中国弁理士・弁護士 王 春俏
外国の特許出願人は、中国で特許出願を行う際に、一定のフレキシビリティを得るために、通常、「優先権」を主張することで、先願の出願日を優先日として確保する。
しかし、中国の特許出願制度のうち、「拡大先願」制度が存在する。「拡大先願」の主体はいかなる機関・組織又は個人であり、すなわち、同一の出願人による各出願の間にも「拡大先願」となり得る。中国に出願する特許出願人は優先日の異なる複数の優先権を主張し、かつ分割出願を行う場合、分割出願及び/又は親出願の請求項に記載された発明によって、新規性欠如と指摘される可能性がある。
以下に例を挙げて説明する。
例えば、下図に示すとおり、
同一の出願人による出願日の異なる外国出願B1とB2が存在する。B2の出願日f2はB1の出願日f1より遅く、B1に記載された下位概念の発明s1の技術的範囲はB2に記載された上位概念の発明s2より狭い。
中国で出願する際に、B1とB2に基づく優先権を同時に主張してA3を出願し、A3の出願書類には下位概念の発明s1、上位概念の発明s2が記載されている。その後、中国における特許出願A3に基づき、分割出願A4を提出した。A4の請求項に記載された保護しようとする発明は上位概念の発明s2である。A4の請求項の記載によれば、実質上B2の優先権しか享受できないため、優先日f2が適用できる。
A3の請求項に記載された下位概念の発明s1は、優先日f1 を享受でき、f1がA4の請求項により享受できる優先日f2の前、A3の公開日p3がf2の後にあり、かつA3の請求項に記載された下位概念の発明s1の技術的範囲はA4の請求項に記載された保護しようとする発明s2より狭い。そのため、親出願としての中国出願A3は分割出願A4に対して、「拡大先願」の地位を有し、A4の新規性を否定することになる。
上記事例の変形例として、親出願A3の請求項に記載された保護しようとする発明はs2であり、分割出願A4の出願書類に発明s1が記載された場合、分割出願A4は親出願A3に対して、「拡大先願」の地位を有し、A4の新規性を否定すると理解できる。
したがって、実務上、出願人はこのような問題がある分割出願が形成される可能性を認識し、そのマイナス影響を回避するために、的を絞った出願戦略を立てるべきである。
例えば、出願する際に、出願人はまず上位概念の発明(比較的権利範囲の広い発明)s2に係る外国出願B2を提出してから、下位概念の発明(比較的権利範囲の狭い発明)s1に係る外国出願B1を提出することで、優先権主張において問題がある分割出願の形成を避けることができる。ただ、この戦略が研究開発の進展やマーケティング戦略の調整に左右され、最終的に実現できない可能性もある。
もう一つの戦略としては、下位概念の発明s1に係る外国出願B1を先に提出した場合、その後提出する外国出願B2の出願書類には上位概念の発明s2のほか、発明s1にない技術的特徴Tnが記載され、つまりs2+Tnが記載される。分割出願A4の請求項でs2+Tnを保護しようとする発明にすることで、親出願A3に記載された発明s1が分割出願A4の保護しようとする発明s2+Tnの新規性を否定することを回避できる。
さらに、下位概念の発明s1に係る外国出願B1は上位概念の発明s2に係る外国出願B2より前に提出された場合、B1と B2がまだ公開されていないのであれば、中国に出願するA3はB1、B2に基づく優先権を主張しなくても良い。B1、B2は外国出願で、中国出願に属さないため、「拡大先願」の適用対象ではなく、A3またはその分割出願A4に対して拡大先願の地位を有しない。
筆者は、中国に出願する際に、優先日の異なる複数の優先権を主張する場合の問題がある分割出願になる状況を簡単に説明したが、実務ではケースバイケースで分析し、適切な対応策を見出して出願戦略を立てることを提案する。