中国弁護士 中国弁理士 陳 涛
北京魏啓学法律事務所
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I. はじめに
過去20年間、中国のゲーム市場は家庭用ゲームからオンラインゲーム、スマホゲームへと急速に発展し、市場規模は2003年の約13億人民元から2022年の約2,659億人民元まで増加した。このような巨大市場を前に、中国のゲーム会社における過去10年間の研究開発投資は累計で1兆人民元を超え、年々増加している。ゲーム産業が急速に発展する一方で、ゲームの知的財産をどのように保護すべきかという問題も生じており、権利形態や権利範囲については一連の課題に直面している。
ゲーム自体は、プログラム、ゲーム名、ゲームロゴ、ゲームルール、ストーリー、シーンマップ、キャラクター、テキスト、セリフ・ナレーション、BGMなどの要素で構成されている[1]。中国において、これらの様々な要素は、『中国特許法』、『中国著作権法』、『中国商標法』及び『中国不正競争防止法』により、様々な観点から知的財産権として保護することができる。
中国特許法には、発明特許、実用新案及び意匠が定められている。そのうち、発明特許権及び実用新案権は、技術の革新を保護対象とする権利である。ゲームに含まれる技術の革新は中国特許法の保護範囲に属する。例えば、ハードウェアに関する改良や、画像処理、セキュリティー技術、マルチメディア技術などのソフトウェアに関する改良はいずれも、技術の革新に該当するため、中国特許法により保護される。一方、ゲーム方法の革新は本質で言えば、技術上の革新であるとはいえない。そこで、ゲーム方法の革新をどのように特許により保護するかということは、難しい課題となっている。本稿では、この課題について考察してみる。
II. 判断基準
ゲーム方法発明の特許適格性及び新規性、進歩性については、中国の特許審査指南には特段の定めはない。一方、ゲーム方法発明はビジネスモデル発明と同様に非技術的な革新に該当するため、ビジネスモデル発明に関する審査指南の特別な規定を参照することができる。また、ビジネスモデル発明の審査運用から、ゲーム方法発明の審査運用を推測することができる。
2017年の審査指南改訂により、「ビジネスモデルに関するクレームが、ビジネスルール・方法の規定だけでなく、技術的な構成も含む場合、中国特許法第25条によりその特許可能性を否定することができない」という規定が追加された[2]。この改訂からすれば、中国特許庁が遅くとも2017年から、ビジネスモデル発明などの非技術的な革新に対して以前より緩和的な運用を採るようになっていると考えられる。
2019年末の審査指南改訂では、第二部第九章に「6.アルゴリズムの規定またはビジネスルール・方法の規定を含む発明特許出願の審査に関する規定」という欄が追加され[3]、ビジネスモデル発明の特許適格性、新規性及び進歩性の判断基準が明確に定められた。この改訂から、中国特許庁がビジネスモデル発明などの非技術的な革新を奨励する方針を採ることが明らかになった。
審査指南には、ゲーム方法発明の審査に関する特段の記載はないが、非技術的な革新を奨励する方針を背景に、ゲーム方法発明も特許により保護できると考えられる。ゲーム方法の場合、特許適格性がどのように判断されるかについては、ビジネスモデル発明に関する審査指南の規定を参考にすることができる。
審査指南第二部第九章6.1には、ビジネスモデル発明の特許適格性の判断について以下の記載がある。
「審査は、保護を求めるソリューション、すなわち請求項に規定するソリューションを対象に行わなければならない。審査時に、技術的な構成と、アルゴリズムの規定やビジネスルール・方法の規定などとを簡単に切り離すべきではなく、請求項に記載のすべての内容を一つの統一体として考え、その技術的手段、解決する技術的課題及び得られる技術的効果を検討しなければならない。」
「請求項が抽象的なアルゴリズム又は単純なビジネスルール・方法に関し、かつ何らの技術的な構成も含まない場合、この請求項は、中国特許法第25条第1項第(2)号に規定する知的活動の法則及び方法に該当するため、特許を受けることができない。例えば、抽象的なアルゴリズムに基づくものであって何らの技術的な構成も含まない数学モデルの構築方法は、中国特許法第25条第1項第(2)号に規定する不特許事由に該当する。」
「請求項にはアルゴリズムの規定またはビジネスルール・方法の規定だけでなく、技術的な構成も含まれる場合、当該請求項は全体として知的活動の法則及び方法ではないため、中国特許法第25条第1項第(2)号によりその特許可能性を否定することができない。」
「保護を求める請求項が全体として、特許法第25条第1項第(2)号に規定する不特許事由に該当しない場合、当該請求項が中国特許法第2条第2項に掲げる技術的ソリューションに該当するか否かを審査する必要がある。」
「アルゴリズムの規定またはビジネスルール・方法の規定を含む請求項が技術的ソリューションに該当するか否かを審査する際に、請求項に記載のすべての構成を全体的に考慮する必要がある。当該請求項には、解決しようとする技術的課題について、自然法則を利用した技術的手段の採用が記載されており、かつ、これにより自然法則に合う技術的効果が得られる場合、当該請求項に係るソリューションは、中国特許法第2条第2項に掲げる技術的ソリューションに該当する。」
以上の規定からすると、ゲーム方法に関するクレームが、単なるゲーム方法しか含まない場合、知的活動の法則及び方法に該当するため、中国において特許を受けることができない。一方、ゲーム方法の構成に加えて、技術的な構成も含む場合、このクレームは全体として、知的活動の法則及び方法に該当しないと判断される。この場合、中国特許法第2条第2項に掲げる「技術的ソリューション」に該当するか否かについてさらに考察される。
ゲーム方法に関するクレームが「技術的ソリューション」に該当するかについての判断は、クレームに記載のすべての構成を全体的に考慮する必要がある。クレームには、解決しようとする技術的課題について、自然法則を利用した技術的手段の採用が記載されており、かつ、これにより自然法則に合う技術的効果が得られる場合、中国特許法第2条第2項に掲げる「技術的ソリューション」に該当すると判断される。
ゲーム方法やビジネス方法において、自然法則と人為的な法則との境界が明確ではなく、判断しづらい場合が多い。ゲーム方法の革新については、新たなゲームルールを提供するものにすぎず、おそらく技術的な革新ではないため、その解決手段にどのような自然法則が利用されているのか、自然法則に沿った効果が得られるのかについては、明確な答えを得るのは難しい。そのため、より明確な判断ルールがあれば、ゲーム方法発明の特許化を図る上で役立つと思われる。
審査指南第二部第九章6.1には、ビジネスモデル発明の進歩性判断について以下の記載がある。
「技術的な構成だけでなく、アルゴリズムの規定またはビジネスルール・方法の規定も含む発明特許出願の進歩性を審査する際に、技術的な構成と機能的に支え合い、相互作用を有するアルゴリズムの規定またはビジネスルール・方法の規定と、前記技術的な構成とを一つの統一体として考慮しなければならない。『機能的に支え合い、相互作用を有する』とは、アルゴリズムの規定またはビジネスルール・方法の規定と技術的な構成とが緊密に関連し、ある技術的課題を解決するための技術的手段を共同で構成し、かつ対応する技術的効果を達成できることをいう。」
上記の規定からすれば、ゲーム方法発明についても、進歩性判断の際に、技術的な構成と機能的に支え合い、相互作用を有するゲーム方法の規定は、前記技術的な構成とともに一つの統一体として考慮すべきである。
特許審査において、特許適格性の審査は、新規性及び進歩性の審査よりも優先される。進歩性の審査まで進んだ場合、ある程度、特許適格性の審査にパスしたと考えられる。逆に考えると、クレームにおけるゲーム方法の構成と技術的な構成が「機能的に支え合い、相互作用を有する」関係である場合、これら全体で分割不可能な統一体が形成されることから、このようなゲーム方法の構成と技術的な構成とからなるクレーム発明が「技術的なソリューション」に該当するともいえるのではないかと思われる。
この観点から、クレーム作成の際に、ゲーム方法の構成と、技術的な構成とが「機能的に支え合い、相互作用を有する」関係となるようにクレームを作成し、ゲーム方法の改良に技術的な手段が利用されたことをうまく反映できれば、「技術的なソリューション」違反による拒絶が回避できると考えられる。
以下に実例を挙げて検討する。
III. 実例
【例1】ZL202010561620.8
ゾンビ対戦ゲームでは、プレイヤーはゲームキャラクターを操作してゲームシーン内を移動し、あらゆる場所から襲いかかるゾンビを攻撃することができる。しかし、従来のゲームモードでは、ゾンビを攻撃する手段は単一で、銃器による射撃しかできず、柔軟性に欠けていた。
本願発明の改良は、仮想オブジェクト(ゾンビなど)を気絶状態にすることができる新たな攻撃用アイテムをゾンビ対戦ゲームなどに追加することにある。新たな攻撃用アイテムとしては、例えば、気絶攻撃弾丸、気絶攻撃銃器、気絶攻撃ナイフ、気絶攻撃手榴弾等が挙げられる。本願発明によれば、仮想オブジェクトを攻撃する機能が豊富になり、仮想オブジェクトの制御の柔軟性及び多様性が向上する。
本願の登録特許公報に掲載された請求項1は以下のとおりである。
【請求項1】
仮想オブジェクトの制御方法であって、
(1)競技の開始が検出されると、ユーザー操作によって制御される第1の仮想オブジェクトが仮想シーンの画面に表示され、ユーザー操作によって制御されない第3の数の第2の仮想オブジェクトが第2の持続時間ごとに仮想シーン内に生成されること、
(2)仮想シーン内の第2の仮想オブジェクトが第1の仮想オブジェクトに向かって移動するように制御し、第2の仮想オブジェクトと第1の仮想オブジェクトとの間の距離が第2の距離未満である場合、第2の仮想オブジェクトが第1の仮想オブジェクトを攻撃するように制御すること、
(3)前記第1の仮想オブジェクトが第1の数の第2の仮想オブジェクトを倒した場合、仮想シーンのタイプに対応する第2の数を決定し、前記第1の仮想オブジェクトに前記第2の数の気絶攻撃武器を配り、前記仮想シーンの競技難易度が高いほど、前記仮想シーンに対応する前記第1の数が大きくなり、かつ前記第2の数が小さくなると一方、前記仮想シーンの競技難易度が低いほど、前記仮想シーンに対応する前記第1の数が小さくなり、かつ前記第2の数が大きくなること、
(4)前記第1の仮想オブジェクトが複数の前記第2の仮想オブジェクトに包囲された場合、前記仮想シーンの画面を介して、前記第1の仮想オブジェクトによる前記仮想シーンの画面内の少なくとも1つの前記第2の仮想オブジェクトに対する気絶攻撃命令を受信すること、
(5)前記気絶攻撃命令に応じて、前記第1の仮想オブジェクトが前記気絶攻撃武器を用いて少なくとも1つの前記第2の仮想オブジェクトを攻撃するように制御するとともに、少なくとも1つの前記第2の仮想オブジェクトが気絶状態及び転倒状態となるように制御することによって、前記第1の仮想オブジェクトが前記第2の仮想オブジェクトの包囲から逃げることを可能にし、ここで、前記第2の仮想オブジェクトが気絶状態であるとき、前記第1の仮想オブジェクトによる前記第2の仮想オブジェクトへの攻撃が無効になること、
(6)少なくとも1つの前記第2の仮想オブジェクトが気絶状態及び転倒状態である持続時間が第1の持続時間になると、少なくとも1つの前記第2の仮想オブジェクトが通常の状態に戻るように制御すること、
を含むことを特徴とする、仮想オブジェクトの制御方法。
本願の請求項1は、ゲームにおいて気絶攻撃武器を入手して使用する手順を記載したものである。
ステップ1において、仮想シーンには、第1の仮想オブジェクト(プレイヤーキャラクター)が表示され、所定の時間ごとに所定の数の第2の仮想オブジェクト(ゾンビ)が生成される。ステップ2において、ゾンビはプレイヤーキャラクターに向かって移動し、近づいたら、プレイヤーキャラクターを自動的に攻撃する。ステップ3において、プレイヤーキャラクターが第1の数のゾンビを倒すと、ゲームシステムから第2の数の気絶攻撃武器が得られる。第1の数及び第2の数はゲームの難易度に関連する。ステップ4において、プレイヤーキャラクターが複数のゾンビに包囲された場合、プレイヤーはゲームインターフェイスを操作して気絶攻撃武器を使用する。ステップ5において、気絶攻撃武器による攻撃を受けたゾンビが気絶状態及び転倒状態となり、この状態のゾンビに対するプレイヤーキャラクターの攻撃は無効になる。ステップ6において、気絶状態及び転倒状態となったゾンビは、所定の時間を経過すると、通常の状態に戻る。
【例2】ZL202010413541.2
従来のシューティングゲームでは、プレイヤーキャラクターが仮想シーン内に近接地雷を設置することができ、敵プレイヤーキャラクターが仮想シーン内で近接地雷に近づくと、近接地雷が爆発する。近接地雷に近づくことができないため、近接地雷を破壊・除去するには、長距離射撃という方法しかなかった。
本願発明の改良は、現実の近接地雷の処理方法をシミュレートして、近接地雷を一時的に無効化することができる新たなアイテムをシューティングゲームに追加することにある。
本願の登録特許公報に掲載された請求項1は以下のとおりである。
【請求項1】
端末によって実行される仮想アイテムの使用方法であって、
(1)前記端末によって制御される仮想キャラクターであるメインキャラクターの視点で仮想環境を観察する画面である第1の仮想環境画面を含む第1のユーザインターフェースを表示し、前記メインキャラクターは、投擲具である第1の仮想アイテムを有し、前記第1の仮想環境画面は、敵対勢力の敵対的な仮想キャラクターによって前記仮想環境に配置された仮想機械ユニットである有効状態の第2の仮想アイテムを含み、前記第2の仮想アイテムは、前記仮想環境に配置された後、トリガー条件が満たされたときに有効になること、
(2)使用命令に応じて、前記メインキャラクターが前記第1の仮想アイテムを使用するように制御すること、
(3)前記第2の仮想アイテムが前記第1の仮想アイテムの第1の効果範囲内である場合、前記第2の仮想アイテムが、前記有効状態に対応する第1の表示形態から、無効状態に対応する第2の表示形態に切り替わるように制御すること、
(4)前記第2の仮想アイテムが前記無効状態である第1の持続時間を計時すること、
(5)前記第1の持続時間が第1の時間閾値を満たした場合、前記第2の仮想アイテムが前記無効状態から前記有効状態に切り替わるように制御すること、
を含むことを特徴とする仮想アイテムの使用方法。
本願の請求項1は、シューティングゲームにおいてジャマーを用いて近接地雷を無効化する手順を記載したものである。
ステップ1において、メインキャラクター(プレイヤーキャラクター)は、有効状態の第2の仮想アイテム(近接地雷)が存在する仮想シーンにおいて、第1の仮想アイテム(ジャマー)を持っている。ステップ2において、プレイヤーは、ゲーム端末を操作して、ジャマーを使用するようにプレイヤーキャラクターを制御する。ステップ3において、ジャマーは近接地雷の付近に投げられ、ジャマーの効果範囲内である近接地雷は、有効状態から無効状態に変わり、表示形態も変わる。例えば、有効状態では、近接地雷に特殊効果光線が表示され、無効状態では、近接地雷の特殊効果光線が表示されなくなる。ステップ4において、近接地雷の無効状態の持続時間が計時される。ステップ5において、近接地雷の無効状態の持続時間が所定の時間になると、近接地雷が有効状態に戻る。
VI. 実例解析
例1、2の発明は典型的なゲーム方法の改良である。これら特許の審査経過を調べたところ、特許適格性に関する指摘は一切なく、いきなり新規性・進歩性に関する拒絶理由が通知された。例1、2は、新規性・進歩性に関する拒絶理由を解消した結果、特許査定を受けた。例1、2の特許適格性がなぜ認められたかについて、一考の価値がある。
1. 例1について
例1の発明は、従来のゾンビ対戦ゲームにおけるプレイヤーの攻撃手段が単一であったという問題に着目して、ゲームに気絶攻撃武器という新たなアイテムを追加することにより、仮想オブジェクトの制御の柔軟性及び多様性が向上するという効果を図る。課題、手段、効果の技術性からこの発明の技術性を評価する場合、この発明が技術の改良であるという結論は導き難い。具体的には、従来のゾンビ対戦ゲームにおけるプレイヤーの攻撃手段が単一であったという問題は、技術的な問題ではなく、ゲームの遊び方の問題であると考えられる。ゲームに気絶攻撃武器という新たなアイテムを追加することも、遊び方の変更にすぎず、自然法則を利用していないといえる。新たなアイテムが追加されると、仮想オブジェクトの制御の柔軟性及び多様性は当然向上するが、この効果も遊び方の変更によるユーザー体験の変化であるため、技術的な効果であるとはいえない。
このように、本質で言えば、例1は、ゾンビ対戦ゲームにおいてゾンビを気絶状態にすることができる新たな攻撃用アイテムを与える新たなゲーム方法である。一方、本件特許において、このゲーム方法のクレームは、数多くの技術的な構成を含むように作成されている。クレームは「仮想オブジェクトの制御方法」を発明の対象とし、このゲーム方法を実行する際に仮想オブジェクトを制御する手順を様々な技術的要素を用いて記述している。具体的には、ステップ1では、競技の開始を検出すると、第1の仮想オブジェクトを仮想シーンの画面に表示し、第2の仮想オブジェクトを生成する。ステップ2では、第2の仮想オブジェクトを、第1の仮想オブジェクトに向かって移動し、第1の仮想オブジェクトを攻撃するように制御する。ステップ3では、倒された第2の仮想オブジェクトの数をカウントし、第1の仮想オブジェクトに気絶攻撃武器を配る。ステップ4では、プレイヤーからの気絶攻撃命令を受信する。ステップ5では、気絶攻撃武器を使用するように第1の仮想オブジェクトを制御し、第2の仮想オブジェクトの状態を制御する。ステップ6では、第2の仮想オブジェクトがが気絶状態及び転倒状態となった時間を計時し、第2の仮想オブジェクトが通常の状態に戻るように制御する。
このように、ステップ1~6はすべて、技術的な構成からなる技術的手段である。これら技術的手段で構成される仮想オブジェクトの制御方法は、「技術的なソリューション」に該当すると考えられる。
2. 例2について
例2の発明は、従来のシューティングゲームにおいて現実のように近接地雷を処理することができないという問題に着目して、ゲームに近接地雷を無効化するためのジャマーを新たなアイテムとして追加することによって、現実の近接地雷の処理方法をシミュレートできるという効果を図る。例1と同様に、課題、手段、効果の技術性からこの発明の技術性を評価する場合、この発明が技術の改良であるという結論は導き難い。具体的には、従来のシューティングゲームにおける近接地雷の処理方法が現実の処理方法とは異なるという問題は、技術的な問題ではなく、ゲームの遊び方の問題であると考えられる。ゲームに近接地雷を無効化するためのジャマーを追加することも、遊び方の変更にすぎず、自然法則を利用していないといえる。ジャマーの追加による「現実の近接地雷の処理方法をシミュレートできる」という効果も、遊び方の変更によるユーザー体験の変化であるため、技術的な効果であるとはいえない。
このように、本質で言えば、例2は、シューティングゲームにおいて近接地雷を一時的に無効化できる新たなアイテムを与える新たなゲーム方法である。一方、本件特許において、このゲーム方法のクレームは、数多くの技術的な構成を含むように作成されている。クレームは「仮想アイテムの使用方法」を発明の対象とし、このゲーム方法を実行する際に仮想アイテムを使用する手順を様々な技術的要素を用いて記述している。具体的には、ステップ1では、第2の仮想アイテム(近接地雷)を含む仮想環境画面と、第1の仮想アイテム(ジャマー)とを含むユーザインターフェースを表示する。ステップ2では、プレイヤーの命令に応じて、第1の仮想アイテムを使用するように制御する。ステップ3では、第2の仮想アイテムが第1の仮想アイテムの効果範囲内であるかを判断し、第2の仮想アイテムの表示形態を制御する。ステップ4では、第2の仮想アイテムが無効状態となった時間を計時する。ステップ5では、第2の仮想アイテムが無効状態となった時間を所定の時間閾値に比較して、第2の仮想アイテムの状態を制御する。
このように、ステップ1~5はすべて、技術的な構成からなる技術的手段である。これら技術的手段で構成される仮想アイテムの使用方法は、「技術的なソリューション」に該当すると考えられる。
3. 小括
上記2つの実例において、出願人はゲーム方法を特許化するために、ゲーム実行時の制御手順をクレームに記載し、ゲーム方法の構成要素を各ステップの技術的手段に関する記述に押し込むことで、クレームの各ステップに技術的な構成が含まれるように工夫した。各ステップにおいて、ゲーム方法の構成と技術的な構成は機能的に支え合い、緊密に絡み合っている。ゲーム方法の構成と技術的な構成は一体化されているため、分割不可能な統一体となっている。このような手法で作成されたクレームでは、各ステップはいずれも技術的手段となる。このようなクレームを目の前にした場合、審査官には通常、「技術的なソリューション」ではないと疑問視する動機付けはない。その結果、例1、2は、特許適格性に関する拒絶理由を受けたことなく、新規性又は進歩性の拒絶理由を解消して特許成立した。
ゲーム方法の特許化を希望する場合、例1、2のクレームの書き方を参考にすることが考えられる。ゲーム方法のルールをクレームに反映するために、ゲーム実行時の制御手順を技術的な用語で表現し、ゲーム方法のルールをゲーム実行時の各制御処理に押し込むことが有効である。このような書き方を採用する場合、ゲーム方法の構成と技術的な構成を結び付けるというよりも、むしろ、ゲーム方法の構成と技術的な構成とを分割不可能に一体化することができる。
V. まとめ
本稿において、現行審査指南の規定及び実例の観点から、ゲーム方法を如何にして特許にするかという課題にアプローチした。クレーム作成時に、ゲーム方法を実現するための制御手順を技術的な言葉を用いて記載し、ゲーム方法のルールをゲーム実行時の各制御処理に押し込むことにより、特許適格性への疑惑を効果的に回避することができる。この観点から、これまで特許出願しても認められ難かったゲーム方法の革新も、特許で保護することが可能になり、ゲーム分野の知的財産保護に新たな視点が生まれる。種々の知的財産権法によりゲームの各側面を様々な観点から知的財産として保護することによって、ゲームイノベーターの適法な権利及び利益を確保するとともに、ゲーム産業のより健全な発展を促進することができる。
注釈:
[1]「オンラインゲームの知的財産保護白書」 中国著作権協会オンラインゲーム活動委員会、上海交通大学知的財産及び競争法研究院
[2]中国特許庁第74号公告
[3]中国特許庁第343号公告