北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 中国弁理士
閻 宇 (Yu YAN)
中国弁護士 中国弁理士
閻 宇 (Yu YAN)
中国経済の迅速な発展に伴い、中国の特許出願件数および特許保有数が大幅に増加し、権利行使の意識も高まっていることを背景に、特許侵害訴訟数も年々増えている。また、近年では、巨額の損害賠償を認めた特許侵害判例もいくつかあり、法的手段を通じて特許紛争の解決を図る企業や個人はますます多くなっている。特許侵害訴訟が提起された場合、公知技術の抗弁及び特許の無効審判請求は、特許権者に対抗する手段として、被告に多く利用されている。
特許の無効審判及び侵害訴訟において、刊行物公知のみでは証明責任を達成できない場合も少なくない。特に、中国の実用新案出願は実体審査がないため、出願人が、公然実施された公知技術であることを知りながら、実用新案出願して登録を受けた場合があり、当事者は時には、その技術が公然実施により公知技術になったことを証明せざるを得ない。
一方、公然実施の判断は、特許無効審判及び侵害訴訟における難題である。刊行物公知に比べて、公然実施の証拠収集は困難である。公然実施の年月はほとんど、証拠収集時よりだいぶ前であり、無効審判請求及び侵害訴訟の発生時までは何年間も経ったので、時間の経過に伴って、関連する証拠がなくなった場合は多い。その結果、当事者双方とも証拠収集及び立証が影響され、十分な証拠を提示することはなかなか困難である。また、公然実施の証拠は通常、資料が繁雑で、要証事実が相互に交差し、その信ぴょう性、公知性及び証拠群の完全性は判断し難い。さらに、実施行為の多様性及び複雑性の関係で、各種の実施行為の法的属性は容易に判定できず、その公知性の判断も難しい。したがって、出願前の公然実施をどのように証明すべきか、その証明基準をどのように把握するかは重要な課題となっている。
I.特許法上の公然実施
公然実施とは、実施により発明が公然知られているか、又は公然知り得る状態となったことを意味する。中国において、中国特許法の第三回法改正(2009年10月1日から実施)以前は、公然実施は国内主義を採用していたが、上記法改正後に出願されたものについては、公然実施も世界主義となっている。
中国特許審査基準によれば、公然実施の形態として、技術内容が公然知り得るようになる製造、使用、販売、輸入、交換、贈呈、実演、展示等が挙げられる。上述の手段によりその技術内容が公然知り得る状態となれば、実際に公然知られているかを問わず、公然実施に該当する。ただし、技術内容に関する説明が一切なく、当業者がその構造や機能、または材料の成分を知り得ない製品展示は、公然実施に該当しない。
公然実施されたものが製品である場合、その製品は、分解してから初めて構造や機能を把握できるものであっても、公然実施に該当する。さらに、公然実施は、ポスターやドローイング、写真、サンプルなど、展示ブースやショーウィンドウに置かれた、公衆が閲覧可能な情報資料なども含む。
II. 公然実施の証明基準
現行審査基準には、無効審判における証明基準について明確な定めはないが、「本基準に定めがないものは、裁判所の民事訴訟における関係規定を参照することができる」との記載はある。中国の民事訴訟は、高い蓋然性という証明基準を採用している。すなわち、ある事実に関する証拠による証明が十分に確実であるとはいえない場合、一方の当事者が提出した証拠は、要証事実が発生した蓋然性は高いことを証明できれば、裁判所はこの事実を認定できる。
公然実施の事実が出願日より前に発生したものであるため、当事者の証拠が「完璧」にはならず、一方の当事者が相手当事者の証拠を疑う場合が多い。公然実施に係る無効審判請求の審決からすれば、この場合、審判官は通常、その証拠の信ぴょう性を否定できる十分な反証があるかによって、その証拠により証明される事実が存在する蓋然性を判断する。
例えば、第WX14848号審決において、「公然実施を証明するための複数の証拠は、案件の状況に応じて総合的に審査して判断しなければならない。上記複数の証拠はいずれも、同じ事実につながり、かつ、この事実が存在する蓋然性はこの事実の存在を否定する蓋然性より高いことを証明した場合、上記複数の証拠及びこれらにより証明される事実は確認できる。」と判断された。
第26920号審決において、「本件において、上述の証人は、異なる国で、異なる職業を行っているが、かかる事実に関する陳述は一致している。証人証言及びこれに対応する他の証拠から、要証事実が存在する蓋然性は高いと確信できる。反証がなければ、これらの証拠は互いに裏付けられ、かかる技術が外国の展示会で開示されて本件特許の先行技術となることを証明している。」と判断された。
第28806号審決において、「請求人が提出した証拠の発行者は請求人と一定の利害関係を持っているが、この発行者は上記証拠に係る製品の製造者であり、上記証拠の最初の作成者でもあるため、請求人が上記発行者のところから上記証拠を入手することは合理性がある。また、上記証拠は特に修正の跡がなく、他の証拠と互いに裏付けられ、明らかな不備がなく、特許権者も上記証拠について異論を示していない。高い蓋然性という証拠の原則から、上記証拠の信ぴょう性を認めることができる。」と判断された。
高い蓋然性という基準は、裁判所の判決においても多く見られる。一方、「合理的な疑いを差し挟む余地がない」というより厳しい基準を採用したケースもある。例えば、(2017)京行終1580号判決において、「販売日の推定は、資料1の飲料が公然販売されていない可能性を十分に否定できない。資料1を採用すれば、特許権者は救済の機会がなくなる。一方、特許無効審判は、請求人の請求回数を制限しない。したがって、双方の利益のバランスを取る観点から、当該証拠を採用しない。」と判断された。しかし、全体的に言えば、裁判所はやはり、高い蓋然性という基準を主として採用している。
III. 証明責任の分配
証明責任の分配について、中国の審査基準には原則的な定めがある。全体的には、「主張する側が証明する」という原則が採用されている。すなわち、当事者は、自らの主張を裏付ける事実、又は相手側の主張を否定する根拠となる事実について、証拠を提出して証明する責任を負う。
実例からすれば、無効審判における証明責任の分配は通常、公然実施の証明について、無効審判請求人が公然実施の事実を示す完全な証拠群を提出する責任を負い、特許権者が証拠について疑問を示すことができ、さらに反証を提出してその証拠群を否定することもできるというルールを採用している。証明責任の転嫁について、審判官及び裁判官は事実存在の蓋然性を判断した上で自由裁量できる。
例えば、(2017)京73行初6328号判決において、「無効審判請求人として、原告はその無効審判請求について証明責任を負う。そして、この証明責任を果たした場合のみ、証明責任は相手当事者へ転嫁される。」と判断された。
ただし、公然実施者が特許権者自身又はその関連者である場合、通常、特許権者はより多くの証明責任を負うと判断される。例えば、第24002号審決において、「特許権者と高鳥社との関連性から、特許権者が上記関連証拠を提出できると考えられる。・・・かかる反証を提出しなかった特許権者は、立証不能による不利益を負わなければならない。」と判断された。第39785号審決において、「特許権者が実際に当該製品のメーカーであることを示す証拠があり、特許権者が当該製品のことについてより強い立証能力を有すると考えられる。したがって、特許権者は当該製品が出願前に公然販売されていないと主張するか、又は当該製品が実際に出願後に更新された型式であり、かつ、当該製品の更新が請求項の構成要件に関わると主張する場合、この主張に係る証明責任を負い、証明力を持つ反証を提出すべきである。特許権者は証明力を持つ反証を提出しなければ、これによる不利益を負わなければならない。」と判断された。
瑕疵がある証拠について、当事者双方とも十分な証拠により証明又は否定しなかった場合、どのように認定するかは通常、審判官又は裁判官による証明責任の分配で決定される。例えば、第28694号審決において、公然実施が無効審判請求より13年前のことであり、長い期間も経過し、証拠収集がかなり難しいことと、輸入行為が複雑であることを勘案した結果、審判官は「本件において、要証事実の各部分の証拠は論理上の関連性を有し、互いに裏付けられるものであれば、若干の瑕疵があっても、完全な証拠群を形成したと考えられる。」とした。また、(2017)浙民終160号侵害訴訟判決において、裁判所は、「当事者各方が提出した証拠はいずれも、高い蓋然性を有するほどの証明力を持っておらず、公知技術の抗弁を主張した当事者側は、証明責任を果たすための完全な証拠群を構築できなかったので、立証不能による不利益を負う」と判断した。
IV. 公然実施の証明事項及び事例
公然実施は行為の形態が多く、製品の種類、用途が様々であるため、証明に必要な証拠もケースバイケースである。無効審判及び公知技術の抗弁の事例からすれば、公然実施の信ぴょう性及び公知性を証明するには、下記3つの証明が必要になる。
①出願前に公然実施された事実(公然実施日が特許の出願日より前であることを証明するため)
②公然実施の事実が特許法上の公知に該当すること(公然実施の事実により、その発明が公然知り得る状態となったことを証明するため)
③公然実施により公知になった発明(特許発明と比較するため)
さらに、公然実施に係る証拠の信ぴょう性を証明するためには公証が必要になり、外国証拠の場合には公証及び認証が必要になる。上記3つの証明事項のいずれか1つ以上が証明できない場合には通常、公然実施の証拠は認められない。公然実施の証拠が認められることを前提に、公然実施により公知になった発明と、対象特許のクレーム発明とを対比分析することができる。
実例からすれば、無効審判及び公知技術の抗弁における公然実施の証拠において、公然販売は約80%で最も多く、その次は公然使用で約15%である。意匠の場合、公然展示の証拠を用いたケースも多い。一方、製造、交換、贈呈等は通常、公然行われる行為ではないため、このような行為により公然知り得るようになることは証明し難い。輸入の場合、輸入行為自体では、輸入品の技術が公然知り得る状態となったとはいえないので、通常、他の証拠との組み合わせによりその公知性を証明する必要がある。公然実施の形態によって、上記3つの証明事項は重きが若干異なるが、全体的にはほぼ同様である。次に、公然販売を例に、上記証明事項の詳細について説明する。
公然販売は公然実施の中で最も一般的な形態である。日常生活の消費品なら、誰でも購入により入手できる。かかる製品が対象特許の出願前に公然販売により公知になったことを証明できれば、通常、かかる技術は公然知り得る状態となったと認定できる。一方、無効審判請求や公知技術の抗弁のために証明しようとする公然販売は通常、証拠収集より前に発生した行為であるため、公然販売の年月日、販売の公知性、販売により公知となった技術の中身等は容易に確認できるものではない。
1.公然販売の年月日について
公然販売の年月日をどのように判断すべきかについて、まだ決まった運用はない。以前の無効審判請求の審決第146号(1991年)及び第186号(1991年)では、製品の製造がまだ完成していなくても、販売の広告も公然実施の販売行為に該当すると判断された。しかし、公然実施の要件によれば、一般公衆が確実にその製品を入手したことまでの証明は必須ではないが、製品が公然入手可能な状態であることは確認する必要がある。製造がまだ完成していない製品を、公然入手可能なものとして認定することは合理的であるとはいえない。
一般的には、公然販売は少なくとも、(1)製品の製造が完成しており、(2)製品が実際に公然購入可能な状態であるという要件を満足する必要がある。このような要件に照らして判断すれば、製品が製造されたことを前提に、売主が販売の申立、販売の広告を行い、買主が支払い済で、売主が納品していない場合、売買契約が締結済でまだ履行されていない場合、売買双方が契約の協議を行った場合などは、公然販売を行ったとみなすことができる。実際においては、製品販売開始の年月日を証明することはしばしば困難であるのに対して、具体的な取引に関する契約、納品等の証明は比較的容易であるため、公然販売が認められた実例では後者の証明のほうが多かった。
公然販売に係る無効審判例からすれば、製造済の証拠だけでは、その製品が実際に公然入手可能な状態となったことを証明するには不十分である。多くの無効審判請求の審決において、製品における年月日は、公知になった日ではなく、製造日のみ示していると判断された。例えば、第30201号審決において、電子部品上の「0548」という表示が、2005年の48週目に製造されたことを意味すると認めても、この部品の製造日が分かるにすぎず、販売等により公知になった日も2005年の48週目であるとは判断できないと判断された。また、第32916号審決において、製品のラベルに表示された工場出荷日は公然実施を証明できず、他の証拠による裏付けがなければ、製品のラベルに表示された工場出荷日では公知日は確認できないと判断された。さらに、(2014)高行終字第666号、(2012)一中知行初字第2621号判決においても、銘板又は金型における年月日は製造日にすぎず、製品が初めて公知になった日の証明にならないと判断された。
製造日から公然販売日を合理的に推知できる製品について、審判官と裁判官の判断は同じではない。第201330547958号中国意匠登録の無効審判において、公然販売された飲料製品が証拠として提出された。かかる飲料製品の公証付き購入は、本件意匠の出願後であったが、製品に印刷された製造日は本件意匠の出願日より前である。審判官は、飲料の場合、製造から販売までは通常3ヶ月以内であり、企業のコスト、資本回転、収益等の観点から、メーカーが通常、製品の製造後に倉庫で賞味期限まで貯蔵するのではなく、直ちに販売するのを希望しているとして、販売日が本件意匠の出願日より前であると考えられるとした。しかし、本件の審決取消訴訟の一審及び二審において、裁判官は、本件に係る製品は飲料類の商品として賞味期間が短く、製造後に直ちに販売される可能性は高いことを認めながら、本件飲料製品が長期間在庫された可能性は否定できず、本件飲料製品が本件意匠の出願前に実際に公然入手可能な状態となったことは証明できないとした。
公然実施が認められた事例からすれば、公知になった日を確認するために、販売契約、発票(領収書)、納品書、受領書等の一連の証拠により、取引完了日を証明する必要がある。例えば、第36164号審決において、売買双方の当事者間の取引が「2008-6-18」(納品書に記載の年月日)から「2008年07月07日」(発票に記載の「発行日」)後の一定期間内に完了すると考えられ、一般の商慣習から、取引完了日が本件特許の優先日より前であると推定できると判断された。一方、第35484号審決では、增値税発票に関する規定によれば、增値税発票は売上を確認する時点で発行され、販売行為の完了を示していると判断された。
したがって、製品の公然販売を証明するために、その製品が特許の出願前に製造されたことを示す証拠に加えて、製品が実際に「公然入手可能な状態」となったことを示す証拠も必要である。特に、売買契約、代金の支払い、製品の納入等に関する証拠を調べるべきである。このような証拠がなく、「公然入手可能」との推測だけでは、裁判官に認められないおそれがある。
2.特許法上の公然販売について
例えば製造機械のような製品の場合、需要者は一般公衆ではなく、製品は購入者の特別な要求に基づいて供給されることもある。このような製品の実施においては、実施者は管理の便宜上やその他の観点から、製品に接し得る者を特定者又は少数者に限定する場合が多い。この場合、公然実施に該当するかについて議論の余地がある。一方、製品が公然販売されていれば、発明が公然知られているというわけではない。例えば、コカコーラは百年以上も公然販売されているが、そのレシピは今でも秘密であるため、公然知られているとはいえない。販売の形態が多種多様であり、一般消費者向けの販売の他、秘密保持義務付きの販売、試用販売、発明の詳細を開示しない販売等の形態もある。販売形態によって、発明が公知にならない可能性もある。特許法上の公然販売になるかを判断する際に、主に以下の観点から考察すべきである。
(1)特定者への販売か
あらゆる人や多数者向けの販売でなくても、特定者向けの販売でなければ、特許法上の公然販売になり得る。
実際において、公然販売される製品の入手は、例えば、高い価格、会員登録、何らかの資格やスキルなどの人為的又は客観的な条件により制限されることがある。場合によっては、製品が極めて高価であったり、技術が非常に先端であったりすることで、購入者や需要者が非常に少なく、極端の場合には世界中で買主が一人しかいない可能性もある。にもかかわらず、その技術の入手者は秘密保持義務を負わなければ、人為的又は客観的な条件による制限自体から「特定者」になることはない。
「特定者」という概念は、中国特許法及び審査基準には明確に記載されていない。しかし、中国特許審査基準第二部第三章には、「公知技術」に関して、秘密保持状態に置かれている技術は公知技術ではなく、すなわち、秘密保持義務を負う者が知っているノウハウは公然知り得る技術ではない、という規定がある。この規定を背景に、無効審判請求の審決及び裁判所の判決において、「特定者」はよく、その技術について「秘密保持義務を負う」者を指す言葉として、一般の「公衆」と区別して用いられている。
実例からすれば、普通の販売契約における営業秘密の保持、知的財産権に関する一般規定では、買主が秘密保持義務を負う「特定者」になるとは限らず、具体的な商慣習などからケースバイケースで判断されるのが一般的である。例えば、第31002号審決において、「反証に係る販売契約は方式上、普通の販売契約の典型的な特徴を有する一般契約である。特許権者が主張した同契約中の秘密保持規定は実質上、買主が特許権者の許諾なしに、当該上止機の偽造や模倣を意図する第三者に便宜を提供することを禁止するものである。一方、偽造や模倣を意図しない一般公衆がこの機器を入手したり、把握したりすることに関する制限はない。この規定は実質上、この機器の販売が秘密保持義務付きの販売又は特定向け販売であることを示していない。」と判断された。
第33727号審決において、「上記秘密保持契約から、買主は任意の公衆ではなく、売主と秘密保持契約を結んだ、秘密保持義務を負う特定者であることが分かる。かかる契約の存続期間、つまり本件特許の出願日までは、買主が当該篩分機の技術について秘密保持義務を負い、その購入及び使用は特許法上の公然実施ではない。」と判断された。
(2015)蘇知民終字第84号判決において、「審判委員会及び北京の一、二審裁判所による確定行政判決で認定されたように、本件関係製品の販売が特定範囲の特定者の間で発生され、双方が秘密保持契約を結んでおり、製品の研究開発において、製品の性能が約定の設計要求を満足できるかを確認するために行った試験、試作は、特許法上の公然実施にならない。」と判断された。
第33727号審決において、「上記機器の「売買契約」及び関連する「秘密保持契約」からすれば、売買契約関係は特許出願日より前に形成されたが、契約関係は特定者の間で形成されているため、一般向けの公然販売ではなく、特許法上の一般公衆向けの公然販売に該当しない」、「契約双方の口頭による約定か、後に追加される書面での「秘密保持契約」かを問わず、契約の相手方が一定の秘密保持義務を負うことを反映できる」と判断された。
第9850号審決において、「秘密保持義務を負う者が規定に違反してノウハウを漏洩したことを示す証拠はあるが、このようなノウハウの漏洩により上記発明が公然知り得る状態となったことを示す証拠がなければ、上記発明が公然実施された証明にはならない。」と判断された。
(2)販売により技術の詳細が開示されたか
意匠の場合、意匠に係る製品が公然販売されていれば、その意匠は公然知られていると考えられる。製品の構造に係る発明特許や実用新案の場合、製品が公然販売されると、一般公衆はその製品を任意に入手でき、そして観察、分解、解析、ひいては製品破壊などの手段により製品の技術内容を把握することができる。一方、化学成分、材料、方法等に関する発明特許の場合、状況は複雑になるが、通常、当業者が本件特許の出願前にすでに当業界で知られた測定方法により測定できるものも、公知技術になると考えられる。
(2018)蘇民再167号侵害訴訟における公知技術の抗弁について、特許権者は、「かかる機器は使用時に高温閉鎖状態となり、機器を開放するには、電源を切ってから1日後に専門担当者が専用ツールで分解する必要があること、及び、病院は裁判所の調査命令があっても、プライバシー問題や患者治療上の不都合などを理由に協力しなかったことから、当該機器の実際の使用において、かかる技術は公知になっておらず、秘密保持状態で隠されていることが分かる」と主張した。この主張について、裁判所は、「病院による機器の使用では、かかる技術は公知にならないが、本件の公証文書2件をメインとする証拠により証明された公然実施形態は使用行為ではなく、販売行為である。製品が公然販売されれば、公衆はこの製品を任意に入手でき、観察、分解、分析、解析、ひいては製品破壊などの手段によりその技術内容を知ることができる。このように公然知り得る状態は、ただの「可能性」ではなく、実際に存在するため、公知になるといえる。このような状態の存在は、公衆が実際に入手したことを条件としない。したがって、販売された機器の使用中にその技術内容を知ることが困難であるとの理由により、公然販売行為自体によってその技術内容が公然知り得る状態となったことを否定することはできない。」と判示した。
第21569号審決において、「証拠となるセラミックボールは出願前の市販購入により入手されたものであり、その化学成分は当業者が本件特許の出願前にすでに当業界で知られた測定方法により測定できるため、上記セラミックボールの化学成分は本件特許の公知技術に該当する。」と判断された。
(3)地域要件を満足するか
出願日又は優先日が2009年10月より前の特許の場合、公然実施は国内主義である。公然販売について、中国において行われた販売であっても、その技術が販売により中国において公知になっていなければ、中国特許法上の国内公然実施に該当しない。
例えば、(2009)一中行初字第335号判決において、裁判所は「かかる製品は、本件特許の出願前に国内で製造され、販売契約も国内で締結され、初期の納品検査も国内で行われたが、貨物輸送により直接海外へ販売されたので、製品の製造及び梱包は工場内で行われたと考えられる。通常、メーカーは市場競争及び安全管理の観点から、不特定の公衆が工場に任意に出入りすることを許さず、製品の製造過程は不特定の公衆が知り得る状態ではない。また、上記製品が国内で公然展示・販売されたことを示す証拠はない。」として、これが中国国内での公然実施に該当しないとした第12277号審決の判断を採用した。
3.販売により公知になった技術の中身の判断について
実例において、「公然販売」された製品の具体的な構造及び/又は組成を示す証拠は、事後的に収集された現物である場合が多く、「公然販売」の証拠に示される公然販売された製品と一致するかということもしばしば争点になる。
現物証拠と販売行為の対象となった物との関連性を示すには、販売契約における型番、製品名、納入日等の情報が現物証拠に反映されることは必要である。実務において、製品の銘板などからその情報を確認できるが、構造等を証明するための現物の型番と、販売契約や発票に記載の型番とが一致することは証拠により確認できなければ、このような証拠は通常認められない。例えば、第28015号審決において、「証拠1は、岳の家にハイアールのエアコンが1台あることを示し、証拠1に係るハイアールのエアコン本体内のラベルは、当該エアコンの型番がKFR-32GW/Z1であることを示している。証拠3-1の発票は、岳が2005年12月22日にハイアールのエアコンを1台購入したことを示しているが、上記発票の製品名・仕様欄には「ハイアールエアコン」しか記載されておらず、製品の仕様や型番等の詳細は記載されていない。よって、上記発票に係るエアコンは、証拠1に係るエアコンであることは確認できない。」と判断された。
実例からすれば、出願前に公然販売された製品について、現物の公証を出願後に行った場合、現物と、前に販売された製品とが同じか、現物に改造がないか、部品の交換がないかを確認すべきである。改造又は部品交換が行われた蓋然性は高いと判断された場合、請求人・被告はより多くの証明責任を負うが、そうでない場合、特許権者・原告はより多くの証明責任を負う。
大型設備の場合には通常、交換された可能性が低く、部品の交換があっても、全体の構造には影響が及ばないと判断される。例えば、第29118号審決において、審判官は2005年に建築された病棟に用いられた手すりなどの施設は壊れやすいものではなく、特許出願前に普通は交換されないとして、請求人に対して、設備に搭載された技術が変わっていないことを示す証拠の提出を求めなかった。また、(2018)京行終1621号判決において、「請求人が提出した本件自動断裁機の各部材の写真から、刃部に取り外しや交換の跡は特に観察されなかった。また、自動断裁機は大型機械設備であり、本件の二重研削刃ユニットは単一の部材ではなく、複雑な接続関係を持つ複数の部材からなるものである。したがって、反証がなければ、交換された可能性は低いと判断できる。また、本件審決及び原審判決において採用された公知技術は、自動断裁機の単一の消耗部品ではなく、刃固定軸ユニットである。このように複雑な接続関係を有する大型機械設備の場合、消耗部品を交換しても、この設備の基本設計に適合するのが一般的であるため、単一の消耗部品の交換は、構成全体の変化につながらない。」と判断された。
一方、小型設備の場合、特に発明が部品に関する場合、請求人がより多くの証明責任を負うと判断される可能性がある。例えば、(2010)高行終字第396号判決において、「現物において、本件特許請求項1の回路構造に対応する内部回路基板は、スロットに挿入するものであり、交換可能である。そのため、上記証拠から、実華社が提出した資料5の現物の内部回路基板が交換されたかは確認できず、つまり、この内部回路基板の公知日とこの現物全体の販売日との対応性は確認できない。」と判断された。
また、出願前に販売された製品の構造を、出願後に購入した同じ型番の製品により証明できるかについては、このような立証が認められた例と、認められなかった例ともあるが、通常、製品の型番と製品の構造が一対一の対応関係を有する場合、後に購入する同じ型番の製品により、前に販売された製品の構造を証明することができる。一方、その型番が実際に複数種の構造に対応する場合、前に販売された製品の構造を証明することはできない。
例えば、(2018)京73行初6082号無効審判審決取消事件において、裁判所は、「証拠16のLED無線誘導灯は2017年(本件の特許優先日より4年後)に購入されたものであるが、企業の製品製造サイクルを考えると、このLED無線誘導灯に用いられたチップは発売が2017年よりだいぶ前であると考えられる。証拠16のLED無線誘導灯におけるセンサ及びチップには、メーカー及び製造日等の情報はないが、センサ及びチップは体積が小さいので、センサ又はチップにメーカー及び製造日等の情報を完全に表示することは常識に合わない。通常、開発の番号分類及び販売の統一のために、同じ型番の集積回路ウエハ製品は同じ構成を有するのが一般的であり、製品に大幅な改良が行われた場合、その型番も通常変わる。証拠16のLED無線誘導灯から取り出したウエハの型番と、本件特許の優先日より前にELMOS社が販売したウエハE910.97Aとは一致する。また、ELMOS社は十分な反証を提出していない。よって、証拠16のLED無線誘導灯から取り出したウエハは本件特許の優先日より前にELMOS社が販売したウエハE910.97Aであると認定できる。」とした。
第27858号審決において、「慣行によれば、製品の型番は購入者の認識の便宜上、製品の構造を表すものである。そのため、同一の製品型番は同じ製品構造に対応するのが一般的であり、特許権者は本件製品のテープ供給装置に適用した構造が複数種あったと主張したが、特許権者の提出した上記反証の現物だけでは、この主張は裏付けられていない。」と判断された。
一方、同じ型番で異なるバッチのディスプレイについて、(2016)京73行初3654号判決では、「同じ型番で異なるバッチのディスプレイは、ユーザーガイドは同じであるが、迅速着脱用の内部機械構造は異なる可能性がある。つまり、ユーザーガイドと迅速着脱用の内部機械構造は必然的な一対一の対応関係を有するとは限らない。証拠6の公証文書によれば、当該型番のディスプレイの製造年月は2015年8月であり、後である。証拠7のユーザーガイドは、本件特許の出願日より前の2014年10月に公開されたが、HP液晶ディスプレイZ24sが2014年に販売されたことしか証明できず、2014年のHP液晶ディスプレイZ24sと証拠6のディスプレイとの迅速着脱用の内部機械構造が全く同じであることは証明できない。」と判断された。
第27946号審決において、「本件特許の出願日より前に、昌達公司製電気ゴンドラ用ホイストZLP630は公然販売の状態となった。しかし、特許権者の提出した証拠によれば、「ZLP630」は、特定のメーカー製の特定型番の製品ではなく、「補修機械類である定格荷重630kgのゴンドラ」を意味し、当業界の一般名であることが分かる。上記型番のゴンドラ用ホイストは、メーカーによって、構造や技術の構成が異なると考えられる。したがって、上記公然販売されたZLP630ホイストがどのような構成を採用したかは確認できない。」と判断された。
V.まとめ
無効審判請求や公知技術の抗弁において公然実施の証拠を使用する場合、公然実施の事実を十分に証明できる完全な証拠群を提出する必要がある。しかし、多くの場合、公然実施の事実はだいぶ前のことであり、その情報及び証拠の入手は困難である。特に、食品、医薬品、試薬など、使用期限が短く、変化しやすい化学製品や、使用に伴って性質が変わる材料等の製品の場合、前に販売された製品の構造や組成を、事後的に収集する証拠により証明することは難しい。このような製品を扱う企業としては、他社から冒認出願による特許で権利行使されても、無効審判請求や公知技術の抗弁で対抗できるように、予め販売時に証拠保全を行うことが考えられる。
特許の無効審判及び侵害訴訟において、刊行物公知のみでは証明責任を達成できない場合も少なくない。特に、中国の実用新案出願は実体審査がないため、出願人が、公然実施された公知技術であることを知りながら、実用新案出願して登録を受けた場合があり、当事者は時には、その技術が公然実施により公知技術になったことを証明せざるを得ない。
一方、公然実施の判断は、特許無効審判及び侵害訴訟における難題である。刊行物公知に比べて、公然実施の証拠収集は困難である。公然実施の年月はほとんど、証拠収集時よりだいぶ前であり、無効審判請求及び侵害訴訟の発生時までは何年間も経ったので、時間の経過に伴って、関連する証拠がなくなった場合は多い。その結果、当事者双方とも証拠収集及び立証が影響され、十分な証拠を提示することはなかなか困難である。また、公然実施の証拠は通常、資料が繁雑で、要証事実が相互に交差し、その信ぴょう性、公知性及び証拠群の完全性は判断し難い。さらに、実施行為の多様性及び複雑性の関係で、各種の実施行為の法的属性は容易に判定できず、その公知性の判断も難しい。したがって、出願前の公然実施をどのように証明すべきか、その証明基準をどのように把握するかは重要な課題となっている。
I.特許法上の公然実施
公然実施とは、実施により発明が公然知られているか、又は公然知り得る状態となったことを意味する。中国において、中国特許法の第三回法改正(2009年10月1日から実施)以前は、公然実施は国内主義を採用していたが、上記法改正後に出願されたものについては、公然実施も世界主義となっている。
中国特許審査基準によれば、公然実施の形態として、技術内容が公然知り得るようになる製造、使用、販売、輸入、交換、贈呈、実演、展示等が挙げられる。上述の手段によりその技術内容が公然知り得る状態となれば、実際に公然知られているかを問わず、公然実施に該当する。ただし、技術内容に関する説明が一切なく、当業者がその構造や機能、または材料の成分を知り得ない製品展示は、公然実施に該当しない。
公然実施されたものが製品である場合、その製品は、分解してから初めて構造や機能を把握できるものであっても、公然実施に該当する。さらに、公然実施は、ポスターやドローイング、写真、サンプルなど、展示ブースやショーウィンドウに置かれた、公衆が閲覧可能な情報資料なども含む。
II. 公然実施の証明基準
現行審査基準には、無効審判における証明基準について明確な定めはないが、「本基準に定めがないものは、裁判所の民事訴訟における関係規定を参照することができる」との記載はある。中国の民事訴訟は、高い蓋然性という証明基準を採用している。すなわち、ある事実に関する証拠による証明が十分に確実であるとはいえない場合、一方の当事者が提出した証拠は、要証事実が発生した蓋然性は高いことを証明できれば、裁判所はこの事実を認定できる。
公然実施の事実が出願日より前に発生したものであるため、当事者の証拠が「完璧」にはならず、一方の当事者が相手当事者の証拠を疑う場合が多い。公然実施に係る無効審判請求の審決からすれば、この場合、審判官は通常、その証拠の信ぴょう性を否定できる十分な反証があるかによって、その証拠により証明される事実が存在する蓋然性を判断する。
例えば、第WX14848号審決において、「公然実施を証明するための複数の証拠は、案件の状況に応じて総合的に審査して判断しなければならない。上記複数の証拠はいずれも、同じ事実につながり、かつ、この事実が存在する蓋然性はこの事実の存在を否定する蓋然性より高いことを証明した場合、上記複数の証拠及びこれらにより証明される事実は確認できる。」と判断された。
第26920号審決において、「本件において、上述の証人は、異なる国で、異なる職業を行っているが、かかる事実に関する陳述は一致している。証人証言及びこれに対応する他の証拠から、要証事実が存在する蓋然性は高いと確信できる。反証がなければ、これらの証拠は互いに裏付けられ、かかる技術が外国の展示会で開示されて本件特許の先行技術となることを証明している。」と判断された。
第28806号審決において、「請求人が提出した証拠の発行者は請求人と一定の利害関係を持っているが、この発行者は上記証拠に係る製品の製造者であり、上記証拠の最初の作成者でもあるため、請求人が上記発行者のところから上記証拠を入手することは合理性がある。また、上記証拠は特に修正の跡がなく、他の証拠と互いに裏付けられ、明らかな不備がなく、特許権者も上記証拠について異論を示していない。高い蓋然性という証拠の原則から、上記証拠の信ぴょう性を認めることができる。」と判断された。
高い蓋然性という基準は、裁判所の判決においても多く見られる。一方、「合理的な疑いを差し挟む余地がない」というより厳しい基準を採用したケースもある。例えば、(2017)京行終1580号判決において、「販売日の推定は、資料1の飲料が公然販売されていない可能性を十分に否定できない。資料1を採用すれば、特許権者は救済の機会がなくなる。一方、特許無効審判は、請求人の請求回数を制限しない。したがって、双方の利益のバランスを取る観点から、当該証拠を採用しない。」と判断された。しかし、全体的に言えば、裁判所はやはり、高い蓋然性という基準を主として採用している。
III. 証明責任の分配
証明責任の分配について、中国の審査基準には原則的な定めがある。全体的には、「主張する側が証明する」という原則が採用されている。すなわち、当事者は、自らの主張を裏付ける事実、又は相手側の主張を否定する根拠となる事実について、証拠を提出して証明する責任を負う。
実例からすれば、無効審判における証明責任の分配は通常、公然実施の証明について、無効審判請求人が公然実施の事実を示す完全な証拠群を提出する責任を負い、特許権者が証拠について疑問を示すことができ、さらに反証を提出してその証拠群を否定することもできるというルールを採用している。証明責任の転嫁について、審判官及び裁判官は事実存在の蓋然性を判断した上で自由裁量できる。
例えば、(2017)京73行初6328号判決において、「無効審判請求人として、原告はその無効審判請求について証明責任を負う。そして、この証明責任を果たした場合のみ、証明責任は相手当事者へ転嫁される。」と判断された。
ただし、公然実施者が特許権者自身又はその関連者である場合、通常、特許権者はより多くの証明責任を負うと判断される。例えば、第24002号審決において、「特許権者と高鳥社との関連性から、特許権者が上記関連証拠を提出できると考えられる。・・・かかる反証を提出しなかった特許権者は、立証不能による不利益を負わなければならない。」と判断された。第39785号審決において、「特許権者が実際に当該製品のメーカーであることを示す証拠があり、特許権者が当該製品のことについてより強い立証能力を有すると考えられる。したがって、特許権者は当該製品が出願前に公然販売されていないと主張するか、又は当該製品が実際に出願後に更新された型式であり、かつ、当該製品の更新が請求項の構成要件に関わると主張する場合、この主張に係る証明責任を負い、証明力を持つ反証を提出すべきである。特許権者は証明力を持つ反証を提出しなければ、これによる不利益を負わなければならない。」と判断された。
瑕疵がある証拠について、当事者双方とも十分な証拠により証明又は否定しなかった場合、どのように認定するかは通常、審判官又は裁判官による証明責任の分配で決定される。例えば、第28694号審決において、公然実施が無効審判請求より13年前のことであり、長い期間も経過し、証拠収集がかなり難しいことと、輸入行為が複雑であることを勘案した結果、審判官は「本件において、要証事実の各部分の証拠は論理上の関連性を有し、互いに裏付けられるものであれば、若干の瑕疵があっても、完全な証拠群を形成したと考えられる。」とした。また、(2017)浙民終160号侵害訴訟判決において、裁判所は、「当事者各方が提出した証拠はいずれも、高い蓋然性を有するほどの証明力を持っておらず、公知技術の抗弁を主張した当事者側は、証明責任を果たすための完全な証拠群を構築できなかったので、立証不能による不利益を負う」と判断した。
IV. 公然実施の証明事項及び事例
公然実施は行為の形態が多く、製品の種類、用途が様々であるため、証明に必要な証拠もケースバイケースである。無効審判及び公知技術の抗弁の事例からすれば、公然実施の信ぴょう性及び公知性を証明するには、下記3つの証明が必要になる。
①出願前に公然実施された事実(公然実施日が特許の出願日より前であることを証明するため)
②公然実施の事実が特許法上の公知に該当すること(公然実施の事実により、その発明が公然知り得る状態となったことを証明するため)
③公然実施により公知になった発明(特許発明と比較するため)
さらに、公然実施に係る証拠の信ぴょう性を証明するためには公証が必要になり、外国証拠の場合には公証及び認証が必要になる。上記3つの証明事項のいずれか1つ以上が証明できない場合には通常、公然実施の証拠は認められない。公然実施の証拠が認められることを前提に、公然実施により公知になった発明と、対象特許のクレーム発明とを対比分析することができる。
実例からすれば、無効審判及び公知技術の抗弁における公然実施の証拠において、公然販売は約80%で最も多く、その次は公然使用で約15%である。意匠の場合、公然展示の証拠を用いたケースも多い。一方、製造、交換、贈呈等は通常、公然行われる行為ではないため、このような行為により公然知り得るようになることは証明し難い。輸入の場合、輸入行為自体では、輸入品の技術が公然知り得る状態となったとはいえないので、通常、他の証拠との組み合わせによりその公知性を証明する必要がある。公然実施の形態によって、上記3つの証明事項は重きが若干異なるが、全体的にはほぼ同様である。次に、公然販売を例に、上記証明事項の詳細について説明する。
公然販売は公然実施の中で最も一般的な形態である。日常生活の消費品なら、誰でも購入により入手できる。かかる製品が対象特許の出願前に公然販売により公知になったことを証明できれば、通常、かかる技術は公然知り得る状態となったと認定できる。一方、無効審判請求や公知技術の抗弁のために証明しようとする公然販売は通常、証拠収集より前に発生した行為であるため、公然販売の年月日、販売の公知性、販売により公知となった技術の中身等は容易に確認できるものではない。
1.公然販売の年月日について
公然販売の年月日をどのように判断すべきかについて、まだ決まった運用はない。以前の無効審判請求の審決第146号(1991年)及び第186号(1991年)では、製品の製造がまだ完成していなくても、販売の広告も公然実施の販売行為に該当すると判断された。しかし、公然実施の要件によれば、一般公衆が確実にその製品を入手したことまでの証明は必須ではないが、製品が公然入手可能な状態であることは確認する必要がある。製造がまだ完成していない製品を、公然入手可能なものとして認定することは合理的であるとはいえない。
一般的には、公然販売は少なくとも、(1)製品の製造が完成しており、(2)製品が実際に公然購入可能な状態であるという要件を満足する必要がある。このような要件に照らして判断すれば、製品が製造されたことを前提に、売主が販売の申立、販売の広告を行い、買主が支払い済で、売主が納品していない場合、売買契約が締結済でまだ履行されていない場合、売買双方が契約の協議を行った場合などは、公然販売を行ったとみなすことができる。実際においては、製品販売開始の年月日を証明することはしばしば困難であるのに対して、具体的な取引に関する契約、納品等の証明は比較的容易であるため、公然販売が認められた実例では後者の証明のほうが多かった。
公然販売に係る無効審判例からすれば、製造済の証拠だけでは、その製品が実際に公然入手可能な状態となったことを証明するには不十分である。多くの無効審判請求の審決において、製品における年月日は、公知になった日ではなく、製造日のみ示していると判断された。例えば、第30201号審決において、電子部品上の「0548」という表示が、2005年の48週目に製造されたことを意味すると認めても、この部品の製造日が分かるにすぎず、販売等により公知になった日も2005年の48週目であるとは判断できないと判断された。また、第32916号審決において、製品のラベルに表示された工場出荷日は公然実施を証明できず、他の証拠による裏付けがなければ、製品のラベルに表示された工場出荷日では公知日は確認できないと判断された。さらに、(2014)高行終字第666号、(2012)一中知行初字第2621号判決においても、銘板又は金型における年月日は製造日にすぎず、製品が初めて公知になった日の証明にならないと判断された。
製造日から公然販売日を合理的に推知できる製品について、審判官と裁判官の判断は同じではない。第201330547958号中国意匠登録の無効審判において、公然販売された飲料製品が証拠として提出された。かかる飲料製品の公証付き購入は、本件意匠の出願後であったが、製品に印刷された製造日は本件意匠の出願日より前である。審判官は、飲料の場合、製造から販売までは通常3ヶ月以内であり、企業のコスト、資本回転、収益等の観点から、メーカーが通常、製品の製造後に倉庫で賞味期限まで貯蔵するのではなく、直ちに販売するのを希望しているとして、販売日が本件意匠の出願日より前であると考えられるとした。しかし、本件の審決取消訴訟の一審及び二審において、裁判官は、本件に係る製品は飲料類の商品として賞味期間が短く、製造後に直ちに販売される可能性は高いことを認めながら、本件飲料製品が長期間在庫された可能性は否定できず、本件飲料製品が本件意匠の出願前に実際に公然入手可能な状態となったことは証明できないとした。
公然実施が認められた事例からすれば、公知になった日を確認するために、販売契約、発票(領収書)、納品書、受領書等の一連の証拠により、取引完了日を証明する必要がある。例えば、第36164号審決において、売買双方の当事者間の取引が「2008-6-18」(納品書に記載の年月日)から「2008年07月07日」(発票に記載の「発行日」)後の一定期間内に完了すると考えられ、一般の商慣習から、取引完了日が本件特許の優先日より前であると推定できると判断された。一方、第35484号審決では、增値税発票に関する規定によれば、增値税発票は売上を確認する時点で発行され、販売行為の完了を示していると判断された。
したがって、製品の公然販売を証明するために、その製品が特許の出願前に製造されたことを示す証拠に加えて、製品が実際に「公然入手可能な状態」となったことを示す証拠も必要である。特に、売買契約、代金の支払い、製品の納入等に関する証拠を調べるべきである。このような証拠がなく、「公然入手可能」との推測だけでは、裁判官に認められないおそれがある。
2.特許法上の公然販売について
例えば製造機械のような製品の場合、需要者は一般公衆ではなく、製品は購入者の特別な要求に基づいて供給されることもある。このような製品の実施においては、実施者は管理の便宜上やその他の観点から、製品に接し得る者を特定者又は少数者に限定する場合が多い。この場合、公然実施に該当するかについて議論の余地がある。一方、製品が公然販売されていれば、発明が公然知られているというわけではない。例えば、コカコーラは百年以上も公然販売されているが、そのレシピは今でも秘密であるため、公然知られているとはいえない。販売の形態が多種多様であり、一般消費者向けの販売の他、秘密保持義務付きの販売、試用販売、発明の詳細を開示しない販売等の形態もある。販売形態によって、発明が公知にならない可能性もある。特許法上の公然販売になるかを判断する際に、主に以下の観点から考察すべきである。
(1)特定者への販売か
あらゆる人や多数者向けの販売でなくても、特定者向けの販売でなければ、特許法上の公然販売になり得る。
実際において、公然販売される製品の入手は、例えば、高い価格、会員登録、何らかの資格やスキルなどの人為的又は客観的な条件により制限されることがある。場合によっては、製品が極めて高価であったり、技術が非常に先端であったりすることで、購入者や需要者が非常に少なく、極端の場合には世界中で買主が一人しかいない可能性もある。にもかかわらず、その技術の入手者は秘密保持義務を負わなければ、人為的又は客観的な条件による制限自体から「特定者」になることはない。
「特定者」という概念は、中国特許法及び審査基準には明確に記載されていない。しかし、中国特許審査基準第二部第三章には、「公知技術」に関して、秘密保持状態に置かれている技術は公知技術ではなく、すなわち、秘密保持義務を負う者が知っているノウハウは公然知り得る技術ではない、という規定がある。この規定を背景に、無効審判請求の審決及び裁判所の判決において、「特定者」はよく、その技術について「秘密保持義務を負う」者を指す言葉として、一般の「公衆」と区別して用いられている。
実例からすれば、普通の販売契約における営業秘密の保持、知的財産権に関する一般規定では、買主が秘密保持義務を負う「特定者」になるとは限らず、具体的な商慣習などからケースバイケースで判断されるのが一般的である。例えば、第31002号審決において、「反証に係る販売契約は方式上、普通の販売契約の典型的な特徴を有する一般契約である。特許権者が主張した同契約中の秘密保持規定は実質上、買主が特許権者の許諾なしに、当該上止機の偽造や模倣を意図する第三者に便宜を提供することを禁止するものである。一方、偽造や模倣を意図しない一般公衆がこの機器を入手したり、把握したりすることに関する制限はない。この規定は実質上、この機器の販売が秘密保持義務付きの販売又は特定向け販売であることを示していない。」と判断された。
第33727号審決において、「上記秘密保持契約から、買主は任意の公衆ではなく、売主と秘密保持契約を結んだ、秘密保持義務を負う特定者であることが分かる。かかる契約の存続期間、つまり本件特許の出願日までは、買主が当該篩分機の技術について秘密保持義務を負い、その購入及び使用は特許法上の公然実施ではない。」と判断された。
(2015)蘇知民終字第84号判決において、「審判委員会及び北京の一、二審裁判所による確定行政判決で認定されたように、本件関係製品の販売が特定範囲の特定者の間で発生され、双方が秘密保持契約を結んでおり、製品の研究開発において、製品の性能が約定の設計要求を満足できるかを確認するために行った試験、試作は、特許法上の公然実施にならない。」と判断された。
第33727号審決において、「上記機器の「売買契約」及び関連する「秘密保持契約」からすれば、売買契約関係は特許出願日より前に形成されたが、契約関係は特定者の間で形成されているため、一般向けの公然販売ではなく、特許法上の一般公衆向けの公然販売に該当しない」、「契約双方の口頭による約定か、後に追加される書面での「秘密保持契約」かを問わず、契約の相手方が一定の秘密保持義務を負うことを反映できる」と判断された。
第9850号審決において、「秘密保持義務を負う者が規定に違反してノウハウを漏洩したことを示す証拠はあるが、このようなノウハウの漏洩により上記発明が公然知り得る状態となったことを示す証拠がなければ、上記発明が公然実施された証明にはならない。」と判断された。
(2)販売により技術の詳細が開示されたか
意匠の場合、意匠に係る製品が公然販売されていれば、その意匠は公然知られていると考えられる。製品の構造に係る発明特許や実用新案の場合、製品が公然販売されると、一般公衆はその製品を任意に入手でき、そして観察、分解、解析、ひいては製品破壊などの手段により製品の技術内容を把握することができる。一方、化学成分、材料、方法等に関する発明特許の場合、状況は複雑になるが、通常、当業者が本件特許の出願前にすでに当業界で知られた測定方法により測定できるものも、公知技術になると考えられる。
(2018)蘇民再167号侵害訴訟における公知技術の抗弁について、特許権者は、「かかる機器は使用時に高温閉鎖状態となり、機器を開放するには、電源を切ってから1日後に専門担当者が専用ツールで分解する必要があること、及び、病院は裁判所の調査命令があっても、プライバシー問題や患者治療上の不都合などを理由に協力しなかったことから、当該機器の実際の使用において、かかる技術は公知になっておらず、秘密保持状態で隠されていることが分かる」と主張した。この主張について、裁判所は、「病院による機器の使用では、かかる技術は公知にならないが、本件の公証文書2件をメインとする証拠により証明された公然実施形態は使用行為ではなく、販売行為である。製品が公然販売されれば、公衆はこの製品を任意に入手でき、観察、分解、分析、解析、ひいては製品破壊などの手段によりその技術内容を知ることができる。このように公然知り得る状態は、ただの「可能性」ではなく、実際に存在するため、公知になるといえる。このような状態の存在は、公衆が実際に入手したことを条件としない。したがって、販売された機器の使用中にその技術内容を知ることが困難であるとの理由により、公然販売行為自体によってその技術内容が公然知り得る状態となったことを否定することはできない。」と判示した。
第21569号審決において、「証拠となるセラミックボールは出願前の市販購入により入手されたものであり、その化学成分は当業者が本件特許の出願前にすでに当業界で知られた測定方法により測定できるため、上記セラミックボールの化学成分は本件特許の公知技術に該当する。」と判断された。
(3)地域要件を満足するか
出願日又は優先日が2009年10月より前の特許の場合、公然実施は国内主義である。公然販売について、中国において行われた販売であっても、その技術が販売により中国において公知になっていなければ、中国特許法上の国内公然実施に該当しない。
例えば、(2009)一中行初字第335号判決において、裁判所は「かかる製品は、本件特許の出願前に国内で製造され、販売契約も国内で締結され、初期の納品検査も国内で行われたが、貨物輸送により直接海外へ販売されたので、製品の製造及び梱包は工場内で行われたと考えられる。通常、メーカーは市場競争及び安全管理の観点から、不特定の公衆が工場に任意に出入りすることを許さず、製品の製造過程は不特定の公衆が知り得る状態ではない。また、上記製品が国内で公然展示・販売されたことを示す証拠はない。」として、これが中国国内での公然実施に該当しないとした第12277号審決の判断を採用した。
3.販売により公知になった技術の中身の判断について
実例において、「公然販売」された製品の具体的な構造及び/又は組成を示す証拠は、事後的に収集された現物である場合が多く、「公然販売」の証拠に示される公然販売された製品と一致するかということもしばしば争点になる。
現物証拠と販売行為の対象となった物との関連性を示すには、販売契約における型番、製品名、納入日等の情報が現物証拠に反映されることは必要である。実務において、製品の銘板などからその情報を確認できるが、構造等を証明するための現物の型番と、販売契約や発票に記載の型番とが一致することは証拠により確認できなければ、このような証拠は通常認められない。例えば、第28015号審決において、「証拠1は、岳の家にハイアールのエアコンが1台あることを示し、証拠1に係るハイアールのエアコン本体内のラベルは、当該エアコンの型番がKFR-32GW/Z1であることを示している。証拠3-1の発票は、岳が2005年12月22日にハイアールのエアコンを1台購入したことを示しているが、上記発票の製品名・仕様欄には「ハイアールエアコン」しか記載されておらず、製品の仕様や型番等の詳細は記載されていない。よって、上記発票に係るエアコンは、証拠1に係るエアコンであることは確認できない。」と判断された。
実例からすれば、出願前に公然販売された製品について、現物の公証を出願後に行った場合、現物と、前に販売された製品とが同じか、現物に改造がないか、部品の交換がないかを確認すべきである。改造又は部品交換が行われた蓋然性は高いと判断された場合、請求人・被告はより多くの証明責任を負うが、そうでない場合、特許権者・原告はより多くの証明責任を負う。
大型設備の場合には通常、交換された可能性が低く、部品の交換があっても、全体の構造には影響が及ばないと判断される。例えば、第29118号審決において、審判官は2005年に建築された病棟に用いられた手すりなどの施設は壊れやすいものではなく、特許出願前に普通は交換されないとして、請求人に対して、設備に搭載された技術が変わっていないことを示す証拠の提出を求めなかった。また、(2018)京行終1621号判決において、「請求人が提出した本件自動断裁機の各部材の写真から、刃部に取り外しや交換の跡は特に観察されなかった。また、自動断裁機は大型機械設備であり、本件の二重研削刃ユニットは単一の部材ではなく、複雑な接続関係を持つ複数の部材からなるものである。したがって、反証がなければ、交換された可能性は低いと判断できる。また、本件審決及び原審判決において採用された公知技術は、自動断裁機の単一の消耗部品ではなく、刃固定軸ユニットである。このように複雑な接続関係を有する大型機械設備の場合、消耗部品を交換しても、この設備の基本設計に適合するのが一般的であるため、単一の消耗部品の交換は、構成全体の変化につながらない。」と判断された。
一方、小型設備の場合、特に発明が部品に関する場合、請求人がより多くの証明責任を負うと判断される可能性がある。例えば、(2010)高行終字第396号判決において、「現物において、本件特許請求項1の回路構造に対応する内部回路基板は、スロットに挿入するものであり、交換可能である。そのため、上記証拠から、実華社が提出した資料5の現物の内部回路基板が交換されたかは確認できず、つまり、この内部回路基板の公知日とこの現物全体の販売日との対応性は確認できない。」と判断された。
また、出願前に販売された製品の構造を、出願後に購入した同じ型番の製品により証明できるかについては、このような立証が認められた例と、認められなかった例ともあるが、通常、製品の型番と製品の構造が一対一の対応関係を有する場合、後に購入する同じ型番の製品により、前に販売された製品の構造を証明することができる。一方、その型番が実際に複数種の構造に対応する場合、前に販売された製品の構造を証明することはできない。
例えば、(2018)京73行初6082号無効審判審決取消事件において、裁判所は、「証拠16のLED無線誘導灯は2017年(本件の特許優先日より4年後)に購入されたものであるが、企業の製品製造サイクルを考えると、このLED無線誘導灯に用いられたチップは発売が2017年よりだいぶ前であると考えられる。証拠16のLED無線誘導灯におけるセンサ及びチップには、メーカー及び製造日等の情報はないが、センサ及びチップは体積が小さいので、センサ又はチップにメーカー及び製造日等の情報を完全に表示することは常識に合わない。通常、開発の番号分類及び販売の統一のために、同じ型番の集積回路ウエハ製品は同じ構成を有するのが一般的であり、製品に大幅な改良が行われた場合、その型番も通常変わる。証拠16のLED無線誘導灯から取り出したウエハの型番と、本件特許の優先日より前にELMOS社が販売したウエハE910.97Aとは一致する。また、ELMOS社は十分な反証を提出していない。よって、証拠16のLED無線誘導灯から取り出したウエハは本件特許の優先日より前にELMOS社が販売したウエハE910.97Aであると認定できる。」とした。
第27858号審決において、「慣行によれば、製品の型番は購入者の認識の便宜上、製品の構造を表すものである。そのため、同一の製品型番は同じ製品構造に対応するのが一般的であり、特許権者は本件製品のテープ供給装置に適用した構造が複数種あったと主張したが、特許権者の提出した上記反証の現物だけでは、この主張は裏付けられていない。」と判断された。
一方、同じ型番で異なるバッチのディスプレイについて、(2016)京73行初3654号判決では、「同じ型番で異なるバッチのディスプレイは、ユーザーガイドは同じであるが、迅速着脱用の内部機械構造は異なる可能性がある。つまり、ユーザーガイドと迅速着脱用の内部機械構造は必然的な一対一の対応関係を有するとは限らない。証拠6の公証文書によれば、当該型番のディスプレイの製造年月は2015年8月であり、後である。証拠7のユーザーガイドは、本件特許の出願日より前の2014年10月に公開されたが、HP液晶ディスプレイZ24sが2014年に販売されたことしか証明できず、2014年のHP液晶ディスプレイZ24sと証拠6のディスプレイとの迅速着脱用の内部機械構造が全く同じであることは証明できない。」と判断された。
第27946号審決において、「本件特許の出願日より前に、昌達公司製電気ゴンドラ用ホイストZLP630は公然販売の状態となった。しかし、特許権者の提出した証拠によれば、「ZLP630」は、特定のメーカー製の特定型番の製品ではなく、「補修機械類である定格荷重630kgのゴンドラ」を意味し、当業界の一般名であることが分かる。上記型番のゴンドラ用ホイストは、メーカーによって、構造や技術の構成が異なると考えられる。したがって、上記公然販売されたZLP630ホイストがどのような構成を採用したかは確認できない。」と判断された。
V.まとめ
無効審判請求や公知技術の抗弁において公然実施の証拠を使用する場合、公然実施の事実を十分に証明できる完全な証拠群を提出する必要がある。しかし、多くの場合、公然実施の事実はだいぶ前のことであり、その情報及び証拠の入手は困難である。特に、食品、医薬品、試薬など、使用期限が短く、変化しやすい化学製品や、使用に伴って性質が変わる材料等の製品の場合、前に販売された製品の構造や組成を、事後的に収集する証拠により証明することは難しい。このような製品を扱う企業としては、他社から冒認出願による特許で権利行使されても、無効審判請求や公知技術の抗弁で対抗できるように、予め販売時に証拠保全を行うことが考えられる。