北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 中国商標弁理士
王 艶 (Yan WANG)
 
2019年9月23日、中国の最高裁判所は、本田技研工業株式会社(以下「本田社」という)と重慶恒勝鑫泰貿易有限公司、重慶恒勝集団有限公司(以下「恒勝社」という)との間の商標権侵害紛争案件に対して、恒勝社のOEM行為は本田社に対する商標権侵害に該当するという(2019)最高法民再138号判決を下した。その根拠は主に以下の3点である。

(1)「商標使用」について、『商標法』第48条に規定された「商品の出所を識別する」とは、商標使用者の目的が、商品の出所を識別する役割を発揮する可能性があること及び商品の出所を識別する役割を実際に発揮することを含む商品の出所を識別するということである。商標使用行為は、客観的な行為で、物理的な貼付け、市場流通など、複数の段階を含む。製造又は加工した製品に、商品に表示する方法又はその他の方法で商標を使用した場合、商品の出所を識別する可能性があれば、当該使用状態が商標法の意義における「商標使用」と認定されるべきである。

(2)「関連公衆」及び「接触可能性」について、『最高裁判所による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』第8条の規定によれば、本件に言う関係公衆とは、被疑侵害商品に関わる消費者の他に、例えば被疑侵害商品の輸送などの段階の経営者など被疑侵害商品の経営販売と密接な関連を有する経営者を含むべきである。また、電子商取引やインターネットの発展に伴い、一旦海外へ輸出された製品が中国国内市場に流入してくる可能性がある。さらに、海外へ旅行したり、海外で消費したりする多くの中国消費者が、「OEM商品」に接触し、混同する可能性もある。

(3)「権利侵害の要件」について、『商標法』第57条第2項の規定によれば、商標登録者の許諾を得ずに、同一の商品にその登録商標と類似の商標を使用するか、又は類似の商品にその登録商標と同一若しくは類似の商標を使用し、容易に混同を生じさせることは、登録商標専用権を侵害する行為に該当する。商標権利侵害行為の帰責原則は、無過失責任の原則であり、且つ実際に損害が生じることを権利侵害の構成要件としない。「容易に混同を生じさせる」とは、関連公衆が被疑侵害商品に接触した場合に、混同が生じる可能性のことをいうが、関連公衆が被疑侵害商品に実際に接触すること、又は混同という事実が確かに発生することは要求されない。恒勝社のOEM行為は、ミャンマー企業から商標使用許諾を取得していたが、商標権は、知的財産権として地域性を有するものである。海外で登録されたものの、中国で登録されていない商標は、中国における登録商標専用権を有しない。中国国内の民事主体が取得した「商標使用許諾」は、中国商標法が保護する商標の合法的な権利に該当せず、商標権侵害に対する抗弁事由にならない。本田社が中国で登録した商標と類似する商標を用いて、恒勝者がOEMを行ったことは、商標使用に該当し、関連公衆を混同・誤認させる可能性を有し、関連公衆を容易に混同させる。

最終的に、最高裁判所は二審裁判所が下した権利侵害に該当しないという(2017)雲民終800号判決を取り消し、一審裁判所が下した権利侵害に該当するという(2016)雲31民初52号判決を維持した。これにより、恒勝社は、本田社に対して、経済的損失30万元の賠償金を支払わなければならなくなった。

これまで、海外OEM行為における商標使用は、権利侵害に該当しないというのが定論であった。2015年、亜環社とFOCKER社の「PRETUL」商標権侵害案件において、最高裁判所は(2014)民提字第38号判決において、「亜環社がOEM商品に標識を付したことは、中国国内において加工した商品の出所を識別するという意義を有せず、当該商品の出所を識別する機能も実現できないので、その付された標識は、商標の属性を有せず、その製品に標識を付す行為も、商標使用行為と認定されるべきではない。商標の識別機能が存在したか否かは、商標権侵害に該当するか否かを判断するための基礎となる。亜環社はTRUPER社の委託に基づき、同社が製造した南京錠に「PRETUL」に関わる標識を使用した行為は、商標法上の商標使用に該当せず、FOCKER社の「PRETUL及び楕円図形」商標権侵害を構成しない。」と判示した。

また、2017年、常佳社と上柴社の「東風」商標権侵害案件において、最高裁判所は(2016)最高法民再339号判決において、「商標の本質的な属性は、識別性又は指示性であり、基本的な機能は、商品又は役務の出所を区分することである。出所を識別又は区分することに用いられない商標使用行為は、商品又は役務の出所について誤認又は混同させることがなく、商品又は役務の出所を指示する機能に影響せず、商標法上の権利侵害行為に該当しない。常佳社は、OEM契約における受託人として、インドネシアPTADI社のOEM委託を受けた際に、関連権利証書資料をすでに審査し、委託者の商標の権利状態に十分に注意を払った。常佳社はそのOEM業務の製造加工又は輸出過程において、関連標識はいずれも委託者のインドネシアPTADI社を示し、且つ上柴社の係争商標の中国市場における正常な識別・区分機能に影響しないため、関連公衆を混同・誤認させることはない。」と類似する判示を下した。

今回、最高裁判所が下した判決は、今までの案件で認定された結論とは正反対であったことが分かる。そのため、当該判決は、業界において広範な注目を集め、OEMにおける商標権侵害の問題は再度議論されることになった。海外OEMにおける商標使用問題については、今後も引き続き議論されることが予測される。

商標使用自体は、複雑な問題である。使用こそが商標の要である。商標は使用されて初めて識別機能を発揮し、商業名誉を担え、消費者をリードして商品を選択させる。未使用商標は、生命力を有しない。『商標法』において、以下のような商標使用に関する条項がある。

第15条第2項:同一又は類似の商品について登録出願された商標が、他人に先使用された未登録商標と同一又は類似し、出願人は、当該他人と前項の規定以外の契約、業務関係又はその他の関係があることにより、当該他人の商標の存在を明らかに知っていて、当該他人が異議を申し立てた時は、その登録を拒絶する。

第32条:商標登録出願は、先に存在する他人の先行権利を侵害してはならない。他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録してはならない。

第49条第2項:登録商標が使用許可された商品の通用名となるか、又は正当な理由なく継続して3年間使用されなかった時、如何なる単位又は個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる。商標局は、請求を受領した日から9ヶ月以内に決定を下さなければならない。特別な事情があり、延長することが必要な場合、国務院工商行政管理部門の許可を得て、3ヶ月間延長することができる。

第64条第1項:登録商標専用権者が賠償を請求し、権利侵害と訴えられた者により登録商標専用権者が登録商標を使用していないという抗弁がなされた時、裁判所は、登録商標専用権者に、これまで3年以内にその登録商標を実際に使用している証拠を提出するよう求めることができる。登録商標専用権者は、これまで3年以内に、当該登録商標を実際に使用していることを証明できないか、又は侵害行為によりその他の損失を受けたことを証明できない場合、権利侵害として訴えられた者は、損害賠償責任を負わない。

海外OEMにおいて、製品に商標を付す行為は、特殊な「商標使用」方式として、『商標法』の意義における使用に該当するか否か、上記商標法の具体的な条項を適用できるか否かについて、民事権利侵害案件において、最高裁判所が先ごろこれまでの判決と正反対な判決を下したことにより、統一した判定基準がない状態にあるといえる。行政案件では、当該問題についてどのように認定するか、OEM委託者としての海外の商標権者は、中国で商標登録を取得する必要があるか否か、という二つの問題について、北京高等裁判所が2019年4月24日に公表した『商標の権利付与及び権利確定に係わる行政案件の審理指南』(以下「高院指南」という)の具体的な規定及び関連事例を参照にしながら、より詳細に解説する。

「高院指南」には、以下のような2箇所の「単純な輸出行為」に関する記載がある。

16.26:未登録の先行商標を使用した商品が中国国内で流通せず、且つ直接に輸出された場合、当事者は係争商標の出願登録は商標法第32条に規定する「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録する」状況に該当すると主張する場合、これを認めない。

19.16:係争商標を使用した商品が中国国内で流通せず、且つ直接に輸出された場合、係争商標の登録者がその登録の維持を主張する場合、これを認めることができる。

この2つの条項はそれぞれ商標法第32条、商標法第49条に対応するが、その結論は正反対のようである。

まず16.26について、当該規定によれば、外国の商標権者は中国で他人が同一又は類似する商品において自己がOEM商品に使用した商標と同一又は類似する商標を出願したことを発見し、第32条に基づいて他人の出願商標は「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録する」ことに該当すると主張した場合、当該主張は認められない。ここで、最も有名なのは、日本で大きな議論を引き起こした無印良品の件であろう。当該案件では、裁判所は、良品計画が提出した証拠は、同社が輸出のために中国のメーカーに加工生産を委託したことしか証明できない。その宣伝、報道などはいずれも中国以外の地域で行われたため、「無印良品」商標が中国国内に実際に第24類のタオルなどの商品に使用され、一定範囲の関連公衆に知られていたことを証明できない。したがって、良品計画の商標法第31条(現行商標法第32条)に関する主張は認められない。本件は、時期的には比較的以前のものであるが、それ以降の案件に対して指導的な役割を発揮した。近年裁判所が下した判決のうち、類似する認定は少なくない。以下に、いくつかの代表例を挙げる。

事例1:(2017)京行終491号 (判決日:2017320日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。商標は地域性を有する。中国で実際に使用され、且つ一定の範囲で関連公衆に知られた商標は、商標法第32条に規定されているすでに使用され一定の影響を有する商標に該当すると認定すべきである。本件の証拠は、傑蒂社が「BEARINGTON COLLECTION」商標を付した商品をアメリカに輸出したことしか証明できず、中国で上記商品を宣伝、販売したことを証明できる証拠は提出されなかった。中国の玩具類商品の関連公衆は、「BEARINGTON COLLECTION」商標を知らないため、商品の出所を識別する役割を果たせず、当該商標の中国大陸地域における知名度も証明できない。したがって、傑蒂社が提出した証拠は、係争商標の登録出願が商標法第32条に記載の「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録する」という規定に違反したことを認定するには十分ではない。

事例2:(2018)京73行初8806号 (判決日:2019525日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。原告が提出した証拠は、同社が中国国内の加工工場に「CATO」を付した商品の加工を委託し、且つ輸出したことを証明できるが、当該標識を付した商品が中国で流通し、商品の出所を示すという商標の役割を果たしたことを証明できなかった。その他の証拠は、「CATO」標識の域外での使用状況を反映したり、係争商標の出願日以降に形成されたりしたものであったので、関連商品が係争商標の出願日前に中国において商標法第32条の先行使用を行ったことを証明できないし、係争商標の出願日前に、同社がすでに中国で実際に係争商標と同一又は類似する商標を使用し、且つ一定の影響力を有したことも証明できない。したがって、係争商標の登録出願は商標法第32条に記載の「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録する」という規定に違反しない。

上記の2つの事例における裁判所の認定は上記高院指南16.26と完全に一致する。つまり、海外OEM製品が中国で販売されず、流通領域に入っていないため、その製品に使用した商標は、商品の出所の識別機能を果たせず、一定の影響力を取得することもできない。したがって、商標法第32条の「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で抜け駆け登録する」という規定に該当しない。また、商標法第32条と類似するが、商標法第15条第2項に未登録商標使用に関する規定もあり、関連事例において裁判所は同様の認定を下した。以下に具体的な事例を挙げて説明する。

事例3:(2015)京知行初字第1028号 (判決日:201768日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。「先行使用」の地域範囲について、中国の商標保護制度は地域的原則を堅持し、未登録商標の保護について、原則的にその中国国内での実際使用を前提としなければならない。商標の基本的機能は商標の識別性にある。商標使用は、具体的な商品又は役務と結合し、且つ中国国内の公衆に対して商品又は役務の出所を識別する役割を発揮しなければ、商標使用の効力は生じない。単純な製造及び輸出行為は、中国国内の商品流通段階の使用行為に該当せず、商品又は役務の出所を識別する役割を有しないため、商標権益が発生しない。商標法第15条第2項に規定の「先行使用」行為は、中国国内の商品流通段階に発生し、且つ商品又は役務の出所を識別する役割を発揮しなければならない。

事例4:(2018)京73行初8776号 (判決日:2019325日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。商標が流通領域に入らず、識別作用を発揮しなければ、商標が担っている商業名誉及びその他の価値を明示できないため、商標が商品に付されても、単なる装飾の1つに過ぎなくなる。単純なOEM及び輸出行為はいずれも中国国内の商品流通段階の使用行為に該当せず、且つ商品又は役務の出所を識別する作用を発揮することで、相応する先行権益を生じさせることがない。したがって、商標法第15条第2項に規定の「先行使用」の状況に該当せず、他人が同一又は類似する商標を登録することを禁じることはできない。

周知のように、中国の商標保護は、「登録主義」を採用している。商標法は、商標登録制度を基礎としているので、未登録商標に対する保護には限界がある。その保護の前提条件は、当該未登録商標が使用により商標権益をすでに形成したことである。また、その使用地域範囲、期間の長さについても、一定の要求がある。具体的な適用条項(例えば、商標法第15条、第32条)によって、商標使用の程度に対する要求も異なってくるが、商標権者は商標登録証を提出するだけで、先行権利者であることを証明できるのに対して、未登録商標使用者は、保護を求める際に、大量の使用証拠を提出しなければならず、挙証の難度がより高くなっている。海外OEMにおいて、外国の商標権者が中国において、その委託加工した商品に使用した商標を登録していない場合、その商標の知名度を証明するために提出できる証拠は、中国における製造加工に関する証拠しかない。この程度の挙証では、中国において既に一定の影響力を有する商標としての証明基準には明らかに達していない。したがって、OEMに使用された商標が他人に先に登録出願されると、海外OEMの外国委託者は、商標異議申立などの手続きによってその登録を阻止することが困難になる。かかる場合、本文の冒頭で述べた商標権侵害問題が生じる可能性がある。また、国内の商標登録者がその商標を中国税関で登録したら、OEM製品が輸出される際に、税関に取り締まれる可能性もある。

以上から分かるように、不要なトラブルを回避するために、中国では、OEMを実施しただけでも、なるべく早めに商標を登録出願すべきである。そうすれば、生じうる権利侵害リスクを未然に防止できると共に、自己の製品の輸出についての障害を先にクリアにし、将来的に中国市場への進出及び中国での製品販売に備えることができる。

また、この場合、商標登録の維持に関して疑念が生じる。ご存知のように、中国商標法には、3年不使用商標に対する取消制度がある。OEMにおける商標使用は、商標登録を維持するための根拠となるのだろうか。

高院指南の19.16を見てみよう。当該規定によれば、中国で登録された商標が、OEM製品のみに使用され、且つ製品が全て海外へ輸出され、中国で販売されなくても、そのOEMに関する証拠は、3年不使用取消審判において商標登録を維持する証拠となることができる。

前述したように、商標の生命線は使用にある。使用されていない商標は、「ゾンビ商標」に等しく、それ自体に全く価値がないだけでなく、限りある公共資源も不正に占用したことになる。商標の3年不使用取消制度の設立は、商標権者の使用を励まし、商標資源の放置、浪費を回避し、商標制度の良好な運用を保障することを目的としている。実務において、販売インボイスを提出しただけで商標の登録を維持できる案件がよく見られる。それは、取消審判のポイントが商標権者が真の使用意図を有するかどうかを審理することにあり、商標使用頻度などについては要求されないからである。OEMでは、製品が全て海外に輸出されるが、その中国における製造加工には、商標使用のニーズが明らかにあり、商標の放置ではなく、公共資源の占用でもない。したがって、海外OEMにおける商標使用を認めることは、商標法の立法目的にも、高院指南19.16の規定にも合致する。近年の裁判所判決では、当該認定が既に主流となっている。以下に、代表事例をいくつか挙げる。

事例5:(2016)京行終4613号 (判決日:201738日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。商標使用機能は識別性を有することであり、通常、商標使用は商品流通と関連していなければならないが、商標取消行政案件の場合、商標法の関連規定の立法趣旨に基づいて、その関連行為が実際使用に該当するか否かを正確に判断しなければならない。2001年版商標法第44条第(4)項の規定の立法目的は、商標資源を活用し、商標の放置を回避し、商標権者に連続使用の義務を促すことであった。本件では、係争商標を使用した商品が中国で製造されてから直接海外へ輸出され、中国市場では流通しなかったものの、明季社の商標は登録された後、商標を実際に使用することで、登録商標を積極的に活用し、商標資源を放置、浪費する行為は存在しない。また、対外貿易を保護し、OEM業界の発展を促進するために、3年不使用商標取消案件では、OEMは商標使用行為として認定すべきである。

事例62015)京初字第 4529 (判決日:2018612日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。商標3年不使用取消制度では、商標使用は、権利が生じる使用ではなく、既存権利に基づいて商標を活用し、権利の安定性を維持するものである。当該立法目的のもと、商標使用に対する要求は、権利が生じる使用要求と相違し、関連公衆を混同、誤認させるか否かという商標民事権侵害案件のポイントとも相違し、商標資源を浪費しないように、商標を商業に使用することを商標権者に促すことを目的とする。中国国内の加工業者が委託を受けて商標を使用した商品を製造し、その製品が国外の委託者に引き渡され国外で販売するというOEM行為では、商標が流通において商品の出所を識別する機能を果たしたので、中国における製造行為も、係争商標に対する公開であり、真実で、合法的な積極的な使用行為であり、加工貿易の発展を促進し、安定的な対外貿易を維持するという国家政策のもと、当該形式の商標使用に対して、厳しく制限するのは妥当ではない。したがって、株式会社ムックは、係争商標を放置状態にすることなく、常に生命力を有するようにする主観的な意思及び客観的な証明を有しその授権、加工及び輸出入段階のいずれにおいても、裏づけとなる相応する証拠がある。

事例7:(2017)京73行初2914号 (判決日:20181220日) 

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。係争商標は中国で実際に製造経営に投入された後、国外に直接に輸出され、中国市場で流通しなかったものの、その製造行為は中国地域で発生したものである。このような行為は実質上、商標を積極的に使用し、放置しなかったので、2001年版『商標法』第44条第(4)項の登録商標3年不使用取消制度に関わる使用に対する要求に合致する。また、係争商標の関連行為は、OEM貿易の体現であり、対外貿易行為の一種である。OEM行為が商標使用行為として認められないと、OEM製品が正常に輸出できず、当該貿易が中国で継続できなくなってしまう。したがって、係争商標の関連行為は商標使用行為として認めるのは、公平原則に基づいたものであり、中国の対外貿易の政策要求にも合致する。

事例8:(2016)京73行初2841号 (判決日:2019610日)

当該案件における裁判所の判示は以下の通りである。商標法の関連規定は、商標の実際使用を促し、商標の役割を発揮させ、商標資源の浪費を防止すると共に、登録商標が容易に取り消されることで商標登録者の合法的権益が損なわれることを防止することを目的とする。委託加工は、中国企業が外国企業の原材料、部品などを利用し、外国企業の要求に基づき加工し、製品を外国企業に引き渡し販売する貿易形式である。委託加工の製品は、中国市場に流入しなかったものの、委託貿易行為を商標使用行為として認めないことで、大量の商標が取り消されたら、不公平であるし、法律規定の趣旨にも反する。

以上の事例では、海外OEMにおける商標使用行為が全て商標登録を維持する根拠として認められた。この事実は、OEM委託者にとって、中国の商標登録に対する安心材料となった。また、高院指南の19.16の規定は、この傾向をさらに明確にした。筆者が代理した3年不使用取消案件において、中国OEMに関する証拠を提出することで商標登録を維持できた事例がある。これらのことから、国家知識産権局がこの種の案件を審理する際に、裁判所と一致する認定基準を採用していることがすでに明らかになった。今後、この基準が引き続き適用されることが期待される。

最後になるが、商標法第64条第1項にも、3年不使用取消審判案件と類似するような、3年以内の実際の商標使用証拠を提出するという規定がある。ここの使用証拠に対する認定基準は、3年不使用取消審判における使用証拠に対する基準と一致するのだろうか。これについては、関連条項の立法目的、関連制度の設置趣旨及び法律解釈の体系性を総合的に分析する必要がある。権利侵害賠償を請求する商標権者が中国でOEMのみを行い、その製品が中国市場で実際に販売されなかったら、裁判所が当該商標権者に当該登録商標の実際の使用証拠を提出するよう要求した場合、当該商標権者が中国におけるOEM証拠だけ提出すれば、中国の実際使用として認められ、権利侵害者に賠償責任を負わせることができるだろうか。かかる場合、商標権者の損失がどのように特定するか。筆者は検索で当該類の判決をまだ発見できていないので、今後典型的な事例があったら、また皆様と議論できることを楽しみにしている。
 
参考:
1) (2019)最高法民再138号 商標権侵害紛争民事判決書
2) (2014)民提字第38号 商標権侵害紛争再審民事判決書
3) (2016)最高法民再339号 商標権侵害紛争債権民事判決書
4) 最高裁判所(2012)行提字第2号行政判決書
5) (2017)京行終491号 異議申立不服審判二審行政判決書
6) (2018)京73行初8806号 無効宣告(商標)一審行政判決書
7) (2015)京知行初字第1028号 異議申立不服審判一審行政判決書
8) (2018)京73行初8776号 無効審判(商標)一審行政判決書
9) (2016)京行終4613号 取消審判に係わる不服審判二審行政判決書
10) (2015)京知行初字第4529号 取消審判に係わる不服審判一審行政判決書
11) (2017)京73行初2914号 取消審判に係わる不服審判一審行政判決書
12) (2016)京73行初2841号 取消審判に係わる不服審判一審行政判決書