北京林達劉知識産権代理事務所  
機械部 中国弁理士 瀋 顕華
 
特許(発明特許又は実用新案)出願過程において審査官に指摘された不備を解消する又は所望の保護範囲を取得するために、出願人は、出願書類、通常は請求項を補正することができる。これらの補正に対する制限は国によって異なるが、中国特許庁及び欧州特許庁の新規事項の追加に関する審査基準が最も厳しいと思われる。本稿は、中欧特許審査における補正手法の一部について検討する。
 
中国における一部の補正手法について

中国では、出願書類の補正は、当初の明細書及び請求項の記載範囲を越えてはならないと中国『特許法』第33条に規定されている。中国の審査官は、一時期的には発明特許の補正に対して非常に厳しくて、よく新規事項の追加に該当すると指摘した。審査官の指摘を反論する時、出願人は、明細書の記載した表現をそのまま請求項に盛り込むしかできない状況もよくある。

ただし、ここ数年、一部の補正に対する審査基準が徐々に緩和されてきた。詳細は以下幾つかの例を挙げて説明する。
 
1
補正根拠:
構成A、B、Cは当初の出願書類(明細書又は請求項)の同一の語句に記載されている。

補正手法:
構成B及びCを請求項に追加せずに、構成Aのみを請求項1に追加する。

結果:
審査官に認めされる可能性はあるが、新規事項の追加に該当すると指摘される可能性もある。理由としては、構成Aと関連する構成B及びCを請求項1に追加していない。ただし、このような補正は新規事項の追加に該当すると指摘される可能性が過去よりは低くなった。
 
2
補正根拠:
明細書にある具体的な実施例には、構成Aが開示され、且つ構成Aを更に限定する構成a1、a2及びa3を開示されている。

補正手法:
構成a1、a2及びa3を追加せずに、構成Aのみを請求項1に追加する。

結果:
当該補正は審査官に認められる可能性が高い。
 
3
補正根拠:
ある請求項には、構成A、B及びCが記載されている。また、当初の明細書には、Aはa1、a2またはa3から選択され、Bはb1、b2またはb3から選択され、Cはc1、c2又はc3から選択されることが開示されている。

補正手法:
クレーム発明がA、B、Cの下位概念の具体的な組合せとなるように構成A、B、Cを更に限定することができる。例えば、組み合わせとして、a1+b1+c1とか、a2+b3+c1)とかに限定する補正は可能である。

結果:
構成A、B、C及びその具体的な下位概念が機械分野または電気・電子分野のものである場合、下位概念の具体的な組み合わせへの補正は通常認められる。構成A、B、C及びその具体的な下位概念が化学物質である場合も、上記の補正が審査官に認められる可能性は高い。構成A、B、Cが同一のマーカッシュ一般式における3つの要素である場合も同様である。
 
以上は、審査官に認められる可能性のある幾つかの補正手法をご紹介した。出願人は出願過程にこれらの補正手法でチャレンジすることができる。ただし、これらの補正は、必ずしも審査官に認められることではない。新規事項の追加について、中国の審査官はある程度の自由裁量権をゆうするため、一部の審査官は上記の補正手法に慎重な態度を取るかもしれない。
 
そして、以下のような補正手法は中国の審査官に認められにくいから、ぜひご注意いただきたい。
 
4
補正根拠
構成aが 当初の出願書類に記載されている。

補正手法:
構成aをその上位概念であるAに補正する。例えば、aは信号の位相差であり、補正された構成Aは誤差である。しかも、Aはaの上位概念である。

結果:
追加した構成Aは新規事項の追加に該当すると指摘されやすい。
 
5
補正根拠
実施例1には、構成AとBが記載され、実施例2には、構成CとDがある。当初の出願書類には、実施例1と2の構成の組み合わせた方法について明確的に記載されていない。

補正手法:
異なる実施例の構成を組み合わせることにより、構成(A+D)、(A+C+D)、又は(B+C)を追加する。

結果:
新規事項の追加に該当すると判断されやすい。
ここにご注意いただきたいのは、明細書に「本願発明は、異なる実施例/発明の任意の組み合わせであってもよい」というような記載があっても通常、補正の根拠であると認定されない。上記の状況を対応するために、出願書類に異なる実施例の構成の具体的な組み合わせ形態を明確的に記載する必要があると思われる。
 
欧州において一部の補正手法について

中国『特許法』第33条に対し、欧州特許庁の新規事項の追加に該当するか否かについて判断する根拠は、EPC 123条(2)であり、つまり、当初の出願書類に記載した範囲を越えてはならない。この法律規定だけから、中国特許庁と欧州特許庁の新規事項の追加に関する判断基準の相違点は読み取れにくい。中国における新規事項の追加に関する審査基準が世界中に最も厳しいと出願人に容易に思われるが、実際には、欧州特許庁の審査基準はある意味で中国特許庁より更に厳しい。

例えば、例3のように組み合わせの選択に関わる補正手法に対し、特にそのうちの化学物質類(マーカッシュ・クレーム)に関する補正は、欧州特許庁に認められにくい。

また、例1の補正手法に対し、追加された構成Aは構成B、Cと関連性がないと充分に説明できない場合、構成Aのみを追加することは、新規事項の追加であると欧州特許庁に指摘されやすい。例2の補正手法に対し、構成a1、a2とa3を追加せずに、構成Aのみを追加するという補正も同じく、新規事項の追加に該当すると欧州特許庁に指摘されやすい。

欧州特許庁の補正に関する厳しい審査基準に対応するために、出願人が事前に具体的な下位概念を出願書類に記載したほうがよいと思われる。

例えば、例3の場合、具体的な組み合わせ形態(a1、b1、c1)、(a2、b3、c1)などを出願書類に明確的に記載したほうがよい。

例1について、構成Aは、構成B、Cと緊密な関連性がないと出願書類に説明し、構成Aの技術に関わる単独記載の部分を追加したほうがよい。

例2について、構成Aと「A、a1、a2とa3」に関わる2つの組み合わせをそれぞれ単独で記載したほうがよい。

一方、例4と例5について、欧州特許庁と中国特許庁の審査基準はほぼ同じであり、このような補正はいずれも容易に認めるものではない。また、欧州の出願書類には、マルチのマルチクレームの記載がよくある。理由としては、一つは、コストの節約で、もう一つは、異なる構成をできるだけ多いに組み合わせすることを実現するためである。
 
終わり
纏めると、本文は、中国と欧州において出願書類の一部の補正が認められるか否かをめぐって、初歩的な研究・検討を行った。中国にも欧州にも移行する予定の特許出願については、中欧の補正に関する一番厳しい審査基準に従って出願書類を作成することが考えられる。これによって、将来の出願段階においてあり得る補正を事前に十分な準備をしておくことができる。