中国弁護士 郜 宇 劉 欣妍
北京魏啓学法律事務所
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1. 既存の課題
中国では既存の有効登録商標数が非常に多く、且つ商標の年間出願件数が大量であることによって、企業にとっては登録商標を出願することが難しくなっている。国家知識産権局が発表した2022年年次報告書によると、商標登録出願における初歩査定率はわずか52%であった。つまり、約半数の商標出願が拒絶査定又は一部拒絶査定されており、拒絶査定理由のうち、先行商標が登録障害事由になっていることが多くある。これらの先行商標の中には、「登録されても使用されていない」商標が多く、出願人は、自社商標の登録を成功させるために、3年間使用されていない登録商標の取消を請求する(以下、「3年不使用取消審判」という)必要がある。
商標の類似審査において、先行商標の引用には一定の不確実性があるため、出願人は拒絶理由通知書を受領してはじめて、その登録出願の障害となる先行商標を確定できる。このような不確実性を低減し、より早い出願日を確保するために、出願人はよく、拒絶査定不服審判を請求すると同時に、拒絶査定通知で引用された先行商標のうち、使用されていないものに対して、3年不使用取消審判を請求している。しかし、近年の実務において、商標の拒絶査定不服審判の平均審理期間は約6~8か月で、3年不使用取消審判の審理期間は約7~9か月、ひてはそれ以上の期間がかかっている。つまり、3年不使用取消審判の審理期間のほうがより長くなっている。また、取消手続きにおいて引用商標の取消に成功しても、取消の決定が公告され、正式に無効となるまでに、通常さらに2~3か月を要する。
国家知識産権局は、これまでの拒絶査定不服審判において、審査期限の要求及び審査期間の短縮のため、引用商標に対する3年不使用取消審判の審決を待たず、直接審決を下すことが多かった。拒絶査定不服審判の審決に不服がある場合、訴訟手続きにおいて引用商標に対して3年不使用取消審判の審決が出され、発効されるのを待ち続けるために、出願人は行政訴訟を提起して救済を求めることしかできなかった。ただし、訴訟費用は通常、商標登録出願の費用よりはるかに高くかかるため、多くの出願人は、コスト削減のため、拒絶査定不服審判の審決に不服がある場合、商標を再出願することを選択している。しかし、この場合、障害となる新たな先行商標が出現する可能性もあり、不確実性がさらに増大する。また、同一の商標を再出願することは大量の行政資源と司法審査資源を浪費することになり、出願人の負担を増大させ、中国における毎年の商標出願件数をさらに増やすことにもなる。
2.改革動向
(1)国家知識産権局2023『商標法改正草案(意見募集稿)』
国家知識産権局は、2023年1月13日に『中華人民共和国商標法改正草案(意見募集稿)』(以下、「意見募集稿」という)を公表した。そのうち、第42条第1項は「手続き中止」の状況について、明確に規定している。
第42条【手続き中止】国務院知的財産権行政部門は商標の審査・審理において、関連する先行権利の確定について、裁判所で審理しているか、又は行政機関で処理している別案件の結果を根拠としなければならないときは、審査を中止することができる。中止の原因が解消されたら、審査・審理手続きを再開しなければならない。
上述規定は商標の審査・審理において、審査手続きを中止できることをとりあえず規定したものである。中止の原因が解消された後は、審査・審理手続きを再開しなければならない。当該改正草案は現在審議中にあり、まだ正式に施行されていない。
(2)国家知識産権局の『審判案件の中止事由に関する規準』の解説
国家知識産権局商標局は2023年6月13日、『審判案件の中止事由に関する規準』に関する解説を公表した。当該規準には、審理を中止すべきである7つの事由、及び案件の具体的状況に応じて審理を中止できる3つの事由を含む中止できる10種類の事由が挙げられている。当該10種類の事由の拒絶査定不服審判における適用は以下のとおりである。
国家知識産権局商標局は、『審判案件の中止事由に関する規準』に関する解説において、「審理中止は、上述した『必要性』を原則とする。すなわち、案件の審理において先行権利の確定などの事由が、審理の結果に実質的な影響を及ぼす場合でなければ、審理は中止しない。その他の審判請求の理由、又は他の権利状態が確定している先行商標に基づいて、審理の結論を十分に確定できる場合には、審理を中止すべきでない。」とはっきり述べている。
では、拒絶査定不服審判において、引用商標に対する3年不使用取消審判請求によって権利状態が不確定であると判断されただけの場合、それは中止すべき範囲に属するのであろうか。3年不使用取消審判を請求された引用商標が確かに商標出願のすべての障害であり、且つ取消審判を請求されたこれらの引用商標が確かに使用されていない場合、審判審理の実務において、請求人が自発的に審理の中止を請求すれば、上表における7番目の事由「引用商標の権利状態が不確定」を適用することで、案件の審理を中止できると、筆者は考えている。
しかしながら、上述の規準はまだ公表されたばかりで、引用商標に3年不使用取消審判が請求されている場合、拒絶査定不服審判によって審理中止できるか否かについて、実務上の更なる検証が必要である。
(3)商標の権利確定に係る行政訴訟の予備立件登録期間の変更点
案件手続きにおける無駄を効果的に回避し、当事者の訴訟負担を軽減するために、北京知識産権法院はこのほど、商標行政訴訟案件に対する予備立件登録制度を改革した。引用商標の権利状態が不確定である商標の拒絶査定不服審判などの行政訴訟において、予備登録段階における登録期間が延長された。
引用商標の権利状態が不確定であることを理由とする予備登録とは、審決が下される前に引用商標がすでに不確定な状態にあり、且つ、当該引用商標の最終的な結論が案件の審理に十分に実質的な影響を及ぼしていることをいう。請求する時に、引用商標の権利状態が不確定であることの初歩的な資料を提出し、その状態が案件の結論に及ぼし得る影響について説明しなければならない。
この場合、行政訴訟案件の予備立件登録期間は12か月となり、具体的には以下のとおりである。
① 外国、香港・マカオ・台湾に関連する原告が予備立件登録を請求する場合、予備立件登録期間は請求日から起算すると、3か月であり、累積期間延長は、一般的に3か月を超えないものとする。
② 引用商標の権利状態が不確定であることによって予備立件登録を請求する場合、予備立件登録期間は請求日から起算すると、12か月であり、期間延長はできない。
③ 外国、香港・マカオ・台湾に関連する原告、且つ引用商標の権利状態が不確定であることで予備立件登録を請求する場合、予備立件登録期間は請求日から起算すると、12か月であり、期間延長はできない。
この規定が公布される前に、原告が外国、香港・マカオ・台湾に関連していない場合、予備立件登録を請求する権利がなく、且つ商標に対する拒絶査定不服審判の行政訴訟の審理手続きは迅速に行われ、数か月以内に決定が下されていた。規定が公布されてから、引用商標の権利状態が不確定である場合、原告には12か月の予備登録期間が与えられる。この期間内に、引用商標の権利状態の変化により、案件の状況が変わることもあり、原告は権利救済を受けられる。
このことから、3年不使用取消審判を請求された引用商標に対する不服審判について、商標行政訴訟の予備立件登録の段階の変化によって、原告に引用商標に対する3年不使用取消審判の審理時間が多く与えられることがわかる。
3.まとめ
「手続きにおける無駄」という問題を解決するために、国家知識産権局は、商標の拒絶査定不服審判の審理手続きに、北京市識産権法院は、行政訴訟の予備立件登録制度に、いくつかの新たな規定を設けた。これらの新たな規定は、請求人(原告)にとって、拒絶査定不服審判及び行政訴訟手続きにおいて、引用商標の権利状態の変化により多くの時間を創出するのに有利になっている。
出典:
https://www.cnipa.gov.cn/art/2023/1/13/art_75_181410.html
https://sbj.cnipa.gov.cn/sbj/ssbj_gzdt/202306/t20230613_27700.html
https://bjzcfy.bjcourt.gov.cn/article/detail/2023/06/id/7353498.shtml