北京魏啓学法律事務所
中国弁理士 王 雪

第4回改正後の「専利法」は2021年6月1日より施行されたが、残念ながら法改正に適応する「専利法実施細則」及び「専利審査指南」はまだ改訂中で、正式に発表されていない。2021年5月24日に、中国国家知識産権局(以下、「CNIPA」という)より「改正専利法の施行に係る審査業務の経過措置について」(以下、「経過措置」という)が発表されたが、そのうち、意匠に関して、「2021年6月1日から、被疑侵害者は改正専利法第66条に基づき、CNIPAに権利評価報告の発行を紙により申請することができる」及び「出願日が2021年5月31日(この日を含む)より前の意匠権の権利期間は10年とし、出願日から起算する」という内容のみが明確にされた。第4回専利法の改正により、部分意匠制度及び国内優先権制度が導入され、広く注目されているが、「経過措置」には、「出願人は部分意匠出願を行うことができる」、「国内優先権を主張することができる」、「CNIPAは改訂専利法実施細則の施行後に審査を行う」という三つの内容のみが明記されている。
 
部分意匠及び国内優先権に関する審査指南が発表されていない状況で、先願と後願とは、部分意匠と全体意匠との違いがある場合、そして国内優先権を主張する場合、どのように意匠出願をすればよいかは、出願人の最も関心の高い事項であろう。
 
以下において、具体的な状況についてそれぞれ説明するが、ご参考いただければ幸いである。

状況1 他国の先願は全体意匠であり、かつ優先日が2020年12月1日から2021年5月31日の間(中国の後願の出願日が2021年6月1日以降である)又は2021年6月1日以降である
  • 中国の後願は全体意匠である場合、優先権の主張が認められ、かつスムーズに審査に入ると考えられる。
  • 中国の後願は部分意匠で、後願と先願の図面に示される意匠が同一であり、部分のみ点線又は実線で表示する場合、同一の主題であると見なされる可能性が高いため、優先権の主張が認められる可能性は高い。ただし、改訂中の「専利法実施細則」が正式に施行されるまでに審査が行われないため、権利登録は遅らせることとなる。
状況2 他国の先願は部分意匠であり、かつ優先日が2020年12月1日から2021年5月31日の間(中国の後願の出願日が2021年6月1日以降である)又は2021年6月1日以降である
  • 中国の後願は全体意匠で、後願と先願の図面が示される意匠が同一であり、点線のみが実線に変更された場合、つまり保護を要する後願の全体意匠がすでに先願の図面ではっきり示される場合、優先権の主張が認められ、かつスムーズに審査に入ると考えられる。
旧法によれば、先願の部分意匠を後願で全体意匠として出願することは認められる。2020年6月1日より施行された第4回改正専利法には部分意匠制度が導入され、その内容から見れば、全体意匠に関する改正がないため、保護を要する後願の全体意匠がすでに先願の図面ではっきり示される場合、他国で出願された部分意匠の優先権を主張して中国で全体意匠として出願する場合、CNIPAに認められない可能性は極めて低い。
  • 中国の後願は部分意匠である場合、優先日が2021年6月1日以降に他国で出願された部分意匠の優先権を主張することができると考えられる。優先日が2020年12月1日から2021年5月31日の間である場合、優先権の主張が認められる可能も高いと思われるが、改訂中の「専利法実施細則」が正式に施行されるまでに審査が行われないため、権利登録は遅らせることとなる。
状況3 中国の先願は全体意匠であり、かつ優先日が2020年12月1日から2021年5月31日の間(中国の後願の出願日が2021年6月1日以降である)である
  • 中国の後願は全体意匠である場合、優先権が認められる可能は高いが、改訂中の「専利法実施細則」が正式に施行されるまでに審査が行われないため、権利登録も遅らせることとなる
  • 部分意匠制度及び国内優先権制度の両方も専利法の第4回改正で新たに追加された内容であり、かつ現時点、関連制度がまだ不明確であることを考慮し、中国の後願を部分意匠として出願することについて、慎重に取り扱う必要がある。
状況4 中国の先願は部分意匠であり、かつ優先日が2020年12月1日から2021年5月31日の間(中国の後願の出願日が2021年6月1日以降である)である

2021年6月1日までに公開したく、かつデザインのポイントが部分にある意匠について、一部の出願人は2020年12月1日から2021年5月31日の間に、部分意匠と全体意匠の両方とも同日に中国に出願し、2021年6月1日以降に、中国の先願の国内優先権を主張して部分意匠を出願することにした。この場合、優先権の主張が認められるか否か、現時点まだ定説はないが、デザインのポイントが部分にある意匠出願に対する大胆な試しにはなる。
 
状況5 中国の先願は全体意匠又は部分意匠であり、かつ優先日が2021年6月1日以降である。

より多くの類似意匠を保護したい場合、中国の先願の国内優先権を主張して後願を出願することが考えられる。国内優先権を主張する場合に注意すべきなのは、改訂中の「専利法実施細則」及び「専利審査指南」がまだ正式に発表されていない状況で、施行中の「専利法実施細則」第32条の特許出願及び実用新案出願の国内優先権を主張する関連規定によれば、中国の先願がすでに権利付与された場合、国内優先権主張の基礎とすることができない。国内優先権を主張した場合、その先願が取り下げるとみなされる。2020年12月にCNIPAが発表した「専利法実施細則改正案(意見募集稿)」にも、上述の国内優先権を主張して意匠出願を行う注意事項の関連規定がある。

また、中国に出願する先願と後願とは同じく部分意匠又は全体意匠でない場合、状況1と2の内容にご参考ください。
 

また、2021年8月3日に公表された「専利審査指南改正草案(意見募集稿)」には、部分意匠を表示する具体的な方法について、点線を用いて保護を求めようとする部分と求めない部分との境界線を表せることと、同一の物品にある物理的に分離した複数の部分意匠について、機能又は設計上の関連性を有し、かつ特定の視覚効果をもたらす場合、一つの意匠として出願できることとは明確にされた。ただし、現段階において、上述の状況がまだ不確実性があるため、多くの出願人は複数の出願を行うことによって、可能な不確実性を対応できるが、人的資源や知的資源を無駄にしてしまう恐れがある。CNIPAが一日も早く「専利法実施細則」及び「専利審査指南」を正式に発表することと、部分意匠出願及び国内優先権を主張して行った意匠出願の審査を開始することとは、切に期待されている。