に拒絶査定された事例は大きな割合を占めている。実務においても、商標出願人から、第10条に違反することで拒絶された商標を引き続き使用できるかどうかについての質問がよく寄せられる。本稿では第10条に関連する拒絶不服審判の事例、関連する法律規定及び実際の摘発事例から、使用禁止条項に違反することで拒絶査定された商標の使用に伴うリスクについて紹介する。

I. 第10条に関連する拒絶不服審判の統計1

第10条に関する拒絶不服審判決定書についてデータペース「摩知輪」で検索したところ、下記図のとおり、その件数は、2020年及び2021年には一時的に落ち込みを見せたものの、それ以降は右肩上がり一方で、2023には驚異的な34182件にも上り、同年拒絶不服審判決定の総数の14.6%をも占めた。

 

さらに、第10条関連の拒絶不服審判決定の中、具体的な項目(即ち第10条第1項第1号から8号まで及び第10条第2項)を検索したところ、各項目の割合は下記図の通りである。その中、第10条第1項第7号関連の案件数は105,713件で、全体の57%をも占めており、次に第10条第1項第8号関連の案件は53,355件で、全体の29%を占めている。
 
 
 
一方、第10条第1項第7号または第8号に関連する拒絶不服審判の結果を見ると、「全部拒絶」が占める割合は最も高く、次には「全部初歩査定」で、「部分的に拒絶」が占める割合は最も少ない。これで分かるように、第10条第1項第7号または第8号によって拒絶された商標に関しては、拒絶不服審判を請求したとしても、初歩査定される可能性は高くない。
 
 

 
II. 使用禁止商標の使用に関する処罰規定

商標法第52条によれば、「登録されていない商標を登録商標と偽って使用したとき、又は登録されていない商標を使用してこの法律の第10条の規定に違反したときは、地方の工商行政管理部門はこれを差し止め、期間を定めて是正するよう命じるものとし、かつ公表することができる。違法経営額が5万元以上の時は、違法経営額の20%以下の罰金を科すことができ、違法経営額がない、又は違法経営額が5万元未満の場合、1万元以下の罰金を科すことができる」と規定している。また、国家知識産権局が制定した『商標の一般的違法に関する判断基準』[国知発保字〔2021〕34号](以下、「判断基準」とする)第15条には更に、「国家知識産権局が、商標登録が商標法第10条の規定に違反していると認定し、かつそれに関する決定や裁定が効力を生じた後においても、商標出願人又はその他の者がその商標を継続して使用した場合、商標法執行担当部門は法に基づいて摘発する」と明記されている。

判断基準第5条の規定によれば、使用する非登録商標が商標法第10条の規定に違反するか否かは、通常、中国国内の公衆の一般的な認識を判断基準とする。ただし、使用する未登録商標が同条第1項第6号から第8号の規定に違反していると、中国国内の特定の公衆が判断しているし、それを証明するに十分な理由がある場合は除く。同基準の第6条から第14条には第10条に係る具体的な違法判断基準が明記されている。

上記の規定を踏まえて、商標法第10条に違反する商標が使用されるのは主に次の2種類と見られる。第1種は登録出願をしたことがない商標、即ち拒絶査定されなかった商標の使用。この場合の商標の使用リスクは、商標法の関連規定及び判断基準に明記されている認定基準に基づいて、実際の使用状況と合わせて判断すればいい。もう1種は登録出願して拒絶を受けた商標の使用。この場合、判断基準第15条の規定によれば、それに関する決定や裁決が効力を生じてから、商標出願人又はその他のものが当該商標の使用を停止すべき、さもなければ、商標法執行担当部門が法に基づいて摘発することができる。筆者の考えでは、関連の決定や裁定が発効したかどうかを違法かどうかの認定基準とする判断基準第15条は確かに、実務上、強い指導的効果を果たしているが、本質上、商標法執行担当部門が摘発する対象はあくまでも商標法第10条に違反するものであり、それに違反するかどうかを判断する時、商標の使用行為そのものに着眼点をおくべき、関連の決定や裁定が発効したかどうかを判断基準と見なすべきではない。例えば、商標の実務において、商標の類否判断については、権利付与・確定段階の審査基準は民事侵害段階より厳しく取られる傾向があり、すなわち商標が先行商標の存在で拒絶された後、実際の使用リスクについて検討する際に、先行商標の知名度や顕著性、訴えられた商標の実際の使用状況、出願人の悪意などの要素を合わせて考慮し、最終的に関連公衆の誤認につながるかどうかという基準に基づいて総合的に判断を行う。前述したように、ここ近年、第10条に係る審査認定が厳格化されており、審査員の主観的判断や審査にかかる時間、証拠状況など様々な要素の影響を受け、拒絶された商標の中には、実際の生活において第10条に違反したと見なされないケースも少なくないし、特に第10条第1項第7号に係る場合にはその傾向がより顕著である。

例えば、(2019年)最高法行再249号の事例では、国家知識産権局は「腎源春氷糖蜜液」出願商標が「腎臓に有益な氷糖と蜂蜜を煮込めた液体」と理解されやすく、当該文字が薬用酒などの指定商品に商標として使用された場合、指定商品の原材料や成分の特徴について消費者を誤認させやすいと判断した。一方、最高裁は、一般消費者の通常の認識から見れば、出願商標の標章における「氷糖」や「蜜」は商品の成分に氷砂糖と蜂蜜が含まれていることを示していると判断した。出願人が提出した証拠によれば、出願商標の商品の成分には氷砂糖と蜂蜜が含まれている。商標の標章自体だけから、出願商標が指定商品に使用した場合、関連公衆に商品原料や成分などの特徴について誤認を与えやすいや一般民衆を騙し取ったと認定しにくいため、上記指定商品における出願商標の使用は商標法第10条第1項第7号の規定に違反しないと認定された。即ち、もし本事例において商標出願人が訴訟を最後まで頑張り抜かない場合、国家知識産権局が下した拒絶査定が発効することになり、出願人が引き続き当該商標を使用する場合、処罰を受ける可能性がある。

したがって、筆者は実務において、「国家知識産権局が、商標登録が商標法第10条の規定に違反していると認定し、かつそれに関する決定や裁定が効力を生じていること」と「登録されていない商標を使用して商標法第10条の規定に違反していること」を単純に同列に扱うべきではないと考えている。一方、判断基準は商標法執行担当部門のガイドラインとなっているため、執行担当者が上述の第2種の商標使用行為を発見した場合、依然として判断基準第15条の規定に基づいて調査処分を行うことになる。もし当事者は自分が使用している商標が実際に商標法第10条に規定されている状況には該当しないと思う場合、まず相応の証拠資料を提出して使用禁止状況ではないと反論を行うことが考えられる。それでも処罰された場合には、行政訴訟法および行政不服審査法の規定に基づいて、処罰行為に対して行政訴訟または行政不服申立を行うと同時に、規範性文書に対する附帯審査を請求することが考えられるが、認可されるハードルは高い。

III. 摘発事例について紹介

上記の法律規定に基づいて、関連する決定、裁定が効力を生じてからも、商標法第10条の規定に違反する商標を引き続き使用する場合には、摘発を受け、罰金が科されるリスクがある。このような状況を目の前にして、商標法執行担当部門はこのような拒絶された商標に的を絞って一斉調査を行うことがあるかどうかという疑問が生じる。

筆者の調査によれば、2018年6月、中国市場監督管理総局弁公庁が「開展打撃使用未注冊商標違反商標法禁用条款行為『浄化』専項行動方案(未登録商標を使用して商標法の使用禁止条項に違反する行為を取り締まる『浄化』特別行動の実施に関する案)」の通達を印刷、配布した2。当該「方案」によれば、特別行動は手がかり調査、動員配置、組織実施、整理終結という4つの段階に分けられる。国家知識産権局商標局は、2017年以降に出願し、審査で商標法第10条の使用禁止条項を根拠に拒絶された商標登録申請のリストを商標データベースから収集し、特別行動の調査リストを作成した。調査リストや特別行動の最終報告書については検索で入手できなかったが、いくつかの地方の監督管理部門の報道から見ると、これらの地方では使用禁止条項に違反することで拒絶査定された商標が引き続き使用されている行為は確認されなかったようである。また、市場監督管理部門がそれ以降にもこのような特別行動を行ったという報道も見つからなかった。にもかかわらず、商標法執行担当部門の日常的な管理よりも、特別行動といった形式による監督管理は、組織的で運用可能性があると考えている。

実際に摘発された事例について、前述で述べたように、拒絶された商標の中には、第10条第1項第7号および第8号に該当するものが最も多く、本稿ではこの2項目に関連する摘発された事例を紹介する。威科先行法律情報庫3で「商標法第10条第1項第7号」および「商標法第10条第1項第8号」をキーワードに行政処分の事例を検索したところ、本稿作成した時点で「第10条第1項第7号」に関連する事例は27件あり、「第10条第1項第8号」に関連する事例は125件あった。その中には、上記2項目と密接に関連しない事例も含まれている。上記のデータは実際に摘発された事例のごく一部に過ぎないかもしれないが、罰金やその数から見て、第7号に違反した場合より、第8号に違反した場合のほうに対して、調査、処分がより厳格なことは容易にわかる。ここではご参考のために、代表的な事例をいくつか取り上げて、対象商標、罰金の額、認定の要旨を整理した。
 
  
 
上記の事例からわかるように、第10条第1項第7号に違反したことで処分された商標は主に、その効果について公衆を誤認させやすいものである。罰金額から見ると、基本的に数千元程度である。罰金額は違法収入などとも密接に関連しているが、上記で処分された当事者は主に販売業者であり、在庫があまり多くない可能性があるため、罰金額も比較的少ないと思われる。

 
第10条第1項第8号に係る125件の事例の中、「特種兵」に関連する事例が45件にも達し、全体の36%を占めている。特に注目すべきなのは、2022年6月に中央軍委後勤保障部など6つの部門が「軍」字号の煙酒商品販売禁止に関する通告を発表し、「軍」字号の煙酒商品をオンライン・オフラインで販売することを厳禁し、監督を厳密に行うよう求めた。これが、2022年以降「特種兵」標識を使用した商品が厳しく摘発されたことにつながっているかもしれない。罰金額を見ると、「特種兵」標識を使用して科された罰金は一般的に数百元程度であり、数千元や一万元に達するのは非常に稀である。

さらに、悪意ある出願によって処分された事例は25件に達し、全体の20%をしめている。悪意ある商標出願には、「瓶浄悉浄瓶」「PUTIN」「陳夢」「Quanhongchan全紅婵1000」などの国家元首やオリンピックチャンピオンに関連する商標だけでなく、中国人がコロナウイルスの拡大を阻止する決心を象徴する「雷神山」「火神山」といった商標、さらに一時下世話で話題となった「叫了個鶏」に関連する商標も含まれている。これらの悪意ある出願については、関連の商標が実際に使用されていなくても、商標法執行担当部門は上級の指示や提供された手がかり情報に基づいて悪意ある出願人を処分する。検索した事例から見ると、罰金は通常数千元程度である。国家元首に係る場合や悪影響が広い場合のケースに関しては、罰金額が相対的に高く、一万元や十万元以上になることもある。もちろん、上記の第三事例の罰金が高かったのは、悪い社会影響だけでなく、不法収入が高かったこととも関係している。

さらに、第10条第1項第7号および第8号に関する摘発の手がかりは以下の3つの状況に細かく分けられる。第一は、商標法執行担当部門が苦情や通報に基づき、調査・処分を行う場合。第二は、商標法執行担当部門が拒絶査定された商標に対して全国的な特別行動を展開したり、上級からの指示を受けて拒絶査定された商標の出願人に対して特定の検査を行う場合。第三は、商標法執行担当部門の日常的な監督管理。前記の「通告」や調査処分された事例のタイプから見て、現在商標法執行担当部門が特に監督管理しているのは煙酒や飲料などの分野で兵種名称を商標として使用する行為であることが容易にわかる。

IV. まとめ

まず、使用禁止条項により拒絶査定されたことがあるかどうかにかかわらず、商標法執行担当部門が使用されている未登録商標が商標法第10条の規定に該当すると判断した場合、処分されるリスクがある。一度拒絶され、且つ関連の裁定が効力を生じている未登録商標の使用については、商標法執行担当部門が特別行動や上級部門の指示、他者の通報などに基づいて関連主体を対象に一斉調査を行う可能性がある。

使用禁止条項に違反して処分された事例の中で、第10条第1項第7号に違反した場合よりも、第8項に違反したほうが処分がより厳格で、悪意的に国内外のリーダーやオリンピックチャンピオンの名称等と同じまたは類似する商標を出願する場合、当該商標を使用していなくても悪意による出願行為として商標法執行担当部門から処分されるリスクがある。また、商標に政治的に敏感な用語(例えば「特種兵」や「求是」などの標識)が含まれている場合、当該商標を使用することで処分されるリスクは非常に高く、処分された際に反論の余地も少ないと思われる。また、第10条第1項第7号により拒絶査定された商標について、該当商標の効能により誤認を招きやすいから処分された事例が多い。商品の品質などの特徴について公衆に誤認を生じさせやすい認定に関して、権利付与・確定される段階で第10条第1項第7号により拒絶査定されたからといって、実際の使用により公衆が商品品質などについて誤認を生じさせやすいとは限らないと考えているが、現在執行の実務と合わせて考慮すると、拒絶査定された商標を引き続き使用することは、調査処分のリスクが伴う。

最後に、第10条の使用禁止条項に違反することで拒絶査定された商標の数が増加している社会背景の下、今後も多くの商標が使用禁止条項に違反することで拒絶査定されるとみられる。もし拒絶査定された商標が出願人にとって非常に重要、且つ、実際の商標使用シーンで関連公衆に誤認を与えたり悪影響を及ぼすことがないと考えるなら、拒絶不服審判や商標の行政訴訟といった救済手段を活用して商標登録の承認を目指すことをお勧めする。実務において、使用禁止条項を克服しがたい状況も確かに存在しているため、拒絶査定等がすでに効力を生じている場合、関連商標の使用を放棄するのが一番安全な方法である。もし拒絶査定された商標を使用する必要がある場合、商標の具体的な使用状況などと合わせて、商標法執行担当部門に摘発される可能性や問われる法的責任を総合的に考慮したうえ、最終的な判断を下すべきだと思われる。
 
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1当該節のデータは魔知輪のデータベース(https://home.mozlen.com/)によるもので、グラフは筆者がまとめたもの。

2https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/tzgg/201807/W020180711559602549716.pdf

3https://law.wkinfo.com.cn