中国弁護士 于 博聞

前書き

法律意味上の「建築作品」とは、建築物又は構築物の形で表現される審美的意義を有する作品を指し、『著作権法』によって保護される。しかし、ランドマークは著作権の法的属性を有するほか、公共的属性も有している。実務では、ある地域性の特徴を際立たせるために、広告宣伝においてのポスター、会社のパンフレットに地元のランドマークの写真を使用したり、そのランドマークを対象として描画創作をしたりすることを好む企業は少なくない。最近、弊所は、北京の特色を代表できる「中国中央テレビ局本社ビル」(以下、「CCTVビル」という)を対象として略画を描いて、自社の北京におけるビジネス宣伝活動に使用する場合、どのような著作権問題に絡んでくるかというクライアント様からの問い合わせを受けた。本稿では、この法律問題に対して分析を行うが、ご参考いただければ幸いである。

1. ランドマークに関わる著作物の種類

ランドマークは都市又は地区の象徴的な意義を有する建築物であり、その外観は通常、著作権法上の独創性を有し、建築作品として保護されることができる。これはランドマークの最もよく見られる作品の種類である。しかし注意すべきなのは、ランドマークは建築作品に等しいではなく、建築作品を3D立体的な形式に表現されたキャリヤーのみである。『著作権法』第3条4項が保護するのは建築物ではなく、建築作品であり、たとえCCTVビル、シドニー・オペラハウスのような建築物であっても、CCTVビルの内部構造などのような全ての部分が著作権の保護範囲に属すわけではない。

典型的な「建築作品」のほか、ランドマークの前期の設計案及び施工過程における「施工、生産のために描かれた工事設計図」は単独で「図形作品」になる可能性がある。また、一部のランドマークの演繹作品、例えばランドマークが展示、試験又は観測などの用途に用いられるよう、物体の形状及び構造に基づき、一定の比例で作られた立体作品は「モデル作品」に該当する可能性もある。ランドマークを対象として撮影された写真は「撮影作品」に該当し、ランドマークに基づいて設計された「略画」、「効果図」の描画等は、独創性を有する場合、「美術作品」に該当する可能性がある。

2. ランドマークの権利侵害の種類

著作権の権利種類が商標権、特許権などの他の知的財産権より遥かに多く、且つランドマークに関わる作品の種類も多いため、その権利侵害の判断はわりに複雑である。よく見られる権利侵害の種類は以下のように挙げられる。

1) 平面→平面

たとえば、他人の図形作品の設計図面を直接複製し、または他人の建築の撮影作品又は略画などの美術作品を複製する。

2) 平面→立体

他人の建築作品の平面設計図面に反映される建築の外観造形に基づいて同一又は類似の建築物を建造し、または他人の効果図又は写真、鳥瞰図などに基づいて同一又は類似の建築物を建造する。

3) 立体→立体

建築物の外観造形などに基づいて他人の建築物と同一又は類似の建築物を直接複製し、又は他人の建築作品に基づいて模型を作る。

4) 立体→平面

建築物の外観造形に対する撮影又は録画行為、又は建築物の外観造形に基づいて描画を行うなど。建築物などの外観造形に対する上記の行為は、新たな創作を有する場合、演繹作品に該当する可能性もある。

上記のように、「CCTVビル」の略画自体は「CCTVビル」の独特の建築外観に基づいて創作されたものであり、建築作品「CCTVビル」に対する二次創作である。もしその二次創作が著作権法に規定される独創性を有する場合、略画自体は美術作品に該当し、法により保護される。

しかし、略画は建築作品の外観に基づいて創作されたものであり、建築作品の権利者はその作品を改変する権利を享有している。二次創作の著作者はオリジナル作品、すなわち建築作品「CCTVビル」の著作権を享有しておらず、建築作品の権利者の許可を得ていない場合、略画の創作及び使用は建築作品を改変する権利者の権利を侵害する可能性がある。

3.ランドマークの合理的使用制度

ランドマークの建築作品は通常、室外などの公共場所に設置され、公共的属性を有し、最高裁(2013)民提字第15号民事判決所には、室外に設置される彫刻作品の合理的使用制度を論述した。「室外の公共場所に設置された芸術作品は、室外環境の一部となっている可能性がある。社会公衆の模写などの活動について、著作権者の許可を得なければならないと要求する場合、明らかに公衆の自由に対する制限が厳しすぎ、且つ客観的に実現できないため、この種の芸術作品の著作権に対して一定の制限をすることは各国の慣例である。」

したがって、個人権利及び公共利益のバランスを取るため、現行の法律の枠組みの下で「合理的に使用する」制度が規定されている。『著作権法』第24条10項には、公共場所に設置又は陳列されている美術作品に対して、模写、描画、撮影又は録画する場合、著作権者の許可を必要とせず、著作権者に対して報酬を支払わないことができるが、著作者の氏名又は名称、著作物の名称を明示しなければならず、且つ著作権者のその他の合法的な権益を損なってはならないと規定されている。

中国全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会による著作権法の関連条項に関する立法解釈にも、次のような内容が記述されている。「著作権法に室外の公共場所に設置又は陳列されている美術作品に対して模写、描画、撮影、録画する場合、著作権者の許可を必要とせず、著作権者に対して報酬を支払わないことができると規定されているのは、主にこれら室外に設置又は陳列されている芸術作品自体が長期的な公共性及び公益性を有しており、室外の公共場所に設置又は陳列されている以上、他人に模写、描画されたり、背景として撮影、録画されたりすることを避けられないからである。」

つまり、ランドマークの使用方式が「模写、描画、撮影、録画」のいずれである場合、使用者は『著作権法』第24条の規定に基づいて合理的使用を主張することができる。司法実務及び関連判例によれば、筆者は「合理的使用」に該当するか否かを認定する際に、以下の要素も考慮しなければならないと考えている。

1) 使用時に著作権者の氏名、著作物の名称を明示したか
2) 使用目的が正当であるか
3) 使用方式が著作物の価値又は潜在市場に影響を与えたか
4) 使用方式が権利者の正常な使用(現在及び将来を含む)に影響を与えたか

上記のように、「CCTVビル」の略画は公共場所に設置又は陳列されている芸術作品に対する描画である。同時に、「最高裁による著作権民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第18条の規定によれば、『著作権法』第22条10項に規定している室外の公共場所の芸術作品とは、室外の社会公衆の活動場所に設置又は陳列されている彫刻、描画、書道などの芸術作品を指す。前項に定められる美術作品に対する模写、描画、撮影、録画する者は、その成果を合理的な方式及び範囲内で再使用することができ、権利侵害に該当しない。上記の法律規定によれば、「CCTVビル」の略画のような成果物の場合、創作者は同じく合理的な方式及び範囲内で再使用することができる。

合理的使用の使用目的は非商業目的に限られているかについて、著作権法には明確な規定がないため、実務においては一定の議論が存在している。しかし、最高裁が配布した「知的財産権裁判の機能を十分に発揮させ、社会主義文化の大きな発展・繁栄を推進し、経済の自主的協調的発展を促進する上での若干問題に関する意見」には、「技術イノベーション及びビジネス発展の促進に確かに必要な特別事情の下で、作品の使用行為の性質及び目的、使用された作品の性質、使用された部分の数量及び品質、使用行為が作品の潜在市場又は価値への影響などの要素を考慮し、その使用行為は作品の正常な使用と抵触がなく、著作権者の正当な利益を不合理に損なうこともなければ、合理的使用に該当すると認定できる。」と規定されている。

上記から分かるように、「CCTVビル」の略画がビジネス活動の開催場所を説明するためのものであれば、その使用行為は建築作品の正常な使用を損なうことがなく、権利者の正当な利益を侵害することもない場合、合理的使用に該当すると認定でき、単なるビジネス的な使用であるために合理的使用の適用を否定してはいけない。

また、著作権者の署名権を保護するために、合理的使用制度には、他人の著作物を使用する際に、著作者の氏名、著作物の名称を明示しなければならないと規定されている。しかし、この要求にも例外があり、『著作権法実施条例』第19条には、「他人の著作物を使用する際に、著作者の氏名、著作物の名称を明示しなければならない。しかし、当事者は別途に約定がある場合、又は著作物の使用方式の特性により明示できない場合を除く」と規定されている。

「著作物の使用方式の特性により明示できない場合」をどのように認定すべきかについて、現行法律には詳細に規定されていない。実務において、署名しないことができる場合は、主に1)業界の習慣。例えば、瀋氏と進財経営部との紛争事件「(2015)成知民初355号」において、裁判所は、被疑侵害製品に付けられている装飾ラベルが結婚式招待状に使用されるもので、著作者の氏名を明示できないと認定した。2)製品の特性。例えば、楊氏と武漢市のあるスーパーマーケットとの紛争事件「(2006)武知初字第120号」において、裁判所は、「ゴマ飴菓子の包装が包装の設計条件及び内容に制限され、彫刻作品の著作者の氏名及び著作物の名称を明示できない」と認定した。3)客観的な事実。例えば、郭氏と茶顔社との紛争事件「(2015)浙杭知終244号」において、裁判所は、茶顔社が係争著作物を使用した過程において、淘宝(タオバオ)店舗のカスタマーサービス用のアイコンの特性に制限され、署名できないため、署名権の侵害に該当しないと認定した。

勿論、本稿に検討されている合理的使用の対象は建築作品であり、もし使用行為に係る対象は、図形作品、美術作品のような建築に関わるその他の種類の作品、例えば、別のCCTVビルの略画を盗作又は複製した「CCTVビル」の略画である場合、『著作権法』第24条10項の規定を適用できない。

後書き

ランドマークは地域又は都市の象徴として、建築美学の独創的な表現方式及び奥深い文化的な意味合いを兼ね備えているだけでなく、著作権の保護を受ける数多くの作品の種類を含んている。ランドマークに関わる建築作品の問題について、全ての建築物が建築作品に該当するわけではなく、建築物のすべての部分が建築作品の保護範囲に属すわけでもないため、建築作品の使用に関わる案件を処理する場合、まず、使用対象である建築物が建築作品に該当するか、該当する場合の保護範囲を判断する必要がある。次に、多くのランドマークは一定の歴史を有し、すでに保護期間が満了した場合、その著作財産権は法律によって保護されなくなるため、建築作品の権利保護期間がすでに満了したかを判断する必要がある。最後に、合理的使用に該当する使用方式である場合、合理的使用を主張できるか否かをさらに判断することができる。

ランドマークに関わる建築作品は、図形作品、モデル作品、美術作品などとは、著作権法の異なる保護対象である。本稿は一部の状況のみに着目して検討したが、多くの場合、ケースバイケースで検討する必要がある。また、実務において、著作権だけでなく、商標権、意匠権、更に不正競争行為にも関わるので、それについて、本稿では論述しないことをご理解いただきたい。