北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 李 美燕

特許間接侵害とは、通常、行為者が実施した行為は他者特許への直接侵害にはならないものの、他者特許を実施するように第三者を誘導、勧誘、教唆、幇助して、直接の侵害行為を発生させたことを言う。中国の司法実務において、特許間接侵害に対しては、主に下記「特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈(二)」(以下、「解釈(二)」と言う。)第21条の規定が適用される。

【第21条】

「かかる製品が、特許の実施のために専用の材料、機器、部品、中間物などであることを知りながら、特許権者の許諾を得ずに、当該製品を業として他者に供給して、他者が特許権侵害行為を実施し、権利者は当該供給者の行為が民法典第1169条に掲げる侵害幇助行為に該当すると主張する場合、裁判所はその主張を認めなければならない。

かかる製品、方法に特許権が付与されたことを知りながら、特許権者の許諾を得ずに、業として他者を積極的に誘導して、他者が特許権侵害行為を実施し、権利者は当該誘導者の行為が民法典第1169条に掲げる侵害教唆行為に該当すると主張する場合、裁判所はその主張を認めなければならない。」

上記条文によれば、特許間接侵害は侵害幇助と侵害教唆に大別できるが、本稿では主に、侵害幇助の構成要件を検討する。「解釈(二)」及び中国の司法実務から、侵害幇助の構成要件は以下のとおり整理できる。

1.行為者は客観的に業として、特許の実施のために専用の材料、機器、部品、中間物などである専用品を他者に供給したこと。

この要件において、専用品であるか否かの判断は最も重要である。

材料、機器、部品、中間物などの専用品は、汎用品や慣用のものではなく、対象特許の発明実施用以外の合理的な経済用途及びビジネス用途を有しないものである。王本淼と中鉄上海工程局集団建築工程有限公司、華藍設計(集団)有限公司、佛山科新達建材有限公司などとの実用新案権侵害紛争事件(一審民事判決書:(2017)桂01民初872号)において、南寧市中等裁判所は、「本件の鋼製メッシュは中空床の部品としてしか使用できないが、王本淼は当該鋼製メッシュを用いて造られた中空床が必ず本件特許の権利範囲に属すことを示す証拠はなく、即ち、本件の鋼製メッシュが侵害品の製造にしか用いられないことを証明できないため、科新達社の行為は上述の規定に掲げる事由に該当せず、侵害幇助にならない」と認定した。

専用品であるか否かを判断する際に、かかる製品が対象特許の発明の実施において実質的な役割を有するか否か、即ち、材料、機器、部品または中間物などが対象特許の発明の実施には必要不可欠で重要な位置づけにあるか否かを考慮しなければならない。本末転倒及び権利範囲の不適切な拡大解釈を避けるべく、「必要不可欠で重要な位置づけにある」という判断基準の本質的な意味を正確に把握しなければならない。例えば、厦門普瑞特科技有限公司とAPS MANUFACTURING LTD.の特許権侵害紛争事件(二審民事判決書:(2017)閩民終1172号)において、福建省高等裁判所は、「APS社の特許は、感熱印刷装置におけるロール紙の着脱を便利にすることを目的とする、開放可能機構のチャンバー用ロック解除装置(以下、「筐体」という。)に関するものである。本件の型番PT488Aの製品及び型番PT485Aの製品は、開放可能機構のチャンバー用ロック解除装置、つまり、双方当事者が開廷審理時に言った「筐体」を含まないプリンタ本体である。プリンタ本体と筐体は組物であり、組み合わせて使用されるものである。プリンタ本体そのものは、筐体を製造するための材料、機器、部品、中間物などではなく、筐体と組み合わせて使用される関係である。また、プリンタ本体こそ、プリンタ製品のコア部品である。筐体はプリンタ本体より、プリンタ製品全体の価値に占める割合が小さい。仮に、型番PT488Aの製品、型番PT485Aのプリンタ本体に係る普瑞特社の製造、販売、販売の申出が、APS社の特許権への間接侵害に該当すると判断すると、組物のより肝心な構成部品にAPS社の特許権が及ぶこととなり、APS社特許の権利範囲を拡大することとなる。このように、普瑞特社が侵害幇助行為を実施したとしたAPS社の主張は事実及び法的根拠に欠けているため、一審裁判所はAPS社の主張を認めなかった。」とした。

2.行為者は、かかる製品が、特許の実施のために専用の材料、機器、部品、中間物などであることを主観的に知りながら、当該製品を製造したこと。

この要件は、①供給した製品が専用品であることを知っており、②この専用品を利用した行為が他者特許への侵害になることを知っている、という二重の意味を含むと言える。行為者が通常、同じく関連技術分野又は関連業界に属すため、通常、かかる製品が専用品であることを証明できれば、それが専用品であると行為者が知っていると認定できる。当該専用品を利用して実施した行為が他者特許への侵害になることを知っているかについては、司法実務において考察される場合は少ないが、特許が公報として公開されたためという理由だけで、他者特許への侵害になることを知っていると推定すべきではないという見方もある。

司法実務において、この主観的要件を満たさないとして侵害幇助にならないと認定された判例はほとんど見られない。一方、訴訟の前に行為者への警告書送付、交渉、調停などを行った場合には、「行為者がそれを知っている」との証明はしやすくなる。

3.他者が、供給された専用品を用いて、特許請求項の構成要件をすべて充足する行為を実施したこと。

「解釈(二)」の規定によれば、侵害幇助の成立に直接侵害の存在が要件となる。司法実務において、(2019)最高法知民終859号判決のように、この3つ目の要件を「直接侵害行為者は侵害行為の法的責任を負わなければならない」という解釈で運用した例がある。一方、実務において、被幇助者、つまり特許の直接実施者が侵害にならない場合がある。(2017)京民終454号判決において、北京市高等裁判所は、「特定の場合、特許を直接実施した行為者は「業としない」個人であるか、又は特許の直接実施行為は特許法第69条第3、4、5号に該当する。直接実施行為が特許侵害にならない場合、「間接侵害」行為者に民事責任を負担させないと、多くの通信、ソフトウェアの使用方法特許は、法律による有効・十分な保護が得られず、技術のイノベーションへの奨励及び権利者の適法な利益への保護を図る上で不利となる。」と判示した。

また、2018年7月に開催された第四回全国裁判所知財裁判活動会議では、中国最高裁判所の陶凱元副所長は、「特許分野における侵害幇助に関しては、被幇助者が特許侵害専用品を用いて特許請求項の構成要件をすべて充足する行為を実施したことは要件となるが、被幇助者の行為が法律上の直接侵害行為に該当することは要件ではなく、幇助者と被幇助者を共同被告として訴えることも求められない。」と指摘した。(2018)閩01民初1527号事件などの判決書にもこの見方が明記されている。

したがって、この要件を「被幇助者が特許侵害専用品を用いて特許請求項の構成要件をすべて充足する行為を実施したこと」として解釈でき、被幇助者が侵害になるか否かを考慮する必要はない。また、幇助者と被幇助者を共同被告にして訴えることも求められないため、特許権者としても、被幇助者が顧客又は潜在的な顧客であることで共同侵害訴訟を提起するかについて悩む必要はない。

以上より、特許間接侵害における侵害幇助の要件は上記3つである。このような紛争においては通常、かかる製品が専用品であるか否かということが最も重要な争点になる。実際のケースにおいて、特許のクレーム範囲を正確に把握した上で、その技術分野に対する理解、先行技術、及びあり得る他の形態などの立証により有効な主張を行うことが考えられる。

以上