北京魏啓学弁護士事務所
中国商標代理人/実習弁護士
宗 可麗(Daisy ZONG)
中国商標代理人/実習弁護士
宗 可麗(Daisy ZONG)
商標実務において、企業が商標を登録した後、さまざまな原因でその登録商標を実際に使用しないことはよくあることである。その中で、「商標法実施条例」第67条に規定されている「商標登録者の責に帰すことのできないその他の正当な事由」という不使用の正当な事由以外に、商標登録者が市場に投入するための使用としてさまざまな事前準備を行った場合、これらは商標不使用取消審判事件において有効使用と見なされるのだろうか。
筆者は本稿において、中国裁判所の関連規定及びここ数年の司法判例を結びつけた上で、商標不使用取消審判事件における「事前準備」行為に関する認定について分析を進める。読者の皆様に少しでもご参考になれば幸いである。
商標使用の「事前準備」は法律概念ではなく、通常、広告契約の締結、製品包装及びラベルなどの生産委託という市場に投入する前の使用のことをいう。これらの行為において、広告契約及び製品包装には通常、商標標識が明記されており、具体的な商品も示され、かつ商標使用者に関する明確な情報もある。形式的に見れば、これらの行為は、「商標法」第48条に規定の「商標を商品、商品包装又は容器、及び商品取引文書に使用する」という「商標の使用」の定義に合致しているとも言える。
「最高裁判所による商標の権利付与・権利確定に係わる行政事件の審理における若干問題に関する規定」(法釈[2017]2号)の第26条4項には、「商標権者は真実の商標使用の意図を有し、かつ実際に使用するのに必要な準備をしたものの、その他の客観的な原因によりまだ登録商標を実際に使用していない場合、裁判所は商標権者に正当な理由があると認定することができる。」と規定されている。この規定は、事前準備行為が登録商標の有効性を維持することをより肯定しているようである。
それでは、司法実務において、事前準備行為がどのように認定されているかについて、いくつかの判例によって分析を進めていく。
1.指定期間内における事前準備及び指定期間内の使用が少ない場合
新銀麦公司の「ERDINGER」商標取消審判事件[i]において、商標登録者である新銀麦公司は指定期間内に、同公司の78に及ぶ 商標標識を表示した「沂蒙晩報」C2版に掲載された宣伝広告1部、デザインサービス契約と領収書1部及び商標売買契約補充協議書1部を証拠として提出した。デザインサービス契約について、最高裁判所は「添付された契約に係争商標の図面がはっきりと示され、かつそのデザイン日と検収日はいずれも指定期限内に形成されており、新銀麦公司によるその登録商標の使用が証明できる」と認定した。また、商標売買契約補充協議書の目録については、係争商標、「ビール箱(啤酒箱)」の文字がはっきりと示され、証拠が指定期限内に形成され、かつ関連領収書も証拠となることに鑑みて、最高裁判所は「これらの証拠から、新銀麦公司が係争商標を商品と商品包装に使用する意図を持っていたことを証明できる」と認定した。さらに、商標登録者の提出した指定期間後の製品販売契約と結びつけて、最高裁判所は、前述のデザインサービス契約、商標売買契約を「事前準備」と見なすことで、商標登録者に係争商標を実際に使用しようとする意図と行為があったと認定して、最終的に証拠の有効性を認め、商標登録を維持するという判決を下した。
東莞市昱星公司の「図形」商標取消審判事件[ii]において、商標登録者である東莞市昱星公司は指定期間内の、製品包装の購入注文書と送り状、1回分の製品販売の購入注文書と領収書を証拠として提出した。北京知的財産裁判所は、指定期限内の製品包装の購入注文書の内容と領収書の金額が一致し、かつ商標登録者が指定期限内に係争商標の1件だけを所有していたこと、関連証拠は商標登録者が係争商標を市場流通段階に投入するための事前準備を行ったことを証明でき、さらに登録者の販売行為だけでなく、係争商標が指定期間内に「ヒューズ」など類似群0913(三)の権利商品において、商標法上の意味で真実、合法的、有効的に使用されたと認定した。
また、実務では、一般的に指定期間の3年以内に1回きりの製品販売又は広告宣伝が行われた場合、登録取消しを免れるように行う「象徴的な使用」であると認定されやすい。しかし、上述の事件から見れば、事前準備の関連証拠の形成時間が製品販売、広告宣伝より早く、時間の順序が正常な商慣行に合致する場合、完全な証拠チェーンが形成されたと見なされる可能性があり、商標登録者が商業目的で登録商標を有効に使用したことも証明できることで、1回きりの使用行為が「象徴的な使用」と見なされるリスクを下げることができる。
2.指定期間内に事前準備だけがされた場合
漳浦県中美公司の「団美」商標取消審判事件[iii]において、北京知的財産裁判所は、商標登録者である漳浦県中美公司が提出した月餅包装箱、月餅缶箱、手提げ袋などの製品加工契約及び一部の領収書は、ライセンシーが月餅商品の販売のために事前準備をしたことを証明できるだけで、当該商品がすでに市場流通に入ったことは証明できないと認定した。さらに、商標登録者の提出した証拠は、係争商標が指定期間内に「月餅」などの権利商品に真実、合法的、有効的に使用されたと証明できないと最終的に認定した。
王小兵の「UT及び図形」商標取消審判事件[iv]において、商標登録者の提出した係争商標の使用許可書、天猫(Tmall)ブランド旗艦店開設の授権書、天猫(Tmall)のサービス協議書などは同様に「市場投入するための事前準備」と見なされ、実際の使用証拠にならないと判定された。
常州科莱恩公司の「科莱恩KRAINET」商標事件[v]、美縁日化公司の「金鶏」商標事件[vi]、武漢同済公司の「同済大薬局」商標事件[vii]、陳一峰の「精豊谷雨」商標事件[viii]などの商標取消審判事件において、北京知的財産裁判所と北京高等裁判所の認定は基本的に上述の「団美」商標及び「UT及び図」商標の判例と一致していた。つまり、提出された証拠は、商標登録者が係争商標の使用のために行った事前準備を証明できるだけで、当該商標標識の商品が市場流通に入ったことを証明するまでには至らず、他の関連証拠がない限り、商標登録者が係争商標を真実かつ効果的な商業使用を実施したとはまだ証明するには至らないとされた。
特に注目すべきことは、複数の判例[ix]の論理部分において、商標使用に対して以下のように定義されていることである。
商標の使用とは、商品、商品包装又は容器及び広告宣伝、展覧及びその他の商業活動において商標を使用し、流通に投入することで商品又は役務の出所を識別する行為のことをいう。
「商標法」の第48条における「商標の使用」に対する定義に比べ、「流通に投入することで」という表現が追加された。「流通に投入する」とは、伝統的な意味における「公開的な」商業使用[x]である。例えば広告宣伝、製品販売などの商業流通における使用は公開的であり、関連公衆、不特定の消費群体に知られている。関連公衆は、この使用行為を通じて、商標標識、使用されている商品、利用者などの情報を関連づけることで、商標と出所を結びつけることができる。商標標識は商品の出所を識別する役割を果たすことができる。しかし、市場に投入する前の「事前準備」は、例えば、広告契約の締結、製品包装及びラベルの製作委託などの行為が商標登録者と第三者の受託者との間だけに行われるため、関連商標はこの両者にしか知られず、一般消費者、販売代理店などには知られていない。この過程において、商標は消費者にとって商品の出所を識別する役割を果たしていない。そこで、この観点から見れば、前述の判例は、「商標法」第48条に規定される「商品又は役務の出所を識別する行為」という「商標の使用」の判断基準と一致している。
商標登録者の提出した証拠が広告契約の締結、製品包装及びラベルなど製作委託の関連資料のみであれば、これらの証拠が性質的に同じで、いずれも非公開で流通分野に入らない使用であり、証拠形式も断片的で単一なものであるため、その他の関連証拠がない限り、有効な商業使用行為と見なすのは困難である。
キューバロバイナシガー社の「Ale jandroRobaina」商標取消審判事件[xi]において、係争商標の権利商品は、34類のシガー、タバコなどであった。商標登録者の提出した証拠には、シガー包装箱、シガー包装偽造防止ラベル、印刷宣伝品などのほか、サイトのスクリーンショット、一緒に撮った写真、業務連絡メール及び協力備忘録、招待状など他の葉巻工場との提携を求める関連情報も含まれていた。商標登録者は、提出したこれらの証拠が実際使用のために努力したことを証明できると主張したが、裁判所は、その主張を認めず、最終的に係争商標を取消す判決を言い渡した。
本事件において権利商品は特殊なものであり、中国における製造、輸入、販売などには行政審査によって経営許可を得る必要がある。商標登録者は、該期間中に提携パートナーをずっと探していたと主張したが、行政許可の申請を行ったり、行政審査中であったりすることを証明できる証拠を提出しなかった。裁判所は、行政許可の申請を行っていないという観点から、商標登録者がすでに実質的な準備段階に入ったか否かについて最終的に認定できないと判定した。言い換えれば、商標登録者がすでに行政申請を提出していれば、実質的な準備に入ったとして、その商標の有効性を維持できる可能性があると考えられる。
前述の複数の判例分析から分かるように、商標不使用取消審判事件における「事前準備」行為に関する司法判決の結果は概ね一致している。通常、事前準備に関する証拠だけでは、商標登録を維持するには不充分だと見なされる。しかし、事前準備の資料とその後の市場流通に参入した使用証拠とが、相互に証明できれば、登録維持の成功率を大幅に向上させることができる。また、行政許可がなければ、製造・販売ができない特殊商品について、商標登録者が行政許可の申請をしたか否かは、実質的な準備段階に入ったか否かを判断する重要なポイントとなる。
[i](2018)最高法行申7号
[ii](2019)京73行初15469号
[iii](2020)京73行初2199号
[iv](2019)京73行初6195号
[v](2019)京73行初14712号
[vi](2019)京行终9365号
[vii](2020)京73行初213号
[viii](2020)京73行初4532号
[ix](2018)京73行初9397号、(2019)京行終9365号、(2019)京73行初15469号、(2019)京73行初12635号、(2019)京73行初6195号
[x] 『商標の権利付与・権利確定に関する訴訟――規則と判例』P431、周雲川(著)
[xi](2019)京73行初15501号