中国弁護士
方 善姫(Shanji FANG)
方 善姫(Shanji FANG)
はじめに
電子商取引の飛躍的な発展につれて、電子商プラットフォームは、すでに知的財産権の行使における重要な陣地になりつつある。しかし、インターネットにおけるプラットフォームの複雑性、及び知的財産権の登録制度と先取り登録などの原因により、知的財産権をめぐる悪意クレームが頻発し、一部の事業者は不正利益を得るために虚偽陳述、証票偽造、商標先取り登録などの手段を通じて、悪意に競争相手向けのクレームを提出しているが、クレームを提出された事業者は、短時間で事業を回復するために、前文で紹介した大手電子商プラットフォームに主動的に名ブランドの適法店舗と連携して権利保護を行うほか、悪意クレームの提出者と和解などの方法による関連問題の解決ルートを選ぶしかない。このような悪意クレームは、他人の正常な事業活動を深刻に乱すと同時に、プラットフォーム上の正常な事業秩序を乱し、公平で秩序的な市場競争環境を壊している。
本文では頻発している電子商プラットフォームにおける知的財産権関連の悪意クレームについて、現段階の司法実務に結合した上、必要対策を簡単に紹介する。
1. 電子商関連の悪意クレームに対する抑制実況
電子商プラットフォームにおける悪意クレームを抑制するために、2019年1月1日から実施された「電子商務法」第42条では、すでに既存の「クレーム削除」規則を基にして、異議申立手続を追加すると同時に、誤ったクレームと悪意クレームに係る法的責任についても規定しているが、そのうち、誤ったクレームによりプラットフォームにおける事業者に損失をもたらした場合、関連法律により民事責任を負わせるものとしている。悪意に誤ったクレームを発送し、プラットフォームにおける事業者に損失をもたらした場合は、倍以上の賠償責任を負うものとしている。
しかも、ここ数年間、電子商プラットフォームにおける知的財産権関連の悪意クレームが頻発し、プラットフォーム上の経営秩序に損害をもたらし、司法資源を費やす現象が起こりつつあることに鑑み、最高裁判所は2020年4月10日付で「知的財産権司法的保護の全面的強化に関する意見」(法発〔2020〕11号)を公布し、インターネット上の知的財産権侵害紛争と悪意クレームによる不正競争紛争を妥当に審理することを強調し、法により誤ったクレームを発送した善意提出者の責任を免除し、電子商務プラットフォームを督促して、積極的に法定義務を履行するよう導き、電子商取引の健全な発展を促進すると同時に、権利濫用、悪意クレームなどにおける行為者の法的責任を追究することにより、各関係者の合理的な利益平衡を図っている。
最高裁判所の当該指導性規定では、司法機関が電子商関連の知的財産権悪意クレーム現象に対して厳しく規制し、悪意クレーム提出者により強い打撃を与え、法的責任を追究するところまでに改善し、司法機関は悪意訴訟に対する制裁を通じて、知的財産権訴訟の秩序を規範化し、信義誠実下での商業環境を構築することを表明している。
司法実務上、各大手電子商プラットフォームは悪意クレーム行為を抑制するために、プラットフォーム規則を更に改善するほかに、主動的に適法店舗と連携して権利保護を行い、悪意クレーム行為を打撃している。しかも、各地方裁判所は悪意クレーム案件について、必ず厳しく処罰するとの声明を発表している。
したがって、ここ数年間の立法状況及び司法実務では、電子商プラットフォームにおける事業者のために、知的財産権関連の悪意クレームに対抗する有効な法的環境を提供し、悪意クレームと悪意競争が完全に抑制されるようなことはないものの、悪意クレームに遭遇された事業者の権利保護関連規定は、徐々に改善され、信義誠実下での商業環境の整備には有利である。
2. 電子商取引における悪意クレームへの対策提案
実務上、仮に電子商プラットフォームにおける悪意クレームに遭遇した場合、如何に対応すべきであるか?通常、Tモールなどの電子商プラットフォームでは、店舗にクレームを出したクレーム書類とクレーム対象店舗の異議申立書類、及びプラットフォームにおける知的財産権関連のクレーム取扱規則に基づき、現状維持又はリンク切断、取引終止とサービスの削除、遮蔽などの必要措置を採用することを決める。しかし、一旦、クレーム提出店舗が知的財産権侵害訴訟を提起した場合、電子商プラットフォームでは、通常、販売リンクを削除する措置などを取っている。逆に、クレーム対象店舗は、長たらしい訴訟結果による救済を求めるしかないため、常に最適営業・販売機会を失い、更に莫大な損失を被ってしまう。
クレーム対象店舗が遅滞なく有効に自己の合法的権益を保護していることについて、筆者は次のいくつかの面に基づき、電子商プラットフォーム上の悪意クレームを対応するよう提案する。
● 訴訟保全メカニズムを合理的に利用
訴訟保全メカニズムについて、「民事訴訟法」及び最高裁判所の司法解釈では、主に財産保全、証拠保全、行為保全などを含む内容は明確に規定されている。実務上、前述の保全は、権利者が権利行使時に常用している保全措置である。すなわち、知的財産権者が他人による権利侵害行為を見付けた上、直ちに当該行為を制止しないと、取り返しの付かない損失をもたらす場合、裁判所に行為保全を申請し、被疑侵害者に訴訟前又は訴訟期間に、被疑侵害製品に対する製造・販売などの行為を停止するよう求めることができる。また、被疑侵害行為に係る証拠又は権利侵害から得た利益に係る証拠が滅失又は入手不能になる場合は、裁判所に証拠保全を申請することもできる。更に、確実な賠償を求めるためには、裁判所に被疑侵害者の財産に対する保全手続を申請することもできる。
電子商プラットフォームにおける悪意クレーム案件が増えることにつれて、数多い案件では同業者が電子商プラットフォーム上のクレーム体制を利用することにより、競争相手の正常な営業活動を乱し、クレーム対象者は常に極めて受動的な羽目に陥られてしまい、たとえ最終的に訴訟などを通じて、侵害に該当しないことを証明できたとしても、訴訟周期が長く、電子商プラットフォームにおける最適販売機会を失ってしまうため、手遅れになって賠償請求をする救済しかない。
実務の中で頻発する悪意クレーム状況について、各地裁判所では訴訟保全メカニズムに対しても新たな措置を取っている。南京市中等裁判所は、(2019)蘇01民初687号案件において、初めて「逆方向行為保全」を採用することにより、電子商プラットフォームにおける悪意クレームを有効に抑制した。同案件において、権利者は電子商プラットフォームクレームに対して、プラットフォームにおける販売店舗が自社の知的財産権を侵害したとして、プラットフォームに関連商品の販売リンクを切断することを求めたものの、販売者は自社製品が権利侵害製品に該当しないと主張し、かつ電子商プラットフォームとの間で数回も交渉したにもかかわらず、如何なる結果も得られず、結局、裁判所に電子商プラットフォームに対して、先に販売リンクを回復させようと請求した。南京市中等裁判所は、商品販売による権利侵害の可能性、販売者が取り戻しの付かない損害をもたらしたか否か、販売者による担保の提供状況、関連リンクの削除又は回復が公的利益に損害をもたらすか否かなどを含む事実と法的要件を総合的に審査した上、先行して削除されたリンクを回復すべきであると裁定した。
同案件は業界で国内初の「逆方向行為保全」案件と呼ばれており、業界内で積極的な反響を呼び起こした。その後、杭州市余杭区裁判所(2019)浙0110行保1号案件において、裁判所は再び「逆方向行為保全」の申請を認めていた。余杭区裁判所は審理を経て、「クレーム提出者が自らクレーム権のないこと、又はクレームの根拠が不足することを明知しながら、クレームを提出することにより、クレーム対象者に損害をもたらした行為は、『電子商務法』に規定する『悪意クレーム』行為に該当する。」と判定した。「悪意クレーム」行為について、クレーム対象者は裁判所に訴訟前又は訴訟期間内に行為保全を申請し、裁判所にクレーム提出者に対して、クレームの取り下げ又はクレーム提出者による継続的なクレーム発送行為を禁止させるよう請求することができる。裁判所はクレーム提出者の悪意程度、クレーム提出者の悪意クレーム行為がクレーム対象者に与える影響、行為保全措置を取らない場合、クレーム対象者にもたらした損害が、行為保全措置を取ることでクレーム提出者にもたらした損害を超えているか否か、及び行為保全措置を取ることが公的利益を損害するか否か、などの各方面に対する審査を経て裁定を下した。すなわち、3クレーム提出者に対して、直ちにそのタオバオ店舗に対して、タオバオ社に提起した知的財産権侵害クレーム行為を停止することを命じた。
最高裁判所は各地裁判所における「逆方向行為保全」に係る司法実務に結合した上、2020年9月10日付で、「電子商プラットフォームに係る知的財産権民事案件の審理に関する最高裁判所の指導性意見」(以下「指導性意見」という)を公布した。同指導性意見では「逆方向行為保全」に係る規定を明確化し、司法解釈の方法により、このような方法の内容・手続・要求を明確化している。
「指導性意見」第9条2項の規定によれば、緊急状態により電子商プラットフォーム提供者が直ちに商品リンクを回復せず、クレーム提出者が直ちにクレームを撤回せず、又はクレームの発送を停止しない行為などが、その合法的利益に取り戻しの付かない損害をもたらした場合、プラットフォーム内の経営者は、上述の法律規定に基づき、裁判所に保全措置の採用を申請することができる。
上述の規定によれば、電子商プラットフォームにおける悪意クレームについて、「逆方向行為保全」を申請する際には、次の要件を満たすべきである。
(1)「緊急状態」の状況だけに限る。
保全を申請する側は、「逆方向行為保全」の申請が「緊急状態」に該当することを証明すべきであり、「緊急状態」については、「知的財産権紛争行為保全案件の審査における適用法律の若干の問題に関する最高裁判所の規定」第6条1を参照して立証することができる。例えば、係争製品が具有する季節性、時期性、又は販売シーズンに置かれた係争製品、若しくは電子商プラットフォームで大型販売促進活動が行われる際に、仮に直ちに悪意クレーム行為を制止しないと、申請人の店舗内にある商品販売リンクがクレーム期間内の削除又は永久削除に遭遇し、店舗の取引が低減して、販売量が大幅に減少し、申請人に深刻な経済損失をもたらす場合である。
(2)申請人の合法的な利益が「取り戻しの付かない損害」を被る場合
上述の規定では相手の行為が悪意クレームに該当することについて、立証しなければならないことを強調していないものの、「逆方向行為保全」を行わなければ、自己の合法的な利益が取り戻しの付かない損害を被ることについては、証明しなければならない。したがって、立証のポイントは、自己の利益が合法的であるか否か、かつ取り戻しの付かない損害を被る可能性があることである。自己の利益が合法的であるか否かについては、クレーム提出者の主張する権利侵害行為が成り立つか否かについて考察すべきである。「取り戻しの付かない損害」については、「知的財産権紛争行為保全案件の審査における適用法律の若干の問題に関する最高裁判所の規定」第10条2を参照して立証を行うことができる。例えば、一旦、商品販売リンクが被疑侵害原因で削除された後、申請人は最適な販売時期を失うことになり、たとえその後に権利者の悪意クレームによる結果であることを確認できたとしても、そのリンクが再度回復される際には、当該リンクのランキング、顧客勧誘能力が以前と比べようもなくなり、又は権利侵害処罰が店舗の販売量全体に深刻な影響をもたらし、競争能力も弱化され、市場シェアが低下されるなどの状況について、立証し、説明しなければならない。
● 悪意クレーム提出者の侵害責任に対する追究
悪意クレームに遭遇された事業者は、「逆方向行為保全」を利用して、自己の販売行為の正常な回復を確保するほかに、更に積極的な法的手段を通じて、悪意クレーム提出者の侵害責任を追究することもできる。実務においては、悪意クレームと悪意訴訟行為について、次の数種類の方法から救済を求めることができる。
(1)「不正競争防止法」による救済
現在、電子商プラットフォームにおいて、悪意クレーム提出者は、著作権、意匠権、実用新案権などの形式審査のみを経た権利、又は先取り登録による商標の大量登録、悪意クレームなどを含む違法コストが低い方法を利用して、他人の正当な事業活動に影響を与えており、更に不正利益を求めている。仮に権利取得自体が違法である場合、権利付与証書に記載された主体は、真正な権利者ではなくなり、権利付与証書を利用して、クレームを提出した場合、真正な権利者及びその適法な事業者は、必然的に損害に遭遇されてしまうだろう。このような悪意クレーム行為については、「不正競争防止法」に基づいて保護を求めることができる。
司法実務において、電子商プラットフォームにおける悪意クレーム行為は「不正競争防止法」第2条に基づいて判定された裁判実例が比較的多く、それなりの参照価値がある。例えば、杭州余杭区裁判所の(2016)浙0110民初11608号案件において、裁判所は「被告は自ら出願した係争特許について、国務院特許行政部門の作成した意匠権評価報告における初歩的結論が『意匠全体が権利付与要件を満たさない』であることを明知しながら、意匠権評価報告の結論を改ざんし、かつ変造した証拠を利用して、電子商プラットフォームに原告の経営している同類商品に対する悪意クレームを提出し、原告の係争商品リンクはプラットフォームにより削除されてしまったが、被告の行為は公認商業道徳準則に違反し、原告に正常な事業活動を展開しかねさせ、かつ損害をもたらしたため、不正競争行為に該当する。」と認定した。
「不正競争防止法」第2条が原則的な規定であるため、当該条文に基づいて不正競争行為を主張する際には、次のような要素を考慮すべきである。
①悪意クレーム提出者とクレーム対象者の間に競争関係があるか?
②悪意クレーム提出者の主観的な悪意があるか?
③客観的にその他の事業者の権利を損害しているのか?
④正常な市場経営秩序を破壊しているのか?
なお、司法実務上、悪意クレーム行為について、更に「不正競争防止法」第11条3の規定に基づき、営業誹謗に該当すると認定した不正競争行為実例もある。例えば、(2019)遼02民終1083号案件において、被告は「自社はタオバオサイトにおけるクレーム規則を守っており、拡散どころか、商品撤回原因も公開していないため、営業誹謗に該当しない」と弁解したが、裁判所は「当該条文では虚偽事実に対する散布方法についての制限が規定されていない」と判定した。いわゆる「散布」とは、散らばって存在することを指すが、営業誹謗では虚偽事実について、一定の方式により第三者に伝達することだけを求めているが、その行為モデルは行為者が原点から関連情報を対外的に拡散し、具体的な手段は様々で、伝達方式も多様であり、主に虚偽事実の源流性に関する侵害者の責任と行為効果に対する公衆性の特徴を強調している。仮に行為者がある特定対象に自ら変造した虚偽事実を伝達し、当事者の事業活動に実質的な影響をもたらした場合も営業誹謗に該当する。タオバオサイトは中国国内の有数な電子商プラットフォームであり、被告がタオバオサイトの知的財産権プラットフォームにクレームを出した結果は、全体のプラットフォームを覆うことになり、直接公衆がタオバオサイト上で、原告会社の係争製品に接触する通路を切断してしまい、伝統的な虚偽事実の伝達方法に比べ、その影響範囲がより広く、損害結果も一層深刻であり、即時に効果をもたらすため、当該行為の直接性、即時性と破壊性は際立っている。したがって、挙軽明重の立場からみれば、被告が頻繁にクレームを提出する行為は、散布行為が求める公衆性の特徴を有し、営業誹謗に該当する。
上述の実例では、「不正競争防止法」第11条の規定に基づいて、悪意クレーム行為を制止していたものの、裁判所が当該条文の適用時に考慮した要素は、上述の第2条に組み込まれた考慮要素とほぼ同一であるため、実務上、悪意クレームに遭遇された事業者は、案件の実況に基づき、第2条又は第11条に対して自ら主張することができるものの、第2条が原則的規定であるため、仮に裁判所が第11条を適用して不正競争行為を認定する際には、当該原則的な規定を適用して判断しない。
(2)悪意訴訟提起関連損害責任紛争による救済
上述のとおり、電子商プラットフォームにリンクを削除させると同時に、更にプレッシャを掛けるために、一部の事業者は悪意クレームにより競争相手を打撃し、かつ悪意訴訟を提起している。この類の悪意訴訟については、訴訟提起により賠償を請求することができる。
2011年、「民事案件訴因規定」が改正された際に、知的財産権悪意訴訟における賠償請求紛争に的中して、「知的財産権悪意訴訟提起関連損害責任紛争」を一種の訴因として正式に規定の中に組み込んだ。「悪意訴訟問題に関する最高裁判所民三廷の研究報告」(2004)によれば、悪意訴訟とは、一般的に故意に他人に損害を被らせることを目的にし、事実的根拠と正当な理由もなしに民事訴訟を提起することにより、相手当事者(相対人)に訴訟中の損失を被らせる行為を指す。
また、(2015)京知民初字第1446号案件判決で指摘されたとおり、ある類の訴訟行為が悪意による知的財産権訴訟の提起に該当する場合、少なくとも次のような構成要件を満たさなければならない。
①相手当事者が知的財産権訴訟を提起する方法により、ある類の請求を提出し、又はある類の請求を提出することにより、脅威を図る場合
②請求提出した一方当事者が主観的な悪意を有する場合
③実際な損害結果を有する場合
④請求提出した一方当事者が知的財産権訴訟を提起した行為と損害結果との間に因果関係を有する場合。
現段階の司法実務において、知的財産権関連の悪意訴訟の多くは、特許分野案件であり、数多い不正行為者は実用新案、意匠などにおける実体審査を経ていない権利を付与された後、クレーム作戦を開始しているものの、1件の特許だけが無効にされたとして、権利者の権利行使に主観的な悪意があると認定するわけにはいかない。北京市高等裁判所が公布した「特許権侵害判定指南」の規定によれば、仮に悪意クレーム提出者が次に掲げる状況で悪意に特許権を取得した後、その権利行使行為により他人に損失を被らせた場合、特許権濫用として該当すると同時に、その賠償責任を追究することができる。
①出願日前に、特許権者が明確に知っている国家基準、業界基準など技術基準における技術案を出願して特許権を取得した場合、
②国家基準、業界基準など技術基準の制定参加者が、上記基準の起草、制定等の過程で明確に知った他人の技術案を出願して特許権を取得した場合、
③ある地域に広く製造又は使用された製品であると明知しているのに、これを出願して特許権を取得した場合、
④実験データをでっち上げ、技術効果を偽りする等手段を取って、係争特許に特許法の権利付与条件を満足させて特許権を取得した場合、
⑤域外に既に公開された特許出願書類に披露された技術案を中国で出願して特許権を取得した場合。
なお、特許権侵害訴訟案件において、「中国特許法」には無効審判請求の審査手続が定められ、かつ特許権者も当該手続の中で、その特許請求の範囲に対して、請求項の削除、併合と技術方案の削除を行えるため、特許の権利基盤自体は、さほど安定的ではなく、特許権の保護範囲にも変化が生じ得ることに鑑み、悪意による特許権侵害訴訟の提起に該当するか否かを判定する際には、無効審判請求手続における特許権者の具体的な行為、及び後続的に特許権侵害訴訟を提起する行為の特徴に結合して総合的に考慮している。例えば、(2015)京知民初字第1446号案件において、被告は無効審判請求手続の中で主動的に係争特許における方法クレームを放棄し、更に当該主張について、方法特許権侵害を主張したが、当該主張について、裁判所は基本的な事実的根拠と権利基盤が欠如し、主観的な悪意が明らかであると判定した。
商標分野においても、悪意訴訟は基本的に商標の取消又は無効と密接につながっている。しかし、上述と同様に商標権が取り消されたり、又は無効にされたりすることは、決して悪意訴訟の直接的な理由にならず、更に訴訟提起者が自己の訴訟請求に事実的かつ法的根拠が欠如することを明知しているか否か、相手の合法的な権益を侵害する不当な訴訟目的を有するか否かに結合すべきである。仮に起訴時に形式上の合法性を有するに過ぎず、事実上、信義誠実の原則に違反し、自ら実質的な関連知的財産権を享有しないこと、すなわち、他人が先行使用し、かつ一定の影響力を有する商標を先取り登録したことを明知する状況下で、正常な事業者の合法的な権益を損害し、かつ不正利益を取得することを目的にし、更に商標の無効理由が基づく事実、すなわち、商標の登録を拒む絶対的理由の中にある特殊標章、通用名称、及び相応理由の中にある他人が先行著作権を享有する作品、他人が先行して中国国内で使用し、かつ一定の影響力を持つ商標であることを明知しながら、登録商標の目的が使用するためではなく、高い価格で商標を譲渡するなどの方法により、旨い汁を吸うためであり、代理人、代表者が自らの名義で被代理人又は被代表者の商標を登録したり、又は契約、業務往来関係又はその他の関係に基づき、他人の商標が存在していることなどを明知している状況下で、依然として他人の合法的な利益を侵害することを目的として訴訟を提起した場合は、悪意訴訟として認定しなければならない。
上述をまとめると、悪意クレーム又は悪意訴訟行為に該当するか否かについて、知的財産権の権利基盤が確実に欠如することから起訴した状況のほかに、自己が既存の知的財産権の権利基盤を喪失されていることを明知する状況も含めているが、このような状況に対する判断では、知的財産権を出願した際の当事者の主観的な状態も考慮し、各種の要素を総合的に考慮すべきである。
終わりに
知的財産権関連のオンラインクレームの提出は、知的財産権者が比較的短い期間内に権利侵害行為を制止することができる有効な手段であるものの、合法的な権利行使と権利濫用の防止の間ではバランス関係を保つべきである。法律整備と司法実務の発展に伴い、知的財産権関連の悪意クレームと悪意訴訟の行為に対する抑制手段は、徐々に改善されつつあり、各権利者は合法的な手段を通じて、自己の権利を主張し、悪意クレーム又は悪意訴訟に遭遇される適法事業者も、法律保護フレーム下で積極的に権利を保護し、共同にインターネット産業と電子商取引の秩序的な発展を促進すべきである。
1第6条 下記のいずれか1つに該当し、行為保全措置を直ちに講じなければ、申請者の利益が損なわれる場合、「民事訴訟法」第 100条、第101条に定める「緊急事態」に該当すると認定すべきである。
(1)申請者の営業秘密が不法に開示される場合。
(2)申請者の公表権、プライバシー権などの人格権が侵害される場合。
(3)係争知的財産権が不法に処分される場合。
(4)申請者の知的財産権が展示販売会などの時効性の強い状況下で、侵害されているか、又は侵害される可能性のある場合。
(5)時効性の強い人気番組が侵害されているか、又は侵害される可能性のある場合。
(6)行為保存措置を直ちに講ずるべきその他の場合。
2第10条 知的財産権と不正競争紛争に係る行為保全案件において、下記のいずれか1つの状況がある場合、「民事訴訟法」第101条に定める「取り返しのつかない損害」に該当すると認定すべきである。
(1)被申請者の行為が申請者の享有する商業信用又は公表権、プライバシー権などの人格的な権利を侵害し、且つ取り返しのつかない損害をもたらした場合。
(2)被申請者の行為によって、侵害行為の制御が困難になり、申請者の損害が顕著に増大する可能性のある場合。
(3)被申請者の侵害行為によって、申請者の関連市場シェアが顕著に減少する可能性のある場合。
(4)申請者にその他の取り返しのつかない損害がもたらされる場合。
3第11条 事業者は虚偽情報又は誤認性情報を捏造又は伝達し、競争相手の商業信用、商品名誉を損害してはならない。
電子商取引の飛躍的な発展につれて、電子商プラットフォームは、すでに知的財産権の行使における重要な陣地になりつつある。しかし、インターネットにおけるプラットフォームの複雑性、及び知的財産権の登録制度と先取り登録などの原因により、知的財産権をめぐる悪意クレームが頻発し、一部の事業者は不正利益を得るために虚偽陳述、証票偽造、商標先取り登録などの手段を通じて、悪意に競争相手向けのクレームを提出しているが、クレームを提出された事業者は、短時間で事業を回復するために、前文で紹介した大手電子商プラットフォームに主動的に名ブランドの適法店舗と連携して権利保護を行うほか、悪意クレームの提出者と和解などの方法による関連問題の解決ルートを選ぶしかない。このような悪意クレームは、他人の正常な事業活動を深刻に乱すと同時に、プラットフォーム上の正常な事業秩序を乱し、公平で秩序的な市場競争環境を壊している。
本文では頻発している電子商プラットフォームにおける知的財産権関連の悪意クレームについて、現段階の司法実務に結合した上、必要対策を簡単に紹介する。
1. 電子商関連の悪意クレームに対する抑制実況
電子商プラットフォームにおける悪意クレームを抑制するために、2019年1月1日から実施された「電子商務法」第42条では、すでに既存の「クレーム削除」規則を基にして、異議申立手続を追加すると同時に、誤ったクレームと悪意クレームに係る法的責任についても規定しているが、そのうち、誤ったクレームによりプラットフォームにおける事業者に損失をもたらした場合、関連法律により民事責任を負わせるものとしている。悪意に誤ったクレームを発送し、プラットフォームにおける事業者に損失をもたらした場合は、倍以上の賠償責任を負うものとしている。
しかも、ここ数年間、電子商プラットフォームにおける知的財産権関連の悪意クレームが頻発し、プラットフォーム上の経営秩序に損害をもたらし、司法資源を費やす現象が起こりつつあることに鑑み、最高裁判所は2020年4月10日付で「知的財産権司法的保護の全面的強化に関する意見」(法発〔2020〕11号)を公布し、インターネット上の知的財産権侵害紛争と悪意クレームによる不正競争紛争を妥当に審理することを強調し、法により誤ったクレームを発送した善意提出者の責任を免除し、電子商務プラットフォームを督促して、積極的に法定義務を履行するよう導き、電子商取引の健全な発展を促進すると同時に、権利濫用、悪意クレームなどにおける行為者の法的責任を追究することにより、各関係者の合理的な利益平衡を図っている。
最高裁判所の当該指導性規定では、司法機関が電子商関連の知的財産権悪意クレーム現象に対して厳しく規制し、悪意クレーム提出者により強い打撃を与え、法的責任を追究するところまでに改善し、司法機関は悪意訴訟に対する制裁を通じて、知的財産権訴訟の秩序を規範化し、信義誠実下での商業環境を構築することを表明している。
司法実務上、各大手電子商プラットフォームは悪意クレーム行為を抑制するために、プラットフォーム規則を更に改善するほかに、主動的に適法店舗と連携して権利保護を行い、悪意クレーム行為を打撃している。しかも、各地方裁判所は悪意クレーム案件について、必ず厳しく処罰するとの声明を発表している。
したがって、ここ数年間の立法状況及び司法実務では、電子商プラットフォームにおける事業者のために、知的財産権関連の悪意クレームに対抗する有効な法的環境を提供し、悪意クレームと悪意競争が完全に抑制されるようなことはないものの、悪意クレームに遭遇された事業者の権利保護関連規定は、徐々に改善され、信義誠実下での商業環境の整備には有利である。
2. 電子商取引における悪意クレームへの対策提案
実務上、仮に電子商プラットフォームにおける悪意クレームに遭遇した場合、如何に対応すべきであるか?通常、Tモールなどの電子商プラットフォームでは、店舗にクレームを出したクレーム書類とクレーム対象店舗の異議申立書類、及びプラットフォームにおける知的財産権関連のクレーム取扱規則に基づき、現状維持又はリンク切断、取引終止とサービスの削除、遮蔽などの必要措置を採用することを決める。しかし、一旦、クレーム提出店舗が知的財産権侵害訴訟を提起した場合、電子商プラットフォームでは、通常、販売リンクを削除する措置などを取っている。逆に、クレーム対象店舗は、長たらしい訴訟結果による救済を求めるしかないため、常に最適営業・販売機会を失い、更に莫大な損失を被ってしまう。
クレーム対象店舗が遅滞なく有効に自己の合法的権益を保護していることについて、筆者は次のいくつかの面に基づき、電子商プラットフォーム上の悪意クレームを対応するよう提案する。
● 訴訟保全メカニズムを合理的に利用
訴訟保全メカニズムについて、「民事訴訟法」及び最高裁判所の司法解釈では、主に財産保全、証拠保全、行為保全などを含む内容は明確に規定されている。実務上、前述の保全は、権利者が権利行使時に常用している保全措置である。すなわち、知的財産権者が他人による権利侵害行為を見付けた上、直ちに当該行為を制止しないと、取り返しの付かない損失をもたらす場合、裁判所に行為保全を申請し、被疑侵害者に訴訟前又は訴訟期間に、被疑侵害製品に対する製造・販売などの行為を停止するよう求めることができる。また、被疑侵害行為に係る証拠又は権利侵害から得た利益に係る証拠が滅失又は入手不能になる場合は、裁判所に証拠保全を申請することもできる。更に、確実な賠償を求めるためには、裁判所に被疑侵害者の財産に対する保全手続を申請することもできる。
電子商プラットフォームにおける悪意クレーム案件が増えることにつれて、数多い案件では同業者が電子商プラットフォーム上のクレーム体制を利用することにより、競争相手の正常な営業活動を乱し、クレーム対象者は常に極めて受動的な羽目に陥られてしまい、たとえ最終的に訴訟などを通じて、侵害に該当しないことを証明できたとしても、訴訟周期が長く、電子商プラットフォームにおける最適販売機会を失ってしまうため、手遅れになって賠償請求をする救済しかない。
実務の中で頻発する悪意クレーム状況について、各地裁判所では訴訟保全メカニズムに対しても新たな措置を取っている。南京市中等裁判所は、(2019)蘇01民初687号案件において、初めて「逆方向行為保全」を採用することにより、電子商プラットフォームにおける悪意クレームを有効に抑制した。同案件において、権利者は電子商プラットフォームクレームに対して、プラットフォームにおける販売店舗が自社の知的財産権を侵害したとして、プラットフォームに関連商品の販売リンクを切断することを求めたものの、販売者は自社製品が権利侵害製品に該当しないと主張し、かつ電子商プラットフォームとの間で数回も交渉したにもかかわらず、如何なる結果も得られず、結局、裁判所に電子商プラットフォームに対して、先に販売リンクを回復させようと請求した。南京市中等裁判所は、商品販売による権利侵害の可能性、販売者が取り戻しの付かない損害をもたらしたか否か、販売者による担保の提供状況、関連リンクの削除又は回復が公的利益に損害をもたらすか否かなどを含む事実と法的要件を総合的に審査した上、先行して削除されたリンクを回復すべきであると裁定した。
同案件は業界で国内初の「逆方向行為保全」案件と呼ばれており、業界内で積極的な反響を呼び起こした。その後、杭州市余杭区裁判所(2019)浙0110行保1号案件において、裁判所は再び「逆方向行為保全」の申請を認めていた。余杭区裁判所は審理を経て、「クレーム提出者が自らクレーム権のないこと、又はクレームの根拠が不足することを明知しながら、クレームを提出することにより、クレーム対象者に損害をもたらした行為は、『電子商務法』に規定する『悪意クレーム』行為に該当する。」と判定した。「悪意クレーム」行為について、クレーム対象者は裁判所に訴訟前又は訴訟期間内に行為保全を申請し、裁判所にクレーム提出者に対して、クレームの取り下げ又はクレーム提出者による継続的なクレーム発送行為を禁止させるよう請求することができる。裁判所はクレーム提出者の悪意程度、クレーム提出者の悪意クレーム行為がクレーム対象者に与える影響、行為保全措置を取らない場合、クレーム対象者にもたらした損害が、行為保全措置を取ることでクレーム提出者にもたらした損害を超えているか否か、及び行為保全措置を取ることが公的利益を損害するか否か、などの各方面に対する審査を経て裁定を下した。すなわち、3クレーム提出者に対して、直ちにそのタオバオ店舗に対して、タオバオ社に提起した知的財産権侵害クレーム行為を停止することを命じた。
最高裁判所は各地裁判所における「逆方向行為保全」に係る司法実務に結合した上、2020年9月10日付で、「電子商プラットフォームに係る知的財産権民事案件の審理に関する最高裁判所の指導性意見」(以下「指導性意見」という)を公布した。同指導性意見では「逆方向行為保全」に係る規定を明確化し、司法解釈の方法により、このような方法の内容・手続・要求を明確化している。
「指導性意見」第9条2項の規定によれば、緊急状態により電子商プラットフォーム提供者が直ちに商品リンクを回復せず、クレーム提出者が直ちにクレームを撤回せず、又はクレームの発送を停止しない行為などが、その合法的利益に取り戻しの付かない損害をもたらした場合、プラットフォーム内の経営者は、上述の法律規定に基づき、裁判所に保全措置の採用を申請することができる。
上述の規定によれば、電子商プラットフォームにおける悪意クレームについて、「逆方向行為保全」を申請する際には、次の要件を満たすべきである。
(1)「緊急状態」の状況だけに限る。
保全を申請する側は、「逆方向行為保全」の申請が「緊急状態」に該当することを証明すべきであり、「緊急状態」については、「知的財産権紛争行為保全案件の審査における適用法律の若干の問題に関する最高裁判所の規定」第6条1を参照して立証することができる。例えば、係争製品が具有する季節性、時期性、又は販売シーズンに置かれた係争製品、若しくは電子商プラットフォームで大型販売促進活動が行われる際に、仮に直ちに悪意クレーム行為を制止しないと、申請人の店舗内にある商品販売リンクがクレーム期間内の削除又は永久削除に遭遇し、店舗の取引が低減して、販売量が大幅に減少し、申請人に深刻な経済損失をもたらす場合である。
(2)申請人の合法的な利益が「取り戻しの付かない損害」を被る場合
上述の規定では相手の行為が悪意クレームに該当することについて、立証しなければならないことを強調していないものの、「逆方向行為保全」を行わなければ、自己の合法的な利益が取り戻しの付かない損害を被ることについては、証明しなければならない。したがって、立証のポイントは、自己の利益が合法的であるか否か、かつ取り戻しの付かない損害を被る可能性があることである。自己の利益が合法的であるか否かについては、クレーム提出者の主張する権利侵害行為が成り立つか否かについて考察すべきである。「取り戻しの付かない損害」については、「知的財産権紛争行為保全案件の審査における適用法律の若干の問題に関する最高裁判所の規定」第10条2を参照して立証を行うことができる。例えば、一旦、商品販売リンクが被疑侵害原因で削除された後、申請人は最適な販売時期を失うことになり、たとえその後に権利者の悪意クレームによる結果であることを確認できたとしても、そのリンクが再度回復される際には、当該リンクのランキング、顧客勧誘能力が以前と比べようもなくなり、又は権利侵害処罰が店舗の販売量全体に深刻な影響をもたらし、競争能力も弱化され、市場シェアが低下されるなどの状況について、立証し、説明しなければならない。
● 悪意クレーム提出者の侵害責任に対する追究
悪意クレームに遭遇された事業者は、「逆方向行為保全」を利用して、自己の販売行為の正常な回復を確保するほかに、更に積極的な法的手段を通じて、悪意クレーム提出者の侵害責任を追究することもできる。実務においては、悪意クレームと悪意訴訟行為について、次の数種類の方法から救済を求めることができる。
(1)「不正競争防止法」による救済
現在、電子商プラットフォームにおいて、悪意クレーム提出者は、著作権、意匠権、実用新案権などの形式審査のみを経た権利、又は先取り登録による商標の大量登録、悪意クレームなどを含む違法コストが低い方法を利用して、他人の正当な事業活動に影響を与えており、更に不正利益を求めている。仮に権利取得自体が違法である場合、権利付与証書に記載された主体は、真正な権利者ではなくなり、権利付与証書を利用して、クレームを提出した場合、真正な権利者及びその適法な事業者は、必然的に損害に遭遇されてしまうだろう。このような悪意クレーム行為については、「不正競争防止法」に基づいて保護を求めることができる。
司法実務において、電子商プラットフォームにおける悪意クレーム行為は「不正競争防止法」第2条に基づいて判定された裁判実例が比較的多く、それなりの参照価値がある。例えば、杭州余杭区裁判所の(2016)浙0110民初11608号案件において、裁判所は「被告は自ら出願した係争特許について、国務院特許行政部門の作成した意匠権評価報告における初歩的結論が『意匠全体が権利付与要件を満たさない』であることを明知しながら、意匠権評価報告の結論を改ざんし、かつ変造した証拠を利用して、電子商プラットフォームに原告の経営している同類商品に対する悪意クレームを提出し、原告の係争商品リンクはプラットフォームにより削除されてしまったが、被告の行為は公認商業道徳準則に違反し、原告に正常な事業活動を展開しかねさせ、かつ損害をもたらしたため、不正競争行為に該当する。」と認定した。
「不正競争防止法」第2条が原則的な規定であるため、当該条文に基づいて不正競争行為を主張する際には、次のような要素を考慮すべきである。
①悪意クレーム提出者とクレーム対象者の間に競争関係があるか?
②悪意クレーム提出者の主観的な悪意があるか?
③客観的にその他の事業者の権利を損害しているのか?
④正常な市場経営秩序を破壊しているのか?
なお、司法実務上、悪意クレーム行為について、更に「不正競争防止法」第11条3の規定に基づき、営業誹謗に該当すると認定した不正競争行為実例もある。例えば、(2019)遼02民終1083号案件において、被告は「自社はタオバオサイトにおけるクレーム規則を守っており、拡散どころか、商品撤回原因も公開していないため、営業誹謗に該当しない」と弁解したが、裁判所は「当該条文では虚偽事実に対する散布方法についての制限が規定されていない」と判定した。いわゆる「散布」とは、散らばって存在することを指すが、営業誹謗では虚偽事実について、一定の方式により第三者に伝達することだけを求めているが、その行為モデルは行為者が原点から関連情報を対外的に拡散し、具体的な手段は様々で、伝達方式も多様であり、主に虚偽事実の源流性に関する侵害者の責任と行為効果に対する公衆性の特徴を強調している。仮に行為者がある特定対象に自ら変造した虚偽事実を伝達し、当事者の事業活動に実質的な影響をもたらした場合も営業誹謗に該当する。タオバオサイトは中国国内の有数な電子商プラットフォームであり、被告がタオバオサイトの知的財産権プラットフォームにクレームを出した結果は、全体のプラットフォームを覆うことになり、直接公衆がタオバオサイト上で、原告会社の係争製品に接触する通路を切断してしまい、伝統的な虚偽事実の伝達方法に比べ、その影響範囲がより広く、損害結果も一層深刻であり、即時に効果をもたらすため、当該行為の直接性、即時性と破壊性は際立っている。したがって、挙軽明重の立場からみれば、被告が頻繁にクレームを提出する行為は、散布行為が求める公衆性の特徴を有し、営業誹謗に該当する。
上述の実例では、「不正競争防止法」第11条の規定に基づいて、悪意クレーム行為を制止していたものの、裁判所が当該条文の適用時に考慮した要素は、上述の第2条に組み込まれた考慮要素とほぼ同一であるため、実務上、悪意クレームに遭遇された事業者は、案件の実況に基づき、第2条又は第11条に対して自ら主張することができるものの、第2条が原則的規定であるため、仮に裁判所が第11条を適用して不正競争行為を認定する際には、当該原則的な規定を適用して判断しない。
(2)悪意訴訟提起関連損害責任紛争による救済
上述のとおり、電子商プラットフォームにリンクを削除させると同時に、更にプレッシャを掛けるために、一部の事業者は悪意クレームにより競争相手を打撃し、かつ悪意訴訟を提起している。この類の悪意訴訟については、訴訟提起により賠償を請求することができる。
2011年、「民事案件訴因規定」が改正された際に、知的財産権悪意訴訟における賠償請求紛争に的中して、「知的財産権悪意訴訟提起関連損害責任紛争」を一種の訴因として正式に規定の中に組み込んだ。「悪意訴訟問題に関する最高裁判所民三廷の研究報告」(2004)によれば、悪意訴訟とは、一般的に故意に他人に損害を被らせることを目的にし、事実的根拠と正当な理由もなしに民事訴訟を提起することにより、相手当事者(相対人)に訴訟中の損失を被らせる行為を指す。
また、(2015)京知民初字第1446号案件判決で指摘されたとおり、ある類の訴訟行為が悪意による知的財産権訴訟の提起に該当する場合、少なくとも次のような構成要件を満たさなければならない。
①相手当事者が知的財産権訴訟を提起する方法により、ある類の請求を提出し、又はある類の請求を提出することにより、脅威を図る場合
②請求提出した一方当事者が主観的な悪意を有する場合
③実際な損害結果を有する場合
④請求提出した一方当事者が知的財産権訴訟を提起した行為と損害結果との間に因果関係を有する場合。
現段階の司法実務において、知的財産権関連の悪意訴訟の多くは、特許分野案件であり、数多い不正行為者は実用新案、意匠などにおける実体審査を経ていない権利を付与された後、クレーム作戦を開始しているものの、1件の特許だけが無効にされたとして、権利者の権利行使に主観的な悪意があると認定するわけにはいかない。北京市高等裁判所が公布した「特許権侵害判定指南」の規定によれば、仮に悪意クレーム提出者が次に掲げる状況で悪意に特許権を取得した後、その権利行使行為により他人に損失を被らせた場合、特許権濫用として該当すると同時に、その賠償責任を追究することができる。
①出願日前に、特許権者が明確に知っている国家基準、業界基準など技術基準における技術案を出願して特許権を取得した場合、
②国家基準、業界基準など技術基準の制定参加者が、上記基準の起草、制定等の過程で明確に知った他人の技術案を出願して特許権を取得した場合、
③ある地域に広く製造又は使用された製品であると明知しているのに、これを出願して特許権を取得した場合、
④実験データをでっち上げ、技術効果を偽りする等手段を取って、係争特許に特許法の権利付与条件を満足させて特許権を取得した場合、
⑤域外に既に公開された特許出願書類に披露された技術案を中国で出願して特許権を取得した場合。
なお、特許権侵害訴訟案件において、「中国特許法」には無効審判請求の審査手続が定められ、かつ特許権者も当該手続の中で、その特許請求の範囲に対して、請求項の削除、併合と技術方案の削除を行えるため、特許の権利基盤自体は、さほど安定的ではなく、特許権の保護範囲にも変化が生じ得ることに鑑み、悪意による特許権侵害訴訟の提起に該当するか否かを判定する際には、無効審判請求手続における特許権者の具体的な行為、及び後続的に特許権侵害訴訟を提起する行為の特徴に結合して総合的に考慮している。例えば、(2015)京知民初字第1446号案件において、被告は無効審判請求手続の中で主動的に係争特許における方法クレームを放棄し、更に当該主張について、方法特許権侵害を主張したが、当該主張について、裁判所は基本的な事実的根拠と権利基盤が欠如し、主観的な悪意が明らかであると判定した。
商標分野においても、悪意訴訟は基本的に商標の取消又は無効と密接につながっている。しかし、上述と同様に商標権が取り消されたり、又は無効にされたりすることは、決して悪意訴訟の直接的な理由にならず、更に訴訟提起者が自己の訴訟請求に事実的かつ法的根拠が欠如することを明知しているか否か、相手の合法的な権益を侵害する不当な訴訟目的を有するか否かに結合すべきである。仮に起訴時に形式上の合法性を有するに過ぎず、事実上、信義誠実の原則に違反し、自ら実質的な関連知的財産権を享有しないこと、すなわち、他人が先行使用し、かつ一定の影響力を有する商標を先取り登録したことを明知する状況下で、正常な事業者の合法的な権益を損害し、かつ不正利益を取得することを目的にし、更に商標の無効理由が基づく事実、すなわち、商標の登録を拒む絶対的理由の中にある特殊標章、通用名称、及び相応理由の中にある他人が先行著作権を享有する作品、他人が先行して中国国内で使用し、かつ一定の影響力を持つ商標であることを明知しながら、登録商標の目的が使用するためではなく、高い価格で商標を譲渡するなどの方法により、旨い汁を吸うためであり、代理人、代表者が自らの名義で被代理人又は被代表者の商標を登録したり、又は契約、業務往来関係又はその他の関係に基づき、他人の商標が存在していることなどを明知している状況下で、依然として他人の合法的な利益を侵害することを目的として訴訟を提起した場合は、悪意訴訟として認定しなければならない。
上述をまとめると、悪意クレーム又は悪意訴訟行為に該当するか否かについて、知的財産権の権利基盤が確実に欠如することから起訴した状況のほかに、自己が既存の知的財産権の権利基盤を喪失されていることを明知する状況も含めているが、このような状況に対する判断では、知的財産権を出願した際の当事者の主観的な状態も考慮し、各種の要素を総合的に考慮すべきである。
終わりに
知的財産権関連のオンラインクレームの提出は、知的財産権者が比較的短い期間内に権利侵害行為を制止することができる有効な手段であるものの、合法的な権利行使と権利濫用の防止の間ではバランス関係を保つべきである。法律整備と司法実務の発展に伴い、知的財産権関連の悪意クレームと悪意訴訟の行為に対する抑制手段は、徐々に改善されつつあり、各権利者は合法的な手段を通じて、自己の権利を主張し、悪意クレーム又は悪意訴訟に遭遇される適法事業者も、法律保護フレーム下で積極的に権利を保護し、共同にインターネット産業と電子商取引の秩序的な発展を促進すべきである。
1第6条 下記のいずれか1つに該当し、行為保全措置を直ちに講じなければ、申請者の利益が損なわれる場合、「民事訴訟法」第 100条、第101条に定める「緊急事態」に該当すると認定すべきである。
(1)申請者の営業秘密が不法に開示される場合。
(2)申請者の公表権、プライバシー権などの人格権が侵害される場合。
(3)係争知的財産権が不法に処分される場合。
(4)申請者の知的財産権が展示販売会などの時効性の強い状況下で、侵害されているか、又は侵害される可能性のある場合。
(5)時効性の強い人気番組が侵害されているか、又は侵害される可能性のある場合。
(6)行為保存措置を直ちに講ずるべきその他の場合。
2第10条 知的財産権と不正競争紛争に係る行為保全案件において、下記のいずれか1つの状況がある場合、「民事訴訟法」第101条に定める「取り返しのつかない損害」に該当すると認定すべきである。
(1)被申請者の行為が申請者の享有する商業信用又は公表権、プライバシー権などの人格的な権利を侵害し、且つ取り返しのつかない損害をもたらした場合。
(2)被申請者の行為によって、侵害行為の制御が困難になり、申請者の損害が顕著に増大する可能性のある場合。
(3)被申請者の侵害行為によって、申請者の関連市場シェアが顕著に減少する可能性のある場合。
(4)申請者にその他の取り返しのつかない損害がもたらされる場合。
3第11条 事業者は虚偽情報又は誤認性情報を捏造又は伝達し、競争相手の商業信用、商品名誉を損害してはならない。