北京魏啓学法律事務所
はじめに
現在インターネットは、知らず知らずのうちに人々の生産、生活方式を変革し、知的財産権に対しても重大な影響を及ぼしている。インターネット技術の発展によって、知的財産権の関連情報が迅速、かつ効率的に伝達され、知的財産権の発展が推し進められている一方で、ドメイン名のような新しい知的財産権が誕生している。しかしながら、インターネット環境は、知的財産権の侵害行為のためにより便利な条件を提供し、しかも、インターネット技術の応用によってドメイン名等の新しい知的財産権に対する保護もますます重要になっている。
本文では、現在のインターネット環境における知的財産権侵害行為の基本類型と基本対策及び多発的ないくつかの侵害行為に対する具体的な対応方法などを紹介する。皆様が、インターネット環境における知的財産権をより確実に保護するのに少しでも役立てば幸いである。
第一章 中国のインターネット環境における知的財産権保護の現状及び概要
1.インターネット環境における知的財産権保護の現状
中国インターネット情報センター(CNNIC)は、今年7月21日に「第34回中国インターネット発展状況統計報告」(以下「報告」という)を発表した。当該「報告」によると、今年6月までに中国のネットユーザーは、6億3200万人に達し、前年末に比べて1442万人増加した。インターネットの普及率は、前年末比で1.1ポイント上昇し、46.9%に達した。また、今年6月までに中国のウェブサイト数は、すでに273万に達し、オンラインショッピングのユーザー規模は、3億3200万人に、オンラインショッピング市場の取引額は、1兆8500億元に達した。
インターネットの普及及びネット取引の急速な発展につれて、インターネット上で、知的財産権侵害事件が頻発するようになっている。たとえば、ネット著作権侵害事件の場合、国家版権局の統計によれば、2005年から2014年までの間に発生したネット上での侵害や海賊版事件は4241件に、その関連金額は計783万元に達している。行政法執行機関によって法により閉鎖された権利侵害や海賊版に係るウェブサイト数は1926に達し、サーバー及び関連設備1178台が没収され、司法機関に移送されその刑事責任が追及された事件は322件に達した。したがって、インターネットの絶え間ない発展につれて、ネット環境における知的財産権の保護の重要性は、日増しに際立ってきている。
インターネット環境におけるネット上での知的財産権侵害は、一般的な知的財産権侵害とは異なり、次のような特徴を有している。
まず、拡大化されたネット上での知的財産権の無形財産権としての性質は、知的財産権の侵害行為により便利な条件を提供していることである。インターネット環境において、知的財産権が有している無形性は、インターネット環境下でより明らかに体現されており、知的財産権の対象は、いずれもデジタル化された電子信号として表現され、感知できるのは、インターネット端末の画面におけるデータイメージングに過ぎない。つまり、一般的な知的財産権はいずれも有体物であるが、インターネット環境下で伝送される文字、音声、画像等は、いずれもこのようなの知的財産権保護の対象をデジタル化したもので、かかる対象はより簡単に複製・伝達される。
次に、ネット上での知的財産権のボーダーレス性は、知的財産権の保護において、さまざまな知的財産権保護制度に抵触をもたらしている。一般的な知的財産権における地域性は、インターネットの出現により実質的な打撃を受け、伝統的な意義における知的財産権の対象がネットプラットフォームを通じて迅速、かつ効率的に世界範囲内に伝達されるようになり、地域間の境界線もインターネット環境下では徐々に希薄化されている。人類の知的成果は、瞬時にその他の知的財産権の立法区域へ送達された時点で、各保護制度の間で抵触が生じる可能性がある。
さらに、ネット上での知的財産権に対する侵害行為は、連鎖化の傾向を呈している。実務においても、例えば、マルチメディアのような情報集合体に対する侵害は、マルチメディアに含まれるその他の著作権、商標権の侵害に及ぶなど、ある侵害行為が幾つかの知的財産権侵害行為に及ぶことがある。
最後に、インターネット環境において、侵害行為に対してその立証と責任追及には限界があることである。知的財産の権利自体が無形性と情報性と言う特徴を有するので、その他の侵害行為に比べて隠蔽性が高く、侵害の認定にもある程度の難しさがあり、侵害行為に対する追及にもある程度の限界がある。特に、インターネット環境における権利侵害行為について、侵害証拠の大多数がデータであるので、より隠蔽性が高く変化が多い。かかる特徴は、侵害行為に対する認定と追及をより難しくしている。
2.インターネット権利侵害行為の主な類型
よく見られるインターネット上での知的財産権侵害紛争には次の数種類がある。
1)他人の商標又は商号をドメイン名として先取り登録し、かつ使用する行為
ドメイン名とは、コンピューターネットワーク通信において、ネットにおける個々のコンピューターを識別し、そのアドレスを表すために用いる特定のキャラクターセットの識別子のことを言う。すなわち、インターネット上のコンピューターの専用コードである。ドメイン名は、新しい知的財産権の一種類として他の知的財産権と同様に保護されるべきである。通常よく見られるのは、他人の商標又は商号をドメイン名として先取り登録することである。先取り登録されたドメイン名の大多数は、比較的高い商業価値を有する商標、商号又は原産地の名称等である。ドメイン名は、インターネット環境下で商標や商号と同様に識別機能を有するので、ある意味から言えば、ネット環境において商標や商号と同様に法律によって保護されるべきである。
インターネットの普及に伴い、商標、商号とドメイン名に係る紛争は後を絶たない。世界知的所有権機関(WIPO)が公表した報告によれば、2013年当該機関の仲裁調停センターは、商標に係るドメイン名先取り登録事件を計2585件を受理し、先取り登録されたドメイン名数は史上最高の6191に達し、前年比で22%増加した。
2)第三者の電子商取引のプラットフォームにおける侵害商品の販売
関連データによれば、2013年中国オンラインショッピングのユーザー規模は、3億3200万人に、その使用率は前年比で6.0ポイント増の48.9%に達した。共同購入のユーザー規模は1億4100万人に、その使用率は前年比で8.0ポイント増の22.8%に達し、ユーザー規模の年成長率は68.9%に達している。インターネット取引の絶え間ない規模拡大につれて、第三者電子商取引のプラットフォームは、知的財産権侵害品販売の多発地帯となっている。関連報告によれば、2012年1月から6月の間にタオパオサイトでは、計約4700万件もの知的財産権を侵害した商品情報を取扱った。インターネットにおける第三者電子商取引のプラットフォームにおいて権利侵害製品販売の被害が甚大になっている原因は、企業が盲目的に利益を追求した結果であるとともに、中国の現行のネット上での知的財産権に対する管理監督力の欠如と関連法律の無力さも反映しているので、権利者の権利が現行の法制環境下では有効な保護を受けられていないことによる。
3)インターネットによる無断盗用又は他人著作物の伝達行為
中国国家版権局統計データによれば、インターネットの発展につれて、インターネット著作権侵害紛争も徐々に増えている。それと同時に、著作権紛争事件におけるインターネット著作権侵害紛争事件の割合も益々大きくなり、すでに著作権紛争事件の主要な類型の一つになっている。
4)ウェブサイト上における他人の商標又は商号の不法使用行為
商標と商号が企業の重要な知的財産権である原因は、主に商標と商号が重要な識別機能を有しているからである。違法者は、当該識別機能を利用してウェブサイトにおいて他人の商標又は商号を不法に利用して宣伝することにより、公衆の耳目を惑わす目的を達しようとしている。
5)商業信用の損害、虚偽宣伝等の不正競争行為
国家工商総局が公表した通達によれば、2013年3月から12月までに中国の20余りの主なウェブサイトにおける広告発表状況に対する監視・抽出検査の結果、深刻な違法広告が広告総数の約33%を占めていることが判明した。インターネットが有する開放性、不確定性及び隠蔽性等の特徴のため、インターネットを介する「不正競争」に対する管理監督がより一層困難になっている。ネット上での不正行為には、主に詐称又は模倣、虚偽広告、営業秘密侵害、企業の名誉毀損等がある。
6)他人の商標又は商号をマイクロブログ、ウィチャット等のユーザー名又はアプリケーションソフト(モバイル応用プログラム)の名称として先取り登録し、使用する行為
「報告」によれば、今年6月までにマイクロブログのユーザー数は急増して既に2億7500万人に達し、ネットユーザーの使用率は43.6%に達している。また、マイクロブログ使用の普及に伴い、その商業的価値も日増しに際立つようになり、ますます多くのユーザーがマイクロブログを重要な宣伝ルートとして利用している。一部のマイクロブログユーザーは、ドメイン名の先取り登録をまねて、悪意により他人の登録商標をマイクロブログユーザー名として先取り登録し、不正利益の取得を図っている。
また、インターネットデータセンター(以下、DCCIという)の2014年中国モバイルインターネット調査データによれば、中国モバイルインターネットのユーザー規模は、2012年にすでにPCインターネットのユーザー数を超え、2013年にはそのユーザー規模は6億8500万人に、年間の増加率は18.4%に達している。それと同時に、DCCIの予測によれば、2015年までにそのユーザー規模は8億6000万人に達することが予測されている。しかも、各種のアプリケーションソフトに対するネットユーザーの使用率も急速に上昇している。関連統計データによれば、2011年末まで中国におけるアプリケーションソフト数は年間202.5%の割合で増加し、アプリケーションソフト数はすでに135万個を超えた。中国は、すでに伝統的なインターネット時代から迅速にモバイルインターネット時代に入り、モバイルインターネットにおけるアプリケーションソフトは、ネットユーザーがモバイルネットワークにアクセスする最も主なルートになり、重要な戦略価値を有している。かかる状況下で、アプリケーションソフト名称について、他人の知名商標又は商号を登録する事例は後を絶たず、アプリケーションソフト名称は、今後ドメイン名、マイクロブログユーザー名とウィチャットユーザー名に続き、先取り登録されることが予測される重点的な分野になっている。
3.インターネット環境における知的財産権侵害行為に対応する基本策略
1.侵害行為の実施主体の明確化
侵害行為の実施主体を明らかにすることは、次の対策を取るための前提である。インターネットは、高い隠蔽性、変化が多い等の特徴を有する。したがって、実施主体の判別は、その他の類型の知的財産権侵害に比べてより難しくなっている。権利者は、次のいくつかの面から侵害行為者の情報を調べることができる。確実な社名の確認後、全国企業信用情報公示システム(http://gsxt.saic.gov.cn)に登録して当該市場主体の基本情報を検索することができる。
検索内容 | ドメイン名登録者情報 | ネット経営者情報 | ネットショップ経営者情報 |
ウェブサイト | http://whois.www.net.cn/等のドメイン名プロバイダーのウェブサイト |
http://www.miibeian.gov.cn 工業と情報化部ICP/IPアドレス/ドメイン名情報届出管理システム |
各ネットショップ公示内容 |
紹 介 | Whoisは、ドメイン名のIP及び所有者等の情報を検索するために用いる転送プロトコルである。ドメイン名がすでに登録されているか否か、及び登録ドメイン名の詳細な情報を検索するために用いるデータベースとして理解することもできる。権利者は、whoisを通じてドメイン名情報を検索することができる。 | 工業・情報化部は、2009年から国内ウェブサイトに対して届出を要求している。したがって、大部分のウェブサイトの経営者は、すでにウェブサイトの関連情報を届け出ているし、当該ウェブサイトを通じて経営者の関連情報を検索することができる。 | 成熟した電子商取引ウェブサイトでは、すでに比較的完全な身分認証体系を構築しているので、権利者は、関連インターネット取引のプラットフォームを通じてネットショップの経営者情報を検索することができる。 |
2.侵害の確認
侵害者情報の確定後、更に自分の権利状況と相手の侵害行為に対して評価しなければならない。知的財産権者は、自分の権利、相手の侵害行為の性質、実際状況及び証拠保全の状況に基づいて、具体的な対策を確定すべきである。侵害者が関連権利を享有するか否か等の状況ついて調査を行い、かつ、相手が享有する権利が有効であるか否かを確認したうえ、相手の権利が有効である場合は、自分の権利状況と弱点などについて改めて整理する必要がある。通常、以下のいくつかの面から分析している。
権利の地域性 | 侵害行為地で知的財産権を有するか否か。 |
権利の有効性 | 関連知的財産権は有効期間内にあるか否か、権利は更新が必要か否か、及び相応の年金を納付しているか否か。 |
権利の安定性 | 相手が無効審判請求を提出した際に、当方が享有する権利の安定性を十分に分析する必要があること。 |
侵害行為の分析 | 相手の行為が具体的に権利者の如何なる知的財産権を侵害しているかを判断すること。たとえば、商標専用権を侵害しているか、それとも著作権を侵害しているか、若しくは同時にいくつかの権利を侵害しているか否か等である。 |
3.侵害証拠の保全
インターネット侵害事件において通常使用する公証手続は以下の通りである。
ウェブページ 公 証 |
ウェブサイトにおける侵害品の宣伝している画面、侵害製品の写真等の侵害情報について、公証人の立会いで証拠収集し、かつ、プリントアウト・保存して、侵害証拠として使用すること。 |
ネット上公証付 購入 |
公証人の立会いで、ネットを通じて発注し、侵害製品の郵送物を、公証人の立会いの下で受領すること。 |
注 意 事 項 |
(1)侵害ウェブページの削除のみを求める場合は、第三者のウェブサイトに対して、関連権利帰属証明及び模倣品確認等の資料及び削除理由の陳述書を提出すればよいので、証拠の証明力に対する要求が比較的低い。また、司法ルートを介して解決する場合は、証拠の証明力に対する要求が比較的高いので、侵害品に対する公証付購入が必要となる。侵害製品を非公証付ルートで購入した場合、その証明の効力が裁判所に認められないこともある。 (2)公証付購入の際、公証の効力を確保するために、できる限り購入の全過程について、特に郵送物の受領過程について公証人の監督下で完成すべきである。仮に独自で郵送物を受領した後、公証役場に提出した際には、当該製品が差替えられたか否かについての紛争が生じうる。 |
4. 採用することができる法的手段
警告と電話による交渉
警告書は、自力救済の方法の一種としてよく用いられるが、主に侵害行為が軽微で、かつ、コストを抑えたい事件に用いられている。警告書自体は、強制的な効力を有しないので、警告書の発送後、侵害者が権利者の要求に応じて侵害行為を中止するか否かは、主に侵害者の法的意識及び態度による。警告書を発送した後、相手から一定期間内に応答がない場合、直接相手と電話で交渉したり、弁護士の身分を以って相手にプレッシャーを掛けたりすることにより、直ちに侵害行為を中止させることができる。
ドメイン名紛争解決センターへの仲裁による解決
ドメイン名紛争の発生後、当事者は、協議によって解決することができる。しかし、大半の協議は電話又は面談による口頭形式に限られ、時間が長引いて仲裁の時効期間が経過してしまう状況もあるので注意を払う必要がある。したがって、関連権利者は、遅滞なくドメイン名紛争解決センターにその裁決を請求するのが得策である。商標等の先行知的財産権に基づいて仲裁を行った場合、その勝訴率は相当高くなる。当該措置の採用すれば、ドメイン名紛争を迅速、簡便に、低コストで解決することができる。
工業と情報化部への訴え
工業と情報化部の規定に基づき、ウェブサイトの経営者は、「工業と情報化部ICP/IPアドレス/ドメイン名情報届出管理システム」を通じてそのウェブサイト関連情報を届け出なければならない。侵害者の関連侵害ウェブサイトが同部に届け出されていない場合、現地の通信管理機関に関連ウェブサイトが届け出されていないことを理由に訴えることができる。当該訴え手続きについては、法律に明記されていないものの、通常、電話とメールによる方式で関連部門に侵害ウェブサイトのアドレスを通報することができる。
第三者電子商取引のプラットフォームへの訴え
「権利侵害責任法」第36条には、「ネットワーク利用者がネットワークサービスを利用して権利侵害行為を実施した場合、被権利侵害者は、ネットワークプロバイダーに対して、削除、遮蔽、接続の切断等の必要な措置を取ることを通知する権利を有する。」と規定している。
現在、中国国内における主な電子商取引のプラットフォーム、たとえば、タオパオ、アリババ及び京東等は、いずれも比較的整備された知的財産権保護対応体系を構築しているので、第三者電子商取引のプラットフォームを利用して侵害製品が販売されているのを発見した場合、かかる電子商取引のプラットフォームに対して、侵害リンクについてクレームを提出することができる。ほとんどの場合、クレームの理由が正しく、侵害行為が確かに存在しさえすれば、関連侵害リンクは、直ちに削除される。
工商局等の行政機関への行政取締請求
実店舗を有する侵害者については、自力救済のほかに、行政取締を請求することにより解決することができる。行政救済は、その打撃力が大きく、処理が迅速である等の特徴を有し、更に証拠保全の効果も有する。しかし、権利者は、行政取締で権利の救済を求める場合は、行政機関に損害賠償を請求することができないことに注意しなければならない。
司法ルート
訴訟は通常、侵害行為が比較的深刻で、自力救済と行政救済によって予期した効果を達成できず、侵害者にプレッシャーを掛けることで徹底的に侵害行為を差止め、かつ、損害賠償を求める事件に適用される。司法ルートにより権利を救済することは、侵害者に対して比較的大きいプレッシャーを掛けられ、侵害者にその侵害行為を中止させると同時に、侵害者に損害賠償を請求することもできる。しかも、審判手続は、行政取締手続に比べてより公開的で且つ透明で、紛争解決の公平性を最大限に確保することができる。
第二章 ドメイン名紛争及びその解決
1.ドメイン名紛争の概要
ドメイン名は、インターネットにおけるユーザーのアドレスで、その他のユーザーと識別するために用いる標識であり、識別機能を有する。「中国インターネットドメイン名管理弁法」第3条第(1)号には、「ドメイン名とは、インターネットにおいて、コンピューターを識別・位置づけする階層構造型のキャラクターセットの識別子のことを言い、当該コンピューターのインターネットプロトコル(IP)アドレスと相互対応する。」と規定している。
ドメイン名は、唯一性の特徴を有し、すなわち、1つのドメイン名が登録された場合、全世界範囲内でその他の如何なる者も、完全に同一なドメイン名を再度登録することができない。したがって、ビジネス的な観点から見れば、ドメイン名は、一定のキャラクターを有する特有な標識として、商標、商号及び著作権等の知的財産権と同様に、企業又は個人の特有な商業価値を代表し、企業又は個人のインターネットにおける「商標」、「商号」としてみなすことができる。
インターネット経済が大きく発展するにつれて、この数年、ドメイン名登録と使用により生じたドメイン名紛争も頻発しているが、その主な内容は、ドメイン名と商標、商号、姓名等との間の権利の抵触である。中国では、1996 年末までに長虹、健力宝、紅塔山、五粮液、青島啤酒、娃哈哈及び全聚德等を含む600 社以上の著名企業の商標又は名称がすでに先取り登録されている。 この数字は、未だに継続的に増加傾向を示しており、多数の著名ブランドも、依然として商標と同一又は類似するドメイン名が先取り登録されている状況である。たとえば、JACK&JONES事件等である。また、開心(kaixin)ウェブサイト知名役務、及び知名芸能人周立波の姓名関連の不正競争事件など一部のソーシャルネットワークサービスやスター名に対するドメイン名不正競争事件も、インターネットの健全な発展に警鐘を鳴らしている。
2.ドメイン名紛争典型的事例
1)ドメイン名と商標権との紛争
欧州アパレル大手ベストセラー社が自然人崔煥所等を訴えた「傑克・瓊斯」商標権民事紛争事件 において、原告ベストセラー社は、許諾を得て中国国内で「JACK&JONES」商標を使用する権利及び侵害訴訟を提起できる権利を有し、登録を経て「傑克・瓊斯」商標専用権を享有していた。被告である崔煥所と杜興華は、許諾を得ずに、「jackjonescn.net」と言うドメイン名を登録し、かつ、当該ドメイン名を利用して「傑克瓊斯中国語サイト」を開設した。ネット上で検索すると、当該ウェブサイトのタイトルは、「JACKJONES中国語網-傑克瓊斯中国語網-JACK&JONES中国語公式ウェブサイト」と表示され、ホームページには「傑克瓊斯中国語網」、「JACK&JONES公式ウェブサイト」等の記載内容があった。また、当該ウェブサイトのトップページ及び関連ページでは「傑克瓊斯中国語網」、「jackjones中国語網」等の記載、傑克瓊斯及びロゴを大量に使用し、かつ、「JACK&JONESの紹介」等の内容が掲載されていた。しかも、関連ページのソースファイルには、「傑克瓊斯、JACKJONES、jackjones」等に係る文字を大量に使用していた。更に「製品リスト」に並べられた各種服装品の左側には、いずれも対応の実物図形とJACK&JONES及びロゴが示されていた。北京市海淀区裁判所は、審理を経て、被告の行為は商標権者の許諾を得ずに、同一商品の宣伝、紹介及び取引において、「JACK&JONES」、「杰克・瓊斯」と同一又は類似の商標を使用し、かつ、上述の商標専用権侵害商品を販売していた行為は、関連公衆に上述のドメイン名、ウェブサイトの所有者及び服装の提供者があたかもベストセラー社であるかのような誤認を容易にもたらすので、ベストセラー社の合法的権利に対する侵害を構成すると認定した。そのため、同裁判所は2011年4月26日、両被告に対して侵害服装品の販売を中止し、権利侵害服装品の販売に用いた係争ウェブサイトを閉鎖し、係争ドメイン名jackjonescn.netの使用を中止すること、当該ドメイン名は原告が登録・使用し、かつ、両被告に対して「法制日報」と新浪網(www.sina.com.cn)に謝罪声明を掲載し、影響を除去し、原告の経済損害及び訴訟にかかった合理的支出約200万元を賠償することを命じる判決を言い渡した。
2)ドメイン名と知名役務の特有名称との間の紛争
北京開心人信息技術有限公司と北京千橡互聯科技発展有限公司、北京千橡網景科技発展有限公司との間の不正競争紛争上訴事案【北京市高等裁判所(2011)高民終字第846号民事判決書】において、北京開心人信息技術有限公司(以下「開心人社」という)は、2008年3月から「開心網」(kaixin001.com)というソーシャルネットワークサイトを運営していた。北京千橡互聯科技発展有限公司(以下「千橡互聯社」という)は2008年10月16日、「kaixin.com」というドメイン名を譲り受けた。千橡互聯社と北京千橡網景科技発展有限公司(以下「千橡網景社」という)も、「開心網」(kaixin.com)というソーシャルネットワークサイトを開設した。原告開心人社は、被告千橡互聯社と千橡網景社が「開心網」(kaixin001.com)が知名ウェブサイトであることを知った上で、自社のウェブサイト名として「開心」名称を使用し、「kaixin.com」というドメイン名を使用した行為は、自社の知名役務の特有名称「開心網」に対する模倣行為であり、不正競争を構成すると主張した。北京市第二中等裁判所は、一審判決において、千橡互聯社と千橡網景社に対して、ソーシャルネットワークサービスを提供する際に開心人社の知名役務の特有名称「開心網」と同一又は類似の名称を使用してはならず、開心人社に40万元を賠償することを命じる判決を言い渡した。開心人社は、当該判決を不服として上訴を提起した。北京市高等裁判所は、二審において、開心人社が「開心網」(kaixin001.com)を介して提供したソーシャルネットワークサービスは、2008年3月以降の比較的短期間で一躍知名役務となり、当該ウェブサイトの名称は、ネットユーザーが当該サービスを識別できる最も重要なルートとして、当該知名役務の特有名称を構成し、不正競争防止法による保護を受けるべきであり、千橡互聯社は開心人社が「開心網」(kaixin001.com)を介して提供したソーシャルネットワークサービスがすでに知名役務を構成していることを明らかに知りながら、当該知名役務の特有名称「開心網」をウェブサイトの名称として使用し、同一行業と分野において、公衆にソーシャルネットワークサービスを提供したことは、両者のサービスに対するネットユーザーの混同をもたらし、不正競争を構成すると認定し、二審裁判所は一審判決を維持する判決を言い渡した。
3)ドメイン名と姓名権との間の紛争
岳彤宇と上海の有名なコメディアン周立波との間の姓名権に関する不正競争上訴事件において、被告周立波は2011年9月29日、中国語ピンイン「zhoulibo」に対して合法的な民事上の権益を享有し、係争ドメイン名の主要部分「zhoulibo」と被告周立波の姓名のピンイン表記は完全に同一であり、かつ、ドメイン名登録者「HongYiShen」は、係争ドメイン名に対して合法的権利を享有せず、更に高価格で係争ドメイン名を譲渡しようしているが、係争ドメイン名を登録・使用したことには明らかな悪意があるとの理由で、アジアドメイン名紛争解決センター(以下「アジアドメイン名センター」という)に仲裁を申立てた。その後、アジアドメイン名センターは、周立波の仲裁請求を認めた上で、係争ドメイン名を周立波に移転させる裁決を下した。当該裁決を不服とした岳彤宇は、係争ドメイン名の実際の使用者として、法により裁判所へ訴訟を提起した。訴訟において、「コンピュータネットワークドメイン名に関連する民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に対する最高裁の解釈(以下、「ドメイン名解釈」という)」第4条の規定に基づき、双方当事者の主な争点は、周立波が「zhoulibo」に対して民事上の権益を享有するか否か、周立波の姓名は不正競争防止法における姓名を構成するか否かであった。裁判所は審理において、「中華人民共和国不正競争防止法」第5条第(3)号の規定及び「不正競争民事事件審理における法律適用の若干問題に関する最高裁判所の解釈」第6条第2項の規定に基づき、商品経営中に使用している一定の市場知名度を有し、かつ、関連公衆に熟知されている自然人の姓名、筆名、芸名等は、中国「不正競争防止法」により保護されており、他人が勝手に使用すること、若しくは、他人が不正手段により市場取引等の経営活動に従事することを禁ずる権利を有すると認定した。
3.ドメイン名紛争解決の主なルート
(1) 協議
ドメイン名はその他の知的財産権と同様に、権利者が自発的に処理できる権利である。協議による解決は、自力で紛争を解決するルートであると言える。協議のメリットは、証拠を訴訟又は仲裁のように十分に収集する必要がなく、所有している証拠又は掌握した状況に一定の優勢さえ有れば、侵害者又は「不正競争防止法」に違反した側に対して係争ドメイン名の移転請求を提起できることである。また、所要時間について、相手が構成の可能性のある自己の違法行為又は侵害行為を重視さえすれば、ドメイン名紛争は迅速に解決される。更に、コストについても、協議による解決に必要な費用は、最低限に抑えることができる。しかし、協議による解決にも一定のデメリットがある。通常、侵害者又は「不正競争防止法」違反者が自己行為の深刻性を認識していない場合、往々にして権利者の要望に対する対応が遅かったり、又は完全に無視したりする態度を採り、若しくは不合理で法外なドメイン名の移転費用を要求する。かかる行為は、双方の協議を膠着状態に陥らせ、最終的には紛争解決の時機を逸してしまうことすらある。しかも、仮に電話又は口頭による方法で係争ドメイン名に係る権利を主張する場合は、「口先で言うだけでは証拠にならない」ということで、訴訟時効を逃すリスクが生じる。
すなわち、ドメイン名ネーム紛争の異なる類型に対して、協議を適用することには制限がなく、単純なドメイン名ネーム権利帰属紛争にしろ、又は複雑なドメイン名侵害若しくは不正競争紛争にしろ、協議は、いずれにも適用できるものである。先行権利者は、実際の状況と協議の優劣に基づき総合的に選択すべきである。
(2)訴訟
ドメイン名紛争訴訟には、民事訴訟の一種として、手続上では同様に「中華人民共和国民事訴訟法」及びそれに係る法律解釈の規定が適用される。ここではドメイン名とその他の民事訴訟の共通特徴については述べないものとする。これから主にドメイン名紛争訴訟において、侵害又は不正競争に対する認定及び相応の責任に係る法律規定について紹介する。
1. 管轄
「ドメイン名解釈」第2条には「ドメイン名に係る侵害紛争事件について、侵害の行為地又は被告の住所地にある中等裁判所より管轄する。侵害行為地と被告住所地を確定できない場合は、原告が当該ドメイン名を発見したコンピューター端末等の設備所在地を侵害行為地とする。
渉外ドメイン名紛争事件には、当事者一方又は双方が外国人、無国籍人、外国企業又は組織、国際組織、若しくはドメイン名登録地が外国であるドメイン名ネーム紛争事件を含む。中華人民共和国領域内で発生した渉外ドメイン名紛争事件は民事訴訟法第4編の規定に基づいてその管轄を確定する。」と規定している。。
2.侵害又は不正競争の認定
「ドメイン名解釈」の第4条には、「、ドメイン名紛争において、ドメイン名が権利侵害を構成し、又は不正競争を構成する場合、次に掲げる要件を満たさなければならない。
(1)原告が保護を求める民事的権益が合法的かつ有効であること。
(2)被告のドメイン名又はその主要部分が原告の馳名商標を複製、模倣、翻訳又は音訳である場合、又は原告の登録商標、ドメイン名等と同一又は類似し、関連公衆の誤認をもたらしやすいこと。
(3)被告が当該ドメイン名又はその主要部分について権益を享有せず、当該ドメイン名を登録、使用する正当な理由がないここと。
(4)被告が当該ドメイン名の登録、使用について悪意を有すること。」と規定している。
また、「ドメイン名解釈」第5条には、「被告の行為が次ぎの何れかの情状に該当する場合、裁判所は悪意があると認定しなければならない。
(1)商業目的のために、他人の馳名商標をドメイン名として登録した場合。
(2)商業目的のために、原告の登録商標、ドメイン名等と同一又は類似のドメイン名を登録、使用し、故意に原告が提供する製品、サービス又は原告ウェブサイトとの混同を生じさせ、ネットユーザーを誘導してそのウェブサイト又はその他のオンラインサイトを間違って訪問するように仕向ける場合。
(3)高値で売却・貸出し、又はその他の方法で当該ドメイン名を譲渡することにより不正利益を取得する場合。
(4)ドメイン名の登録後、自分で使用せず、また使用の準備もせず、意図して権利者が当該ドメイン名を登録することを阻止する場合。
(5)その他の悪意を有する情状。
しかし、被告が証拠を挙げて、紛争の発生前に自己の所有するドメイン名がすでに一定の知名度を有し、かつ、原告の登録商標、ドメイン名と区別できること、又は悪意がないと十分に証明できるその他の情状がある場合、裁判所は、被告に悪意がないと認定することができる。」と規定している。
3. ドメイン名侵害又は不正競争の責任
「ドメイン名解釈」第8条には、「裁判所は、ドメイン名の登録、使用等の行為が権利侵害又は不正競争を構成すると認定した場合、被告に対して権利侵害の中止、ドメイン名の取消し、又は原告の請求に応じて原告が当該ドメイン名を登録、使用するように命じることができる。権利者に実際の損害をもたらした場合は、被告に対してその損害を賠償するように命じることができる。」と規定している。
4.ドメイン名紛争訴訟のメリット・デメリット
上述のドメイン名紛争訴訟の特徴からも分かるように、訴訟によりドメイン名紛争を解決するメリットは、次のとおりである。
①調整できる範囲がより広範で、ドメイン名権利帰属紛争のほかに、ドメイン名と商標権、ドメイン名の不正競争等の紛争も含んでいること。
②訴訟結果、つまり判決の効力が最も大きく、発効判決について、当事者は必ず遵守しなけらばならないこと。
③敗訴側がより大きな責任を負い、勝訴側の請求に応じてドメイン名の登録者を変更する以外に、権利侵害行為を中止し、謝罪する等の責任を負う必要があること。
その一方、訴訟には以下のようなデメリットがある。
①訴訟では証拠に対する要求がより高く、特に域外で形成された証拠に対しては、証拠形成国で公証と認証を行う必要があり、その他の言語による証拠は中国語に翻訳しなければならないこと。
②訴訟には長時間かかり、一般民事訴訟の一審は通常6ヶ月から1年半以内で判決が下されるが、当事者が上訴を提起した場合は、2~3年を経てようやく終審結果が出されること。
③訴訟では、経済的コストがかなり高く、証拠集めと訴訟費のほかに、訴訟時の弁護士費用もかなりの支出となること。
このように、訴訟によるドメイン名紛争の解決は、ドメイン名による商標権侵害又は不正競争防止法違反など複雑な法的関係による紛争解決により適合すると言える。ドメイン名権利帰属の移転のみを求める当事者にとっては、協議又は以下に紹介するドメイン名仲裁が最も適切なルートであると考える。
(3)ドメイン名の仲裁
1.ドメイン名紛争解決機構
ドメイン名紛争解決機構は、紛争解決サービス提供者とも言うが、その職能は仲裁機構と類似し、ドメイン名に係る紛争の処理を担当し、かつ、相応の紛争解決政策と規則に基づいて裁決する。苦情申立人は、ドメイン名の類型と自身の言語に基づいて最も適切なドメイン名紛争解決機構を選ぶことができる。
主な仲裁機構は次のとおりである。
(1)「.com」、「.net」等のインターナショナルドメイン名について、「統一ドメイン名紛争解決政策」及びその規則と補充規則に基づいて、苦情申立をすることができる。主には以下の何れかの承認された紛争解決機構(Approved Dispute Resolution Service Providers)にその仲裁を求めることができる。
①アジアドメインネーム紛争解決センター(ADNDRC)
②全米仲裁フォーラム(NAF)
③世界知的所有権機関(WIPO)
④チェコ仲裁裁判所(CAC)インターネット紛争仲裁センター
(2)「.cn」、「.com.cn」、「.中国」等の中国国内ドメイン名について、「中国インターネット情報センタードメイン名紛争解決弁法」、「中国インターネット情報センタードメイン名紛争解決弁法手続規則」及びドメイン名紛争解決機構の「補充規則」に基づいて、仲裁申請をすることができる。具体的には次の紛争解決機構にその仲裁を求めることができる。
① 香港国際仲裁センター(HKIAC)
② 中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)
上述のドメイン名紛争解決機構のうち、弊所がこれまでに多く提携しているのは、アジアドメイン名紛争解決センター(以下「ADNDRC」と言う) 及び中国国際経済貿易仲裁委員会(以下「CIETAC」と言う)である。
ADNDRCは、CIETACとHKIACが2002年に共同で設立した機構として、現在、北京、香港、ソウルとクアラルンプールの4ヶ所に事務局を設立し、それぞれ統一ドメイン名紛争解決政策下にあるドメイン名紛争を受理している。そのうち、北京事務局は、弊所がドメイン名紛争の苦情申立てをしている主な機構である。北京事務局は、これまでに統一ドメイン名紛争解決政策下にあるドメイン名紛争事件を計700件以上を受理し、中国国内からアジア地区に至るまで当該類別のドメイン名紛争を解決する主なルートになっている。
CIETACドメイン名紛争解決センターは、2000年年末に設立され、中国インターネット情報センター(CNNIC)指定の紛争解決機構として、.CN/中国語ドメイン名紛争を解決するためのサービスを提供している。CIETACドメイン名紛争解決センターは現在、関連機構の委託と授権を受け、汎用URL、メッセージURL、無線URL等の紛争を解決するサービスを提供している。ドメイン名紛争解決センターは2007年より、中国国際経済貿易仲裁委員会ドメイン名紛争解決センターの名称で対外的に業務を展開している。
2. 紛争に関する苦情申立前の準備
(1)事前調査又は警告
証拠を収集して苦情を申立てる前に、係争ドメイン名の登録者又は使用者に対して必要な調査を行う必要があり、ドメイン名仲裁に係る政策又は規則に基づき、以下の調査をする必要がある。
① 登録者又は使用者は係争ドメイン名に対して合法的権益を有すること。
②紛争関連の通知を受領する前に、登録者または使用者が商品又はサービスを提供する過程において、善意を持って当該ドメイン名、又は当該ドメイン名に対応する名称を使用していたこと。
③ 登録者又は使用者(個人、企業又はその他の組織として)は、ずっと当該ドメイン名を使用し、かつ、一定の知名度を有していたこと。
④ 合法的又は合理的に当該ドメイン名を使用し、営利を目的とせず、商業利益を得るために消費者を誘導し、又は紛争の原因になる商標又はサービス標章を汚す意図がないこと。
上述内容に対する調査を経て、何れの情状も存在しなかった場合、係争ドメイン名に対する登録者又は使用者の権利又は合法的権益を排除することができるので、初歩的にドメイン名登録者又は使用者の悪意を確定することができ、相応のドメイン名紛争解決政策に基づいて当該ドメイン名に対して苦情申立を提出することができる。
(2)証拠の收集
①「統一ドメイン名紛争解決政策」に基づく「.com」、「.net」等のドメイン名に対しての仲裁申請
資料名称 | 証明内容 | 注意点 |
1. 係争ドメイン名whois データベース検索結果 | 係争ドメイン名がすでに登録されていること。 | 係争ドメイン名登録業者のウェブサイトを介して検索できる。 |
2.世界範囲における申立人の先行商標の商標登録証書 | 苦情申立人は係争ドメイン名に侵害された先行商標権を享有すること。 | 中国で登録された商標権に限らないこと。 |
3. 当該ドメイン名に対応するウェブページ情報、又はかつてドメイン名登録者又は使用者に対してドメイン名使用の中止を求めた警告書等 |
被申立人が、悪意で係争ドメイン名を使用していること。 |
次の何れかの具体的情状があれば十分である。 (i)すでに登録又は取得したドメイン名は、主に苦情申立人(商標又はサービス標章の所有者)又は当該苦情申立人の競争相手に対して、当該ドメイン名を売却、貸出又は譲渡に用いることにより、ドメイン名の取得に直接要した支払い金額を越えた利益を得ていること。 (ii)すでに当該ドメイン名を登録し、その目的が商標又はサービス標章の所有者が標章に対応するドメイン名の取得を妨げることであり、かかる行為に参与したことで充分であること。 (iii)すでに当該ドメイン名を登録し、主に競争対手の業務を破壊するのに用いていること。 (iv)当該ドメイン名を使用することで、故意にネットユーザーを誘導して関連ウェブサイト又はその他のオンラインアドレスにアクセスさせることにより、商業利益を取得するためであり、方法は、関連ウェブサイト又はアドレス若しくは当該ウェブサイト又はアドレスにおける製品又はサービスの出所、スポンサー、従属関係又は推奨について、苦情申立人の標章との類似性を具有させることにより、人々に混同をもたらしていること。 |
4. 係争ドメイン名のドメイン名登録合意書 | ドメイン名紛争解決根拠 | |
5. 授権委託書 | 他人に委託して苦情申立の提出を代行させる状況 |
②「中国インターネット情報センタードメイン名紛争解決弁法」(2012年改正) に基づく「.cn」、「.com.cn」、「 .中国」、「. 会社」等のドメイン名への苦情申立
資料名称 | 証明内容 | 注意点 |
1. 係争ドメイン名whois データベース検索結果 | 係争ドメイン名はすでに登録されていること。 | CNNICウェブサイト(www.cnnic.net.cn)を介して検索できる。登録期間が2年を経過していない場合、苦情申立を提出できる。 |
2.苦情申立人が民事的権益を享有する名称又は標章の証明 |
苦情申立人が係争ドメイン名により侵害される先行商標権、商号権、知名製品の特有名称等を享有すること。 | 「.com」、「.net」等のドメイン名と相異する。 |
3. 当該ドメイン名に対応するウェブページ情報、又はかつてドメイン名登録者又は使用者に対してドメイン名使用の中止を求めた警告書等 |
被申立人が悪意で係争ドメイン名を使用していること。 |
次の何れかの具体的な情状があれば十分である。 a.ドメイン名を登録又は譲受する目的は、民事的権益の所有人としての苦情申立人又はその競争対手に対して売却、貸出又はその他の方法により当該ドメイン名を譲渡して、不正利益を取得するためであること。 b.再三にわたり他人が合法的権益を享有する名称又は標章を自分のドメイン名として登録し、他人がドメイン名の形式でインターネット上で合法的権益を享有する名称又は標章を使用することを妨げること。 c.ドメイン名を登録又は譲受することは、苦情申立人の名誉を毀損し、苦情申立人の正常な業務活動を破壊し、又は苦情申立人との区別を混同し、公衆を誤認させるためであること。 d. その他の悪意による情状。 |
4. 係争ドメイン名のドメイン名の登録合意書 | ドメイン名紛争解決根拠 | |
5. 授権委託書 | 他人に委託して苦情申立の提出を代行させる状況 |
3. 苦情
(1)証拠書類及び苦情申立書の作成と提出
① 言語
「.cn」、「.com.cn」等のドメイン名に対する苦情の場合、「中国インターネット情報センタードメイン名紛争解決弁法手続規則」(2012年改正) に基づき、当事者が別途約定をし、又は専門家チームが特殊な状況下で別途決定をした場合を除き、ドメイン名紛争の解決手続に用いる言語は中国語である。専門家チームは、中国語で作成されていない書類について、当事者がその全部又は一部の中国語訳文を提出することを要求することができる。「.com」、「.net」等のドメイン名に係る苦情は、「統一ドメイン名紛争解決政策の規則」に基づき、当事者が別途約定をし、又は登録同意書に別途規定がある場合、及び専門家チームの専門家が行政解決手続の具体的な情状に基づき別途規定をしている場合を除き、ドメイン名紛争解決手続に用いる言語は、登録合意書に用いた言語と一致しなければならない。当事者が提出した書類の言語とドメイン名紛争解決手続に用いる言語が相異する場合、専門家チームは、当事者に対してドメイン名紛争解決手続に用いる言語に基づき当該書類の全文又は一部の訳文を提出することを要求することができる。
② 形式
電子形式による提出
③ 内容
裁決請求、苦情申立人の連絡方法、専門家チームの選択(1人又は3人から構成する専門家チームを選択できる)、被申立人の連絡方法、係争ドメイン名の情報(登録情報、登録業者情報等を含む)、苦情申立人の権利情報及び関連証拠、苦情理由等を含み、かつ、苦情申立書の末尾には申立人又はその代表者が署名すること。
④ 複数のドメイン名
苦情申立人は、同一ドメイン名所有者が登録した複数のドメイン名に対して苦情を申立てることができる。
(2)費用の納付
ADNDRC
係争ドメイン名数 | 請求総額 | |
専門家チーム構成 | ||
1人 | 3人 | |
1~2個 | US$1,300 | US$2,800 |
3~5個 | US$1,600 | US$3,300 |
6~9個 | US$1,900 | US$3,800 |
10 個以上 | 紛争解決機構が決定する |
CIETAC
専門家チーム構成 | 係争ドメイン名数 | 請求総額(CNY,元) | |
1人だけの 専門家チーム |
1 | 8,000 | |
2 ~ 5 | 12,000 | ||
6 ~10 | 16,000 | ||
10 個以上 | 紛争解決機構が決定する | ||
3人による 専門家チーム |
1 | 14,000 | |
2 ~ 5 | 20,000 | ||
6 ~ 10 | 24,000 | ||
10 個以上 | 紛争解決機構が決定する |
事件手続費用の全額は、苦情申立人が納付する。苦情申立人が1人だけの専門家チームを選択し、被申立人が3人による専門家チームを選択した場合、事件手続費用は、苦情申立人と被申立人で折半するものとする。
注意点:ただし、「中国インターネット情報センタードメイン名紛争解決弁法手続規則」第48条には、「特別な事情で、証言の聞き取りを行う場合、ドメイン名紛争解決機構は、当事者双方に対して別途関連費用を支払うことを要求することができる。当該費用については、ドメイン名紛争解決機構と当事者双方及び専門家チームが協議して確定する。」と規定している。
4、紛争解決のフローチャート
(1)ADNDRC (「.com」、「.net」等のドメイン名に係るドメイン名紛争の解決までのフローチャート )
(2)CIETAC(「.cn.com」、「.cn」等のドメイン名紛争解決ルート)
5. 紛争の解決過程
(1)ドメイン名の移転
ドメイン名所有者は、ドメイン名紛争解決期間及び裁決執行完了前に、紛争状態におけるドメイン名の譲渡又は取消を請求したり、ドメイン名の登録業者を変更したりしていけない。しかし、譲受人が書面により紛争解決裁決の拘束を受け入れることに同意した場合は除く。
(2)紛争解決手続の停止又は終了
① 停止
ドメイン名紛争解決手続の開始前又はその進行過程において、係争ドメイン名に係る訴訟が発生した場合、専門家チームは、自発的にドメイン名紛争解決手続の一時停止又は終了を決めたり、裁決の確定までに当該手続を継続させることを決めたりする権利を有する。一方の当事者がドメイン名紛争解決手続進行期間に係争ドメイン名について訴訟を提起した場合、当該当事者は、直ちに専門家チームと紛争解決機構に通知しなければならない。
② 終了
当事者が、専門家チームが裁決を下す前に和解に達した場合、専門家チームはドメイン紛争解決手続を終了すべきである。また、専門家チームが裁決を下す前に、その他の原因によりドメイン名紛争解決手続を継続することがすでに不必要又は不可能になった場合、専門家チームはドメイン名紛争解決手続を終了しなければならない。ただし、一方当事者が専門家チームの規定した期間内に合理的な反対理由を提出した場合は除くものとする。
6. 紛争解決の結果
(1)裁決の種類
(1)裁決の種類
①すでに登録されているドメイン名を取消す。
② 登録ドメイン名を苦情申立人に移転するという裁決を下す。
③ 専門家チームにより苦情が成り立たないと認定された場合は、苦情を却下する裁定を下す。
(2)裁決の執行
紛争解決機構がドメイン名を取消し、又はドメイン名を苦情申立人への移転する裁決を下した場合、裁決の公布日から10業務日が満了したら、ドメイン名登録業者は執行するものとする。しかし、被申立人が裁決の公布日から10業務日内に管轄権を有する司法機関又は仲裁機構によるすでに関連紛争を受理したことを証明できる有効な証拠を提出した場合、関連紛争がすでに解決し、又は関連訴訟或いは仲裁が既に取り消され、若しくは司法機関或いは仲裁機構より訴訟或いは仲裁請求が却下されたこと等を証明する証拠を受け取るまで、紛争解決機構の裁決はその執行を一時停止するものとする。判決又は仲裁が下された場合、当該仲裁又は判決を執行するものとする。
(3)ドメイン名紛争苦情の救済
苦情を申立てる前、紛争解決手続が進行中、又は専門家チームが裁決を下した後、苦情申立人又は被申立人は、いずれも同一紛争について、管轄権を有する裁判所に訴訟を提起し、又は協議に基づいて仲裁機構へ仲裁を請求することができる。
7.仲裁解決のメリットとデメリット
上述のドメイン名仲裁手続及びこれまでの弊所の経験によれば、ドメイン名仲裁は、訴訟に比べて所要時間がより短く、証拠に対する要求も比較的低く、かつ、当事者がドメイン名仲裁に不服のある場合は、訴訟を提起したり、又はその他の仲裁機構へ仲裁を請求したりすることができる。しかも、ドメイン名仲裁は、登録業者に対する制約が強く、通常、10日以内に司法機関又は仲裁機構による関連紛争を受理したことを証明する通知を受領できなかった場合、登録業者は、当事者の資質を審査した後、苦情申立人の要求に応じて、係争ドメイン名を勝った苦情申立人へ移転する。
しかしながら、ドメイン名仲裁は、ドメイン名権利帰属紛争を解決するだけで、ドメイン名仲裁が司法又はその他の仲裁機構によりその執行が停止されるおそれもあるが、これは勝った側にとっては非常に不利なものである。しかし、実務上、かかる状況はほとんど生じていない。
第3章 権利侵害品のネット販売への対応
1.権利侵害品のネット販売の現状
1)オンラインショッピングの現状
インターネットの普及につれて、オンラインショッピングは、ますます重要なショッピング形式の1つになっている。ネットユーザーは、インターネットを介して商品情報を検索し、電子オーダーによりショッピング請求を発送した後、オンラインで直接その代金を決済したり、又は着払方法で代金を支払ったりしているが、全ての商品とサービスの取引は、基本的にインターネット通信手段を通じて行われている。オンラインショッピングは、外出する必要もなく、速くて便利なので、ここ数年間広範な消費者の人気を博している。特にここ数年広範囲に利用されているスマートフォンは、オンラインショッピングの急速発展を推し進める原動力になっている。
現在、中国のオンラインショッピングのユーザー規模はすでに3億人を突破している。オンラインショッピングのユーザー規模の急速な拡大は、オンラインショッピング市場の発展のために、良好なユーザーという基礎を構築している。また、同市場の発展の潜在力は非常に莫大で、その発展のスピードは驚くべきものである。以下の統計グラフからも分かるように、2013年オンラインショッピング市場取引金額は、前年比で40.9%増の約1兆8500億元に達した。特に2013年のインターネット小売市場における取引総額が、すでに社会消費財小売総額の7.9%に達していることは注目に値する。オンラインショッピングが実店舗購入に対して相当明らかな代替性の役割を有することに鑑み、小売企業のネット商化への転換趨勢はすでに避けられないことは十分に予見できるものである。以下の統計グラフによれば、中国においてオンラインショッピングは2006年から高成長の段階に入り、2010年には同市場の取引額は2006年の約20倍に達した。2011年から計算の基数が大きく変化しているので、その増加速度は若干低下しているものの、依然として高い成長率を維持している。
図3-1 2006-2013年中国オンラインショッピング取引金額及び増加率
伝統的な取引モデルに比べ、オンラインショッピングは効率が良く便利なので、大量の時間、物資や労力を節約することができる。それと同時に、オンラインショッピングは、時間や空間の制限を受けず、インターネットにアクセスさえできれば、その取引を完成できるので、伝統的市場に存在したさまざまな障碍を打ち破った。また、インターネットは、市場取引のチャンスをどんどん開拓することができるので、一部の中小企業は、大企業と同様に、インターネットを通じて遅滞なく市場供給状況を把握し、共同に競争に加わり、オンラインショッピングのサービス品質の向上を推し進めている。
その他、制度面においても、新たに改正された「消費者権益保護法」では、オンラインショッピングにおける消費者の権益の保護を強化し、オンラインショッピングの過程における消費者の主導的地位を大きく向上させ、オンラインショッピング取引制度の改善に対して、明らかに規範的な役割を果たし、オンラインショッピングが公平でかつ秩序を保ちながら発展することを後押ししている。
2.電子商取引の主な類型
オンラインショッピングの爆発的な発展には、インターネットプラットフォームによるサポートが必要不可欠である。また、インターネットプラットフォームにおける商業活動は、電子商取引と言われている。当初インターネット上の小売から始まり、その後B2B、C2C、B2C等のさまざまな販売モデルが打ち出され、中国の電子商取引業界では、すでに多分野が共に発展する完璧なシステムが構築されていることを物語っている。通常の電子商取引の種類について下記に紹介する。
(1)B2B
Business-to-Businessの略称で、企業間の電子商取引、すなわち、企業と企業がインターネットを介して製品、サービス及び情報の交換を行うことを言う。取引の需給双方はいずれも企業で、かかる企業は、インターネット技術又は各種のネットビジネスプラットフォームを利用して、需給情報の公表、発注及び受注確認、支払及び領収書の発行、伝送と受信、配達方法の確認及び配達の監視・制御等の商取引の過程を完成する。
典型的なB2Bモデルは、最近ニューヨーク証券取引所で上場したばかりのアリババ社である。
(2)B2C
Business-to-Customerの略称で、供給者が直接商品をユーザーに販売すること、すなわち、小売であり、一般的にネット上の小売業がメインで、主にインターネットの助けを借りてオンライン販売を展開している。企業は、インターネットを介して消費者に新たなショッピング環境であるオンラインストアを提供し、消費者は、インターネットを介して商品を購入し、その代金を支払う。
B2Cモデルは、中国で最も早く誕生した電子商取引モデルで、現在、B2C電子商取引ウェブサイトの数も非常に多い。うち、比較的大きいサイトには、Tモール、京東、1号店等がある。
(3)C2C
Consumer-to-Consumerの略称で、個人間の電子商取引を言う。売買双方のために、オンライン取引プラットフォームを提供することで、売り手に自発的に商品を提供させネットオークションにかけさせると同時に、買い手は商品を選択してオークションに参加できる。
典型的なC2Cモデルには、タオパオ、パイパイ等がある。
なお、時代の絶え間ない発展につれて、O2O、B2G、B2T、C2B等のますます多くの電子商取引経営モデルが開発、応用されている。一般消費者にとっては、上述のB2B、B2C、C2Cの3モデルが一般的なものとしてよく知られ、オンラインショッピングの最も重要なルートになっている。
3.主な侵害類型
オンラインショッピングの発展過程は、決して完全なものではなく、さまざまな弊害が存在していることは否めない。ネットユーザーの増加に伴い、オンラインショッピングのニーズも拡大し、市場にさまざまな機会がもたらされると同時に、悪徳業者はそれに乗じて、さまざまな不法行為を行っている。ここ数年間、オンラインショッピングの迅速な発展の背後で、インターネット上での被疑侵害製品の販売が知的財産権侵害の深刻な問題になっている。以下に、その数種類の状況を紹介する。
(1)製造者による直接販売
インターネットによって、企業と消費者との距離が縮まり、被疑侵害製品の製造者の一部は、独自のオンライン取引能力を有し、直接自社の製造した被疑侵害製品を販売している。販売している製品の大多数は、特許権侵害製品や商標権侵害製品であるが、海賊版書籍又は海賊版オーディオ・ビジュアル製品、海賊版コンピューターソフトウェア等の著作権侵害製品も排除できない。
(2)販売者による代理販売
通常、多くの製造者は独自のネット取引能力を有しないので、その製品のネット販売は、その他のネット取引プラットフォームを利用することで実現している。
①取引プラットフォームによる代理販売
京東、アマゾン、蘇寧易購等の一部のオンライン取引プラットフォームは販売者の一部分の職責を引き受けている。しかし、これらの企業の知的財産権侵害行為の存否に対する判断力には限界があり、正常なルートによって被疑侵害製品が消費者に販売されることを完全には回避できない。なお、取引プラットフォーム自体が侵害行為の存在を明らかに知っている可能性についても、完全には排除できない。
②第三者企業又は製造者直営店舗による代理販売
第三者企業又は製造者直営店舗による販売と取引プラットフォームによる代理販売の主な相違点は、第三者企業又は製造者直営店舗は、トウボウ、Tモール、アリババ等のウェブサイトである取引プラットフォームの助けを借りて販売行為(ブースを借用して販売する)を実施しているが、取引プラットフォームでは統一して管理していることである。販売されている製品について、第三者企業が被疑侵害製品の権利侵害行為を明らかに知っているか否かについての問題は、実務上においてさまざまな異なる可能性が存在している。
2.侵害品のネット販売に対する対策
これまで述べていた被疑侵害製品のネット販売について、権利者が全く問題視しないと、市場シェアが下がり、相応する製品の販売高と利益がダウンすると同時に、被疑侵害製品がニセモノ、劣悪製品又は模倣品であるか否かに係らず、通常、その品質は権利者による正規品より悪いので、相応するタイプの製品に対する全体的評価が低下し、ひいては消費者に侵害製品を権利者が製造したと誤認されるようなことが生じるおそれがある。なお、ネット販売には区域の制限がないので、一旦、これに類似する状況が生じた場合、市場全体が不安定になる可能性がある。したがって、権利者は被疑侵害製品のネット販売に対してより注意を払い、被疑侵害製品の関連情報を発見したら、積極的にその権利を行使すべきである。
以下に、実務の立場から具体的に有効ないくつかの方法を紹介する。
(1)第三者へのクレーム
第三者取引プラットフォームは、オンラインショッピングの主戦場であると共に、侵害品のネット販売の高発区でもある。タオパオ(Tモール)による統計によれば、同社が2013年に削除した被疑偽造商品は、1億1200万件に達した。また、それ以前の統計によれば、2012年1月から11月までの間にタオパオ(Tモール)で処理した知的財産権侵害に係る商品の情報件数は、8200万件に達した。つまり、急速に発展するオンラインショッピングの深刻な問題として、電子商取引のプラットフォームの審査が厳格でないということが露呈されたことになる。
オンラインショッピング取引プラットフォームは、インターネットサービスプロバイダの一種で、「権利侵害責任法」には、「権利者が侵害行為を見つけ、インターネットサービスプロバイダに通知した後、インターネットサービスプロバイダは、遅滞なくリンクの削除、遮断、切断等の必要な措置を取ることによりその侵害行為を中止させるべきである」と、インターネット取引におけるその義務を規定している。さもなければ、損害が拡大した部分に対してその連帯責任を負うべきであるので、多数のオンラインショッピング取引のプラットフォームには、何れも権利者向けのクレームルートが設けられている。そのうち、タオパオ(Tモール)及びアリババの知的財産権保護システムは比較的整備されているが、その他の電子商取引プラットフォームの知的財産権に対する保護はまだ遅れを取っている。
また、タオパオ(Tモール)とアリババのオンラインショッピング販売高の市場の総販売高におけるシェアからみれば、B2B、C2Cタイプのウェブサイトにおいて重要な地位を占め、B2Cタイプのウェブサイトにおいても、それなりの優勢を保っている。したがって、大部分の商品は、タオパオ(Tモール)とアリババにおいて、その販売店舗を探し出すことができ、すなわち、インターネットを通じて侵害品が販売れている場合、その大半はタオパオ(Tモール)とアリババのルートを通じてその販売店の関連情報を見つけることができる。タオパオ(Tモール)とアリババにおける知的財産権保護システムは比較的に整備され、侵害の判断方法もより客観的で公正であるので、タオパオ(Tモール)とアリババのウェブサイトに存在する侵害品のネット販売店舗及びその関連情報について、第三者取引のプラットフォームに対してクレームを提出し、侵害リンクの削除及び閉店を求めることは、直ちに侵害を中止させる観点から見れば、最も効率的な手段の1つであると言える。紛争を解決する時間的なコスト又は費用上のコストにかかわらず、何れもその他の権利保護方法より優れていると言える。
しかし、第三者へのクレームにはさまざまな限界がある。タオパオ(Tモール)とアリババのプラットフォームは、知的財産権侵害に対する判定力に限りがある。また、リンクを削除した後、元画面を2度と開くことができなくなり、かつ、被疑侵害店舗が抗弁時に権利者の関連権利を十分に把握しているので、証拠保全を必要とする状況下では、証拠が完全に存在しなくなる前に準備しなければならない。
以下に、タオパオ(Tモール)とアリババのウェブサイトにおいて、第三者の知的財産権プラットフォームを利用してクレームを提出する流れについて簡単に紹介する。権利者にとっては、主に次の数段階は最も重要なステップである。
①クレーム提出者の情報の登録
ここに言うクレーム提出者は、権利者自身の場合もあれば、代理人の場合もある。第三者プラットフォームより確認されることに備えて、登録情報は企業の営業情報と一致しなければならない。しかも、署名した承諾書1部を作成して、今後提出する資料の真実性と合法性を保証しなければならない。
②権利者の権利登録
著作権登録証書、特許登録証書、商標登録証書等の権利帰属書類の複写本等合法的で有効な権利証明を提出しなければならない。
③侵害リンク及び侵害店舗の提供
侵害品販売リンク及び侵害店舗に係る情報を第三者プラットフォームに提供し、かつ、侵害理由を簡単に説明しなければならない。
④販売者の抗弁に対する対応
確認された被疑侵害リンクが一時閉鎖される時、販売者より抗弁事由を提出されることがある。その抗弁に対して、第三者プラットフォームより侵害の成否判断を行うことを選択することができる。
上述のステップにおいて、販売者から何の反応もない場合、侵害の成立を黙認したとみなされ、関連リンクは、直接削除されるが、その抗弁理由の成立が困難な場合、同様にリンクが削除される結果となる。しかし、その抗弁理由が成立する場合は、権利者は、第三者プラットフォームが更に判断できるように、更に侵害理由に係る詳細な説明又は専業鑑定報告等の根拠を提供しなければならない。
タオパオ(Tモール)とアリババのウェブサイトの知的財産権プラットフォームの流れは、比較的客観的でかつ整備されているので、権利侵害に関するクレーム処理の効率も比較的高い。逆に、その他の第三者プラットフォームの知的財産権保護に関するクレームの場合、同じく権利証明及び侵害理由を提出する必要があるが、その審査期間は往々にして比較的長く、処理結果もかんばしくなく、具体的な状況に基づいて当該手段を採用するか否かを酌量し、考慮する必要がある。
特に、第三者プラットフォームの身分が販売者である場合、クレームを提出する前に必ず証拠保全を行わなければならない。知的財産権侵害に係る証拠は存在しなくなりやすいので、第三者プラットフォームは最短で自分と被疑侵害品製造者の関係を除去しようとし、又は自分と製造者の間に一定の関連性が存在する状況下で、被疑侵害状況を知得した後、関連証拠を廃棄したり、又は直接バックグラウンドデータを改ざんしたりする可能性も非常に高い。しかも、証拠保全を行う際にも今後生じる訴訟の可能性を考慮し、できれば侵害行為地又は侵害結果発生地を北京、上海等の知的財産権裁判のレベルが比較的高い地区に絞ることにより、上述の地区にある裁判所が管轄権を行使することを確保すべきである。
つまり、その他の救済方法に比べ、侵害品がインターネットを介して販売されているので、当該販売店舗は、ほとんど制限なく何処にでも出現する可能性がある。したがって、かかる特徴は、行政取締及び訴訟に対して多大な困難をもたらす。しかし、第三者プラットフォームを利用してクレームを提出して、侵害製品の販売リンクに対する削除、被疑侵害ネット店舗に対する閉鎖を申請した場合、その実施コストはより低く、比較的良い結果を得ることができる。
(2)警告及び交渉
警告は、自力救済ルートの一種として、行政と司法救済の前によく採用される手段である。知的財産権侵害紛争において、善意の抗弁が存在するので、一部の製造者と販売者は、往々として善意の抗弁を理由に自己の注意義務を低減させ、侵害責任の負担を回避している。したがって、警告の方法を通じて相手に侵害行為の存在を明確に示しし、かつ、相手側に対して期限を設けてその是正を求めたが、当該期限を経過しても相手が是正しない場合、相手側に侵害についての故意があることを確認できる。当該意味において、警告は善意の抗弁に対抗する方法として存在している。しかも、相手側が要求に応じて侵害を中止した場合、相手側が侵害を中止し、かつ、二度と侵害行為を行わないことを保証する誓約書を発行したか否かにかかわらず、それ以降再犯の情状が生じた場合、法執行者の心証に多大な影響を与える。
侵害品のネット販売において、被疑侵害品の販売者に対して、通常、優先的に第三者へのクレームを提出する形式を採用している。第三者へのクレームが妨げられたり、又は進展のスピードが比較的遅い場合は、警告と第三者へのクレームを結合させる方法で同時に進めれば、基本的に有効にその侵害行為を中止させることができる。
実務において、第三者へのクレームを提出することができず、又はクレーム提出後の効果があまりかんばしくなく、警告書で明確に提示せざるを得ない状況は、基本的に被疑侵害品の製造者に対するものである。製造者は、往々にして第三者プラットフォームに大量の不侵害証拠、ひいては権利者の権利に十分対抗できる相応する権利を提供することを通して抗弁を行う。第三者プラットフォームにおける認定レベルが限られ、明確な結論が出されないので、権利者は、警告書の方法で被疑侵害品製造者と正面から接触をして更にプレッシャーを掛けるべきである。しかし、製造者は常に明らかな侵害についての故意を有しているので、仮に警告書を発送したとしても、無視される可能性は極めて大きく、権利者が警告書を発送した後、被疑侵害者が所在地の裁判所に不侵害確認訴訟を提起して、権利者が受身になってしまうリスクも排除できない。
また、実務において、第三者プラットフォームがクレームに対して対応を怠ったり、ずっと躊躇して態度を決めかねたりしている場合、権利者は、「権利侵害責任法」第36条第2項の規定に基づき、当該プラットフォームに対して警告を発送し、直ちに関連事項の処理に着手するよう催促することができる。
しかし、警告書は、不可欠な前置手続ではなく、早急に紛争を解決することに意義があるものの、被疑侵害者の模倣品製造の経験が比較的豊富であったり、又は侵害状況が比較的深刻であったりする場合、警告書は如何なる役割も果たせないだけでなく、逆に相手の警戒心を引き起こし、事前に対策を用意させてしまうことになることには十分に注意を払わなければならない。また、被疑侵害品の製造者が権利侵害行為を知っている、又は知っているはずである可能性があった場合、できるだけ早く行政取締又は訴訟手続きに着手すべきである。
(3)行政取締
侵害品のネット販売に対して、第三者プラットフォームへのクレームは、販売流通における問題を解決できるだけで、その根源を絶つ能力は欠如しているので、単純に第三者プラットフォームを介するクレーム提出方法を採用することは、通常、権利者に侵害が相次いて発生しているような感覚を与えかねない。したがって、侵害が深刻で、権利侵害品がインターネット上で氾濫している時、できれば「on-line」及び「off-line」対策を結び付けて採用するのが得策である。すなわち、第三者プラットフォームにクレームを提出することにより、販売段階から侵害品の流通を阻止すると同時に、インターネットにおける販売を手がかりにして、できる範囲内で在庫のある実店舗、代理店、倉庫、製造者等を芋蔓式に追及し、取り調べることである。権利侵害品の製造からネット流通までの各段階における実体経営者を突き止めた場合、行政取締又は訴訟の手段によって、製造分野における権利侵害行為を阻止し、根本的に権利侵害品の販売を解決することができる。
また、権利侵害店舗が第三者のプラットフォームに設置されず、独自で開設したウェブサイトを有する場合、第三者プラットフォームを介するクレーム提出方法では有効に解決できないので、当該ウェブサイトが届出されているか否かの情報に基づき、工業と情報化部への訴え又は行政取締又は訴訟の方法を採用して解決するか否かを確定する必要がある。
訴訟と比べると、行政取締には以下のようなメリットとデメリットを有する。具体的にどのような「off-line」対策を採用するかについては、事件の実情に応じて具体的に分析すべきである。
メリット |
l 民事訴訟に比べて周期がより短く、コストが比較的安いこと。 l 民事訴訟に比べて証拠に対する要求が厳しくないこと。 l 行政機関は自ら現地の侵害状況を調査できること。 |
デメリット |
l 被疑侵害製品が侵害になるか否かに対する行政機関の判断は、直接行政取締の成功率を決める。行政機関が権利侵害になりかねると認定した場合は、行政取締手続は採用できないこと。 l 被疑侵害者が現地で一定の影響力を有する場合は、地方保護主義が存在する可能性があること。 l 損害賠償を得られないこと。 |
行政取締の手段を採用する際に、次の問題に注意を払うべきである。
先ず、権利者は、それぞれ異なる知的財産権侵害に基づき、それに対応する行政部門へ取締りの申立を提出すべきである。具体的に言えば、被疑特許権侵害製品の販売行為については、製造者又は販売者所在地の知識産権局へ取締りの申立をを提出する。被疑商標権侵害又は不正競争に係る製品販売行為については、製造者又は販売者所在地の工商行政管理局へ取締りの申立を提出する。被疑著作権侵害製品の販売行為について、製造者又は販売者所在地の版権局へ取締りの申立を提出する。また、被疑侵害製品が外国から輸入されたものである場合、当該製品輸入地の税関へ取締りの申立を提出する。
相対的に工商局の取締能力は比較的に強いので、商標と不正競争事件について、調査を経て実店舗又は工場を発見した場合、工商局へ行政取締を申立てることは比較的有効な方法であると言える。
次に、取締前の調査が極めて重要である。ネット上の店舗について、ネット販売店舗のサーバー所在地の当局に取締り申立を提出する事はできるものの、そのサーバー所在地を確認することはさほど容易なことではなく、かつ、多くの権利侵害ウェブサイトの相当部分は海外に設置されているので、同店舗がインターネットで宣伝している住所等の情報だけではその住所地を確定できないので、具体的な管理監督機構を確定することも難しい。しかも、ネット上の店舗に対する取締りの最終的効果は、当該ウェブサイトを閉鎖することに過ぎない。侵害者は、また別のウェブサイトを開設することができるので、再犯のためのコストは非常に低いと言える。したがって、事前の調査を経て、権利侵害品の製造者及び販売者の実体経営者を確定し、実体経営者に対する取締りを行えば、より良い取締りの効果を確保し、侵害者に打撃を与え、侵害の再発を防止することができる。
(4)刑事告発
その他の救済方法に比べ、刑事手続の開始に対する要求は比較的厳格であるが、実務において告発することができる。タオパオの統計データによれば、同社は2013年各級公安機関による知的財産権事件計77件の処理、及び模造品販売グループ51組の逮捕に協力したが、その経済的価値はは3億6000万元以上であった。
中国刑法第213から第220条には典型的な知的財産権犯罪行為を規定している。たとえば、第213条には「登録商標冒用罪」、第214には「登録商標偽造商品販売罪」、第216条には「特許冒用罪」、第217条には「著作権侵害罪」、第218条には「権利侵害複製品販売罪」等が規定されている。権利者が侵害者の被疑犯罪の手がかりを把握したが、その他のルートでは侵害行為の実施者を確定することが難しい場合、刑事犯罪を告発する方法により公安機関にその立件、捜査を請求し、かつ、刑事附帯民事訴訟において原告として被告人に対して民事賠償を請求することを考慮することができる。刑事事件における処罰が特に厳しく、権利侵害事実の認定も非常に厳格であるので、権利侵害情状が比較的深刻でなければ、刑事手続を開始することができない。
メリット |
l 被疑侵害者に対する打撃が非常に厳しいこと。 l 民事訴訟と同時に行うことができること。 l 公安機関は証拠集めの際に、比較的大きいサポートを提供できること。 |
デメリット | l 刑事手続の開始要件が厳しすぎること。 |
(5)民事訴訟
侵害品のネット販売に係るさまざまな対策の中でも、民事訴訟は、被疑侵害者に対して非常に大きなプレッシャーを掛けると同時に、和解等の形式を介して早期に紛争を解決することにより、権利者が長引く訴訟手続の渦中に入ることを回避することができる。特に上述のさまざまな手段によって効果がさほど見られない場合、訴訟の意義は非常に重大なものになる。
訴訟は、行政取締に比べ、次のようなメリットとデメリットを有する。
メリット |
l 被疑侵害者にプレッシャーを掛けることができること。 l 損害賠償金を得ることができること。 l 裁判所の知的財産権侵害に対する判断力は、行政機関より優れているので、困難な事件に十分に対応できること。 l 司法手続は公開され透明性が高いので、より公平性を確保することができること。 |
デメリット |
l 裁判周期が長く、費用が高くつくこと。 l 証拠の証明力に対する要求が非常に厳しいこと。 |
先ず、訴訟の場合、前期の調査・証拠収集作業は非常に重要であり、行政取締と同様に、侵害品のネット販売行為の製造元を確定することが難しく、被疑侵害店舗の住所地も真実でない可能性があるので、立件請求を提出する前に、被告の真実の身分及び住所地を確定しなければならない。しかも、行政取締に比べ、証拠に対する裁判所の要求がより厳しく、かつ、通常、行政機関のように現場での調査・証拠集めをすることはできない。したがって、勝訴をするために、原告は、十分な証拠を入手し、かつ、製品購入する際に購入過程に対して公証手続を行う等証拠の証明力を確保しなければならない。
次に、訴訟管轄地に対してもさまざまな選択がある。現在実務については、通常、北京又は上海を証拠保全をする優先地域としているが、特に知的財産権裁判所の設立によって、北京、上海等の都市の知的財産権保護に対する重視程度及び司法保護レベルが、その他の国内地区より著しく高くなり、ある程度司法に対する地方保護主義の影響も減少することが期待される。
第4章 その他の主な侵害行為
1.主な侵害情状
インターネット環境において、上述のドメイン名に係る侵害行為及び侵害製品のネット販売行為以外に、更に次のような侵害行為が存在している。
1)他人の商標又は商号に対する不正使用
インターネット世界における物体、キャラクター、標章等の表現形式によるデジタル化、及びインターネット環境における模倣、複製の容易性等の特性は、権利侵害コストを低減させ、かつ、市場を混同させる機会と手段を増やしている。情報ネットワークプラットフォームの加速化が進み、変化に富むことにより、インターネット環境において、他人の登録商標、商号、特に馳名商標、馳名商号を利用して不正競争を行う「商業混同行為」が相次いで発生している。
商業混同行為とは、経営者が不正競争手段を用いて市場取引に従事し、自己の商品又はサービスとその他経営者の商品又はサービスと混同させることにより、購入者の誤認をもたらし、購入の際誤認をもたらすようにする不正競争行為のことを言う。商標と企業名称は、いずれも商品の出所を区別するために用いられている。一旦、混同が発生し、消費者の誤認をもたらした場合は、消費者の製品権益を損なうだけではなく、直接商標権者と企業名称権者の商業的信用と評判を損なうことになる。
商品そのものが権利侵害に該当する情状、すなわち、前章で紹介した侵害製品販売による侵害情状のほかに、インターネット上で他人の商標又は商号に対して不正使用する侵害情状には以下のような形式のものがある。
(1)詐称のフラッグシップショップ又はフランチャイズ店
真贋商品が混在しているインターネットにおいて、消費者は、商品を選択する際、往往として「公式フラッグシップショップ」、「公式代理店」から製品を購入する。それは、消費者から、「公式フラッグシップショップ」等は、ブランド所有者の販売許諾を得て、入荷ルートも正規であると認知されているからである。
しかし、各電子商取引のウェブサイトには、ある企業のフラッグシップショップやある会社の販売許諾を得たネットショップと称する店舗が大量に存在しているが、実際には、必ずしも権利者の許諾を得ているというわけではない。更に一部の店舗では「授権委託書」を偽造していることさえある。かかる店舗で販売されている商品が正規品又は権利侵害品にかかわらず、許諾を得ずに、「フラッグシップショップ」と称する行為は、同様に侵害に該当する。授権委託書を偽造する行為は、虚偽宣伝による不正競争行為に該当する。
(2)他人の商標に対する際立った使用行為
一部のネット販売者は、ネットショップにおいて多種の商品を販売しているが、そのウェブページには知名度の高いブランドを際立って使用し、又は実際に販売している商品はあるブランド製品の「互換品」であるにもかかわらず、互換の表記が故意に不鮮明であったり、全く表示してなかったり、逆に「for EPSON」等のように他人のブランドに対して際立って表記している。
かかる行為は、同様に消費者の混同と誤認をもたらしており、侵害に該当する。
(3)他人の商標を商品名称等としている使用行為
一部の状況において、商標権者の商標が同類製品において極めて高い知名度を有し、ひいてはある製品の「代名詞」となっていることがある。一部のネット販売者は、かかる知名商標を製品の製品名称として使用することにより、かかる製品名称を以って製品の性能、品質等を表現しようとしている。
現行の「商標法実施条例」第76条には、「同一又は類似の商品に他人の登録商標と同一又は類似の標章を商品名又は商品包装として使用し、公衆の誤認を生じさせる場合、商標法第57条第2号にいう登録商標専用権侵害行為に該当する。」と規定している。
したがって、上述の行為も商標権侵害に該当する。しかも、商標権者にとって、かかる商標使用行為に悪意がないとしても、見逃すわけにはいかない。それは、かかる使用行為は、商標の顕著性を希薄化させるおそれがあり、登録商標が製品の通用名称に希薄化された場合、商標権者は、当該商標に対する登録商標専用権を失ってしまうことになるからである。
2. インターネットを介した他人の作品に対する無断盗用又は無断伝達
著作権は、著作物の創作により生じるものであり、何れかの関係部門による審査・許可を経る必要もなければ、発表又は登録も求められず、著作物の創作が完了した時点で自動的にその権利が生じると同時に「著作権法」の保護を受けることになる。
2000年に公布された「最高裁判所によるコンピューターネット関連著作権紛争事案審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」第2条第2項では、「著作権法第10条の著作権の各権利に対する規定は、何れもデジタル化された著作物の著作権に適用する。著作物について、インターネットを介して公衆に伝達することは、著作権法に規定する著作物の使用方法に該当し、著作権者は、当該種方法によりその著作物を使用し、又は他人に対してその著作物を使用することを許諾し、かつ、関連報酬を取得する権利を享有する。」と規定している。当該司法解釈では、インターネットにおける伝達が中国著作権法に言う著作物の使用方法の1つに該当することを確認し、著作権者のインターネットに接続する権利を保護することを明確に規定している。
したがって、インターネット環境において、著作権者、演出者と録音製品の製作者の許諾を得ずには、その著作物又は録音著作物をインターネットにアップロードしたり、インターネットで伝送したりしてはならない。著作権者が法によりその著作物をアップロードした後、アクセスする者が無料でその著作物を閲読したり、ダウンロードすることができるものの、他人の著作物を詐称したり、又は権利者の許諾を得ずに他人の著作物を改ざん、消除したり、若しくは権利者の許諾を得ずに任意で転載し、使用したりする行為等は、侵害行為に該当する可能性がある。
現在、インターネット環境における最大の法律問題は、インターネットにおける情報データの不当伝達、複製、利用等である。侵害主体及び侵害行為の種類に応じて、次のいくつかの紛争に分けることができる。
①ネットプラットフォームで直接他人の著作物を使用する侵害行為
国家版権局は2013 年、深セン快播科技有限公司(以下、快播社という)と北京百度網訊科技有限公司(以下、百度社という)がプレーヤーソフトを通じて権利侵害動画作品を配信したことに対して、優酷社、テンセント社、楽視(LeTV)社、SOHU社等の権利者からのクレームを受理した。同年11月19日、国家版権局は正式に立件し、調査を経て、快播社と百度社は、それぞれ運営しているプレーヤーソフトを利用して公衆に指向検索、指向性のあるリンクサービスを提供することで、直接大量の海賊版ウェブサイトへ指向検索・リンクができるようにしたことには、一定の主観的過失があり、情報ネットワーク伝達権侵害に該当し、かつ、公的利益を侵害したことを明らかにした。12月27日、国家版権局は、「著作権法」、「著作権法実施条例」等の関連規定に基づき、快播社と百度社に対して、それぞれ制裁金25万元を科する行政処罰を下した。
②ネットプラットフォームは、直接的な侵害者ではないが、ユーザーのためにメモリースペース又はリンクを提供して他人の著作物を伝達することにより侵害を構成するケース。
原告北京橙天嘉禾影視制作有限公司(以下「橙天社」という)が被告広州市千鈞網絡科技有限公司(以下「千鈞社」という)を訴えた事件 において、原告は、2012年4月10日調査・確認した結果によれば、被告千鈞社は、原告の許諾を得ずに、被告が所有し、経営している56網において、不法に原告が著作権を享有し、かつ、法により独占的に当該映画著作物の中国大陸範囲における情報ネット伝達権を享有している映画「2012我愛HK喜上加囍」を伝達し、かつ、その行為により相応の不当利得を得たと主張した。当該映画は、2012年6月15日から中国大陸で上映されたが、被告による侵害行為は当該上映期日前に実施され、かつ、上映期日に比較的近く、当該映画著作物の上映に伴う関連利益に重大な影響をもたらし、原告の経済利益に深刻な損害を与えた。したがって、橙天社は、千鈞社に対して侵害行為を中止し、かつ、経済損害10万元を賠償することを命じるよう請求した。
被告千鈞社は、当該映画はウェブサイトの登録メンバーがアップロードしたもので、自らがアップロードしたものではないので、法定の免責要件を満たしているし、被告の行為が侵害に該当したとしても、原告が主張した賠償額は法外であると反論した。その後、千鈞社は、自ら係争映画の動画作品を削除した。
裁判所は、審理を経て、係争著作物はウェブサイトの登録メンバー「mablle117」がアップロードしたものであるので、被告は本事件において情報メモリースペースを提供したネットワークサービスプロバイダとしての法的責任のみを負うべきであると認定した。係争動画作品は、「映画」類別欄に保存されていたので、被告は、完全に権利出所を確認できる条件と能力を有し、侵害動画作品の伝達を回避できるはずであったにもかかわらず、当該義務を行使することを怠り、侵害行為の発生を放任した。したがって、係争動画作品が被告の経営しているウェブサイトにアップロードされ、かつ伝達されたことには、被告の主観的な過失が存在し、その行為は他人による侵害行為の実施を客観的に助けている。裁判所は、最終的に千鈞社に対して橙天社の経済損害及び合理的支出計1万5400元を賠償することを命じ、かつ、橙天社のその他訴訟の請求を棄却した。原告は、上記の判決を不服として上訴を提起したが、二審裁判所は一審判決 を維持した。
③個人又は企業が営利又は経営上の目的のために、インターネットで他人の著作物を使用して侵害を構成するケース。
2011年1月、楽視網信息技術(北京)股份有限公司(以下、「LeTV社」という)が楊浦区裁判所に上海鑫洪互聯網上網服務有限公司(以下、「鑫洪社」という)と上海寛娯数碼科技有限公司(以下、「寛娯社」という)を訴えた著作財産権侵害事件 において、LeTV社は、自社は映画「窃聴風雲」の中国大陸地区における情報ネットワーク伝達権を享有していたが、鑫洪社の経営するインターネットバーではLeTV社の許諾を得ずに無断で映画「窃聴風雲」のオンライン放映サービスを提供し、かつ、LeTV社には如何なる報酬も支払っていないと主張した。当該映画については、寛娯社が有償で鑫洪社に提供し、使用させたものであるので、LeTV社は、両者を裁判所に訴え、かつ、法により両被告に対して直ちに侵害行為を中止し、自社の経済損害と合理的費用1万人民元を賠償するよう命じることを請求した。
裁判所は、審理を経て、寛娯社が鑫洪社に映画・テレビソフトウェアサービスを提供する際に、LeTV社の許諾を得ずに係争映画を提供し、かつ、鑫洪社が同社の経営しているインターネットバー内で非特定の公衆に対して有償で係争映画のプレイサービスを提供したが、両被告の行為は、LeTV社の情報ネットワーク伝達権を侵害するので、相応の民事侵害責任を負うべきであると認定した。しかし、鑫洪社は、インターネットバー内で係争映画の放映サービスを提供したものの、相応の対価を支払う形式により寛娯社から係争映画を取得し、かつ、調査によれば、鑫洪社は寛娯社の関連証明資料を検査し、かつ、寛娯社の提供する映画の内容が自己の製品プラットフォームで生じ得る著作権問題に係る責任を負うことを保証するよう求めていたので、すでに合理的な注意義務を果たし、主観的な過失がないので、鑫洪社には、侵害行為を中止する民事責任はあるが、損害を賠償する民事責任は負う必要はない。裁判所は、最終的に法により寛娯社に対してLeTV社の経済損害及び合理的支出3500人民元を賠償することを命じ、LETV社が提出したその他訴訟請求を棄却した。原告は、当該判決を不服として上訴を提起したが、二審裁判所は一審判決 を維持した。
上述の侵害情状は、主にメディア企業に関連し、一般企業にとってはめったにないことである。しかし、ある著作権侵害に係る情状はいずれの企業でも発生する可能性がある。それは、企業公式サイト又は製品パンフレットにおける写真を冒用する行為である。すなわち、ネット経営者が、ある商品、更に非権利者の商品を宣伝する際に、権利者の公式サイト又はそのパンフレットにおける写真を使用して、自社のウェブサイト又はパンフレットを作成して宣伝することである。かかる行為は、著作物の複製権に対する侵害に該当する。
3.商業的信用の損害、虚偽宣伝等の不正競争行為
インターネットにおける広告事業はここ数年、急速に発展し、いつの間にか伝統的な広告ルート、分野と対等に対抗できる新しい分野になっている。中国のネットユーザーの規模拡大に伴い、インターネット広告業もすでに中国における電子商取引、インターネット情報業が利益を求める主な源になっている。
インターネットの開放性、不確定性と隠蔽性等の特徴によって、インターネットを介して不良広告を公表したり、虚偽宣伝を行ったりする行為が益々頻発している。たとえば、製品の性能、用途、製造者等に対する虚偽宣伝で自社を誇大宣伝することにより、消費者に商品又はサービスを購入させるように誘導している。
したがって、中国「不正競争防止法」では、市場で誤解を招く虚偽宣伝等の不正競争行為に対して明確に定義している。同法第9条では、「経営者は広告又はその他の方法を利用して商品の品質、成分、性能、用途、製造者、有効期限、産地等に対して公衆の誤解を招くような虚偽宣伝をしてはならない」と規定している。それと同時に、同条第2項では、広告経営者が虚偽広告に参与する際の法的責任に対しても、「広告経営者は、明確に知っている又は知っているはずの状況下で虚偽広告を代理、設計、制作、公布してはならない」と規定している。
たとえば、今年の10月、国家工商総局が通達したネット上の虚偽違法広告に関する典型的事件の1つである上海冀翔広告有限公司と杭州土抜鼠営銷策划有限公司がインターネット違法広告を設計、制作、代理、公布した事件である。当該事件において、杭州土抜鼠営銷策划有限公司は、大溪地諾利果汁(NOLIジュース)の販路を拡大することで利益を得るために、上海冀翔広告有限公司に指定ウェブサイトにおけるそのジュース製品の効用に関する広告の制作・公布を委託し、同ジュースが喘息、癌、リューマチ、関節痛、糖尿病等に対して治療効果があると宣伝し、かつ、同ジュース製品について8つの面から人体の癌を予防・治療することにサポートできると言う内容等を宣伝することにより、製品効果を誇張し、医療用語や薬品との混同をもたらす用語を使用し、消費者を誘導したが、当該行為は「広告法」等の法律法規の規定に違反していた。工商機関は、両当事者に対して違法広告の公布を中止し、かつ、上海冀翔広告有限公司が広告制作で得た代価28万3000元を没収し、制裁金153万2000元を科し、杭州土抜鼠営銷策划有限公司に対して制裁金191万5000元を科した。
また、ネット上における虚偽・事実でない広告については、上述のように製品の性能、用途、製造者等に対して虚偽宣伝を行う行為のほかに、「他人を貶し、自分を持ち上げる」ことで虚偽宣伝を行う情状も存在する。具体的には、虚偽事実を捏造し、散布する行為、定説のない事実を利用して誘導する行為、一部分の真実を以って全部が真実であるように誘導する行為、過去の真実を以って現在の真実を誘導する行為、曖昧、解釈が多義である用語で誤解をもたらす行為等があるが、かかる虚偽と誤解させる行為によって、多くの経営者が多大なる迷惑をこうむっている。
したがって、中国「広告法」第12条では、広告ではその他の商品経営者の商品とサービスを貶してはならないと規定している。当該規定は、コンピューター情報ネットワーク環境における広告に対しても適用することができる。しかも、中国「不正競争防止法」第14条では、「事業者は、虚偽事実を捏造、散布してはならず、競争相手の商業信用と評判、商品信用を損害してはならない」と規定している。経営者が、インターネットを介して虚偽事実を捏造、散布し、競争相手の商業上の信用と評判、商品の信用を損害した場合は、本条に規定する不正競争行為に該当する。
たとえば、北京市工商局は2013年10月、初めて企業がマイクロブログを利用して虚偽宣伝を行った行為に対して制裁金を科した。当該事件において、北京方万源公司は、マイクロブログにおいて、自社の販売している携帯「大K青葱版」とその他の携帯電話と比較し、かつ、自社の携帯電話を「優れている」と宣伝した。北京市工商局は、北京方万源社がその他の経営者の商品を故意に貶し、更にけなした行為は、他人の商業上の信用と評判を損害し、不正競争に該当すると認定した。同時に、北京方万源社がいわゆる自社の携帯電話を「優れている」と誇大に宣伝したことは、虚偽宣伝を構し、消費者に誤認をもたらしているとして、最終的に虚偽宣伝を以って他人の商業上の信用と評判を損なったという理由で方万源公司に対して制裁金15万元を科した。
2.対策
上述の侵害行為について、基本的には前章で紹介した侵害商品販売に対する法的手段を考慮することができる。具体的な内容は下図を参照のこと。
前章で紹介した侵害商品侵害情状に比べ、本章で紹介する侵害情状は、往往として実物への権利侵害には及ばず、インターネットにおける侵害情報に限られている。したがって、上述の対策を採用する際に、次の内容に注意する必要がある。
(1)通常、当該権利侵害行為が実物への権利侵害に及ばず、一部の侵害者は、不注意と法律に対する理解が十分でないので、侵害の悪意がさほど大きくない。かかる権利侵害行為について、通常、警告と交渉による方法で成功裏で解決できる比率は、前章で紹介した侵害品販売情状より遥かに高い。したがって、警告と交渉は、当該侵害行為に対応するために優先的に考慮する法的手段であると言える。
(2)しかし、かかる侵害行為に対する処理において、最大の難点は往々として法律の適用にある。すなわち、権利侵害品の販売が侵害に該当することは比較的容易に理解できるものが、販売した製品が非侵害品である場合、商標権者の商標に対する使用行為が合理的な使用であるか、それとも不当な使用であるか否かをめぐって、紛争が生じやすい。司法実務において、通常、商標の使用が商品の真実な出所を説明するためである場合、合理的な使用に該当すると認定し、逆に当該使用が混同と誤認をもたらす場合は侵害に該当すると認定する。当該認定基準を如何に把握するかにおいて、具体的な問題を具体的に分析しなけらばならない。かかる侵害行為に対する法的分析上の難点に鑑み、弁護士が介入して処理を進めることは必要不可欠である。
(3)実物への権利侵害に及んでいないので、通常、行政取締も得策とは言えない。侵害の悪意が比較的大きい行為について、訴訟を提起して良好な効果を得ることができる。それは、訴訟は常に社会からの注目を集めているので、訴訟を通じて混同と誤認の可能性を減少させ、かつ、かかる侵害行為によりもたらされる悪影響を排除することができるからである。
(4)実務において、上述の侵害行為は、常に侵害品販売行為と共に存在している。たとえば、権利侵害品販売と同時に、権利者の公式写真を冒用し、権利者の公式フラッグシップショップと称し、商標を製品名称として宣伝する行為等である。かかる状況において、権利者は、同時にいくつもの権利を主張することができれば、最も容易に明らかになる可能性のある権利を主張して権利行使することもできる。
第五章 企業が取るべき戦略及び注意事項
これまで述べてきたように、インターネット侵害行為は様々であり、比較的有名なブランドは、往々にして犯罪者の重点的な模倣対象となっている。インターネット環境において、如何に企業の知的財産権を保護するかについて、弊所が今までインターネット侵害行為を取扱っていた経験に照らして合わせて以下の内容を提案する。
1.早期権利化
権利化は、権利行使の前提である。知的財産権には地域性があるが、インターネットは簡単に地域性を取り払い、関連内容を伝達することができる。権利者が国外においてのみ権利を取得し、中国で相応の権利を取得していない場合、中国で伝達されるインターネット上の侵害行為については、取扱うことが難しくなる。
したがって、インターネットの全世界に対する重大な影響に鑑み、権利者は、知的財産権戦略を策定する際に、早期に権利の保護範囲をより広い空間に広げることが必要不可欠だと言える。特に中国は巨大市場として、無限な潜在力があり、中国での権利化を強化することは、非常に重要なポイントである。逆に、中国企業も、グローバル化の進展において、知的財産の権利化を第一の重要ポイントとすべきであり、軽視してはならない。
2.対応メカニズムと長期戦略の構築
インターネット、特にモバイルインターネットとオンラインショッピングの急速な発展に伴い、人々の生活は、すでにインターネットとは切っても切れない関係になっている。人々が情報を入手する主なルートは、すでに紙メディアからインターネットメディアに移行しつつあり、ショッピングの主な方法も実店舗から徐々にオンラインショッピングに変わっている。1つの侵害品が製造され、最終的に消費者の手に届くまでの半分以上のルートは、オンラインショッピングになっていると言っても過言ではないと言える。
かかる状況下で、1つの侵害行為、1つの侵害品が企業にもたらす影響はさほど大きくないものの、かかる権利侵害行為と侵害品の累積によって、消費者に多大な影響が及ぼされることになる。その影響が深刻でない場合、消費者は、正規品と侵害品に対して混同や誤認するだけで済むが、影響が深刻な場合、当該ブランド、製品に対する信頼が低下し、更に企業に対する信頼をも失ってしまうことになる。したがって、権利者はインターネットにおいて権利侵害行為を発見したら、直ちに制止することにより、侵害行為の拡大を防がなければならない。かかる状況に応じるために、企業は、完璧な対応メカニズム及び長期戦略を構築する必要がある。
たとえば、電子商取引ウェブサイトで売れ行きのよい権利侵害商品について、権利者は、侵害リンクの削除を短期決戦の作業とみなすのではなく、長期間にわたるインターネット上の侵害リンク監視・削除メカニズムを構築し、定期的にインターネットにおける検索を行うべきである。そして、侵害リンクを見つけたら、相応するクレームシステムを利用して遅滞なくクレームを提出すべきである。かかる措置を継続して行えば、一定の期間を経て、インターネットにおける侵害品の販売も徐々に減少するものと考えられる。
弊所は、かつて権利侵害製品の売り手に対してクレームを提出したにもかかわらず、同売り手が継続して販売しているケースを取扱ったことがある。かかる売り手は、そもそもクレームの受領後、その販売行為を中止しようとしたものの、その他の売り手が依然として販売していることが分かったので、権利者がすでに権利保護を中止したと勝手に判断し、かつ、在庫処分もしたかったので、リスクを知った上で引き続き販売を始めたと述べた。したがって、インターネットにおける侵害クレームの提出は、侵害商品の流通を減少できるだけではなく、権利者の権利保護に対する強い態度を示すことで、権利侵害製品の売り手が引き続き侵害しようとする考えをなくさせることもできる。
3.権利行使における注意事項
1)権利の選択
1つの権利侵害行為が同時に権利者のいくつもの権利を侵害する可能性がある。このような状況において、権利者は、最も有利な1つの権利を以って重点的に主張すべきである。たとえば、1つの権利侵害品が著作権を侵害しているだけではなく、登録商標専用権を侵害し、同時に不正競争行為を構成しているとする。侵害行為について、行政救済を通じて解決することを望む場合は、どの権利を主張したほうがより有利になるか真剣に考慮する必要がある。それと同時に、主張する基礎権利によって、クレームを受理する部門も異なる。上述の侵害行為について、仮に権利者が著作権を主張する場合は版権局へ、商標権侵害又は不正競争を主張する場合は、工商局へその取締申請を提出しなければならない。実務において、版権局に比べ、侵害行為に対する工商局の取締がより普遍的でかつ迅速なので、仮に勝算が半々である場合は、工商局へ行政救済を求めることを提案する。それと同時に、工商局の案件受理範囲が比較的広いので、1部の取締請求書において、権利者は、商標権侵害を主張することができるだけではなく、不正競争、製品品質等の関連違法行為を同時に主張することもできる。
2)証拠收集の重要性及び権利行使のタイミング
権利を行使する前に、十分に調査・証拠収集を行うことが必要である。弊所では、以下の事件からその重要性を身をもって経験した。ネットページ侵害事件について、権利者は、権利侵害行為に対する更なる調査・確認を行っていないだけではなく、侵害ネットページに対する公証も行わずに、直接相手側に警告書を発送した。侵害者は、警告書を受け取った後、侵害ネットページを削除したが、侵害品の出所にかかる情報を提供してくれなかった。侵害ネットページがすでに削除されていたので、権利者も相手側に対して更なる法的手段を取ることができない状況に陥った。その際、事前に侵害ネットページに対して公証をしていたら、侵害者が協力しない状況下で、公証付侵害証拠に基づいて相手側にプレッシャーを掛けられ、又は相手側の法的責任を追及することができたわけである。
侵害対策の実施は、1つの動態の過程であり、第1対策を実施した後、侵害者の協力の程度、事態の発展に基づき、当初想定していた次のステップにある程度の変更が生じる可能性もあるので、権利を行使する前に侵害証拠の入手を確保すべきである。相手側に警告書を発送し、又は交渉を行った後、相手側は、直ちに自己の侵害証拠を隠匿してしまうので、再度証拠を収集することは非常に困難になる。
3)インターネットにおける侵害行為を手がかりに行う調査
インターネットにおける侵害製品販売リンクを削除し、侵害ウェブサイトを閉鎖させる等の方法で解決することは、侵害品が端末消費者へ流出することを防ぐ基本的な問題であって、根本的に侵害品の問題を解決しようとする際に、その背後にある侵害品の卸売り、製造者を探り出さなければならない。権利者は、すでに入手した情報を手がかりとして侵害製品の商流、供給者、製造者等に対する詳細な調査を行うことができる。勿論、最終的に必ずしも製造者を探し出せるとは限らないが、詳細な調査を経て国内市場における侵害品の流通状況を把握し、かつ、より戦略性を有する侵害品対策を策定することができる。
4)目的ある行動
中国には、「殺鶏焉用宰牛刀(鶏を殺すのに牛を殺す包丁を使う必要がない」という諺があるが、些細なことを大げさにする必要はないという意味で使われる言葉である。権利者は、自己の予算及び予期される効果に基づいて最善の方策を制定すべきである。
経費の問題で他人が先取り登録したドメイン名に基づき設立した違法ウェブサイトを閉鎖することのみを求め、その他の責任を追及しない場合、弊所は、ドメイン名仲裁を介して当該紛争を解決したほうが、時間、労力、財力を節約でき、かつ、勝算も非常に大きいと考える。もちろん、その前提は、当該ドメイン名が仲裁期限を経過していないことである。
また、すでに権利侵害品の在庫位置を把握した場合、侵害者に警告書を発送してその侵害行為の中止、侵害品の廃棄等を求める必要がなく、直接当局に行政救済を求めることにより、一挙に侵害品の倉庫を粉砕し、かつ、その他の権利侵害者にも大きなプレッシャーをかけることができる。
5)代理事務所の選択
知的財産権の専門性に鑑み、企業は、中国で権利保護活動を行う際、常に専門代理事務所を介して対策を求め、その権利を代行してもらうことが必要である。専門の知的財産権代理事務所を選択することは、侵害対策の勝敗に対して重要な役割を果たしている。ネットページに対する公証、公証付購入は、簡単に見えるかもしれないが、仮に1つの手続を間違えたり、又はある侵害ネットページに漏れがあったりした場合、それ以降の訴訟において、相手側にその瑕疵を捕まえられ、その効力が反駁されたり、又は全面的にその侵害行為を証明することができなくなる。したがって、企業にとっては、中国で権利を行使する際に、豊富な経験を身につけている知的財産権専門代理事務所を選択して順調な進展を保証することが必要である。
現在、インターネットにおける知的財産権侵害は、すでに氾濫し、非常に大きな問題になっている。しかし、環境を浄化することは、決して一朝一夕に実現できるものではなく、かつ、北京の「大気汚染」問題と同様に、それほど容易なことでもない。弊所は、環境浄化のために少しでも役立つことができ、権利者の知的財産権の保護のために資することができれば、またとない光栄である。