北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 陳傑

はじめに

周知のように、意匠権は物品の意匠を保護する最も有効的な方法であるが、意匠権の保護期限は比較的短い。2021年6月1日に施行された改正専利法は意匠権の保護期限を従来の10年間から15年間に延長したものの、製品のライフサイクルが長い一部のクラシック物品の意匠を保護するには、15年はまだ十分とは言えない。意匠権満了後に、物品の意匠を如何に保護するかということは、広範な注目を集めている。理論的には、ある物品の意匠が比較高い独創性を有することで、美術作品に該当する場合、著作権による保護を主張できる。また、ある物品の意匠が立体商標として登録できる場合、商標権による保護を受けられる。そして、ある物品の意匠が商品の出所を識別できる役割を有し、一定の影響力のある商品の装飾に該当する場合、不正競争防止法の保護を受けられる。しかし、実務において、前記保護についていずれも比較的に厳しい条件があるため、実際に保護を受けることができる事例はさほど多くない。

弊所が代理したオーデマピゲホールディングS.A.(AUDEMARS PIGUET HOLDING S.A. 以下、「オーデマピゲ社」という)が深セン市の某社及びその主要責任者を訴えた商標権侵害及び不正競争事件は、物品の意匠が不正競争防止法の保護を受けられるか否かについての実例である。深セン市中等裁判所は2021年9月、腕時計の意匠が一定の影響力のある商品の装飾に該当するという当方主張を認め、被告が当該意匠を模倣して腕時計を製造した行為が不正競争行為に該当すると認定し、被告に対して、権利侵害行為の差止め、原告に経済的損失及び合理的権益を保護する費用計100万元の支払いを命じる一審判決(まだ発効していない)を言い渡した。

本文では、前記事例を詳細に説明することで、中国において、物品の意匠が不正競争防止法の保護を受けられる条件について紹介する。皆様にとって少しでも参考になれば幸いである。

事件の概要

オーデマピゲ社傘下の「ロイヤルオークROYAL OAK」シリーズ腕時計は世界的に有名な腕時計であり、1972年の発売以来、画期的なデザイン(八角形の一体型リング、リングに8つの六角形のネジ頭が備えられている)がそれまでの腕時計についての美的コンセプトを覆し、オーデマピゲ社の代表的なデザインとなっており、当該腕時計は、世界中のエリートやファッショニスタに愛用され、高く評価されている。

深セン市の某社及びその主要責任者は2019年から、その製造、経営する腕時計のケースの裏側に「ROYAL ONE」標章を表記し、「ROYAL OAK」腕時計の意匠と全く同一のデザインを使用しており、タオバオ、Aliexpress、アマゾン、EbayなどのECサイトにおいて、広く販売していた。
弊所はオーデマピゲ社を代理して深セン市中等裁判所に提訴して、被告が腕時計に「ROYAL ONE」標章を使用している行為は、原告の「ROYAL OAK」、「」商標の登録商標専用権を侵害していると主張した。同時に、「ロイヤルオーク」腕時計が極めて高い知名度を有し、かつその意匠が独特であり、通常の腕時計の形状と区別でき、商品の出所を識別できる役割を有しており、被告が「ロイヤルオーク」腕時計と同一又は類似する意匠を無断に使用していることは、不正競争防止法に禁止されている他人の一定の影響力のある商品の装飾を勝手に使用し、消費者の混同・誤認を生じさせやすい行為に該当するため、不正競争行為に該当すると主張した。



被告は、腕時計のケースの裏側のみに被訴標章「ROYAL ONE」を使用しており、裏側は使用時に観察できない部分であるため、当該使用は実際に商品の出所を識別できる役割を果たせず、商標的使用に該当しないと答弁した。また、係争腕時計の形状と構造特徴は主に機能的な役割を果たしているので、製品の装飾、デザインに該当せず、美観を有しているとしても、不正競争防止法第6条に規定されている一定の影響力のある商品の包装、装飾に該当しないと主張した。

一審裁判所は審理を経て、被訴標章と係争商標とは類似し、被告商標を付して販売されている製品が、原告商標に由来するか、又は被告と原告の間に何らかの関係を有していると消費者に誤認されやすいため、法により商標権侵害に該当すると認定した。それと同時に、「ロイヤルオーク」シリーズ腕時計は腕時計業界において知名度が高く、腕時計の文字盤の外輪は、八角形の一体型リングに囲まれており、リングに8つの六角形のネジ頭が備えられており、ネジ頭は八角形のリングの各角の曲線に平行しているデザインは独特であり、通常の腕時計の形状と区別でき、商品の出所を識別できる役割を有していると認定した。被告は許諾を得ずに原告の「ロイヤルオーク」腕時計と全く同一の意匠を無断に使用しており、その目的は「ロイヤルオーク」腕時計の既に形成されている商業名誉にただ乗りし、関連公衆を混同又は誤認させることにあるため、被告は信義誠実の原則を違反し、不正競争防止法第6条第1項に規定されている不正競争行為に該当し、侵害行為の差止め及び損害賠償の民事責任を負うべきであると裁判所は判定し、(2020)粤03民初3331号一審判決を言い渡した。

被告が既に上訴したことに鑑み、本稿の発表日まで、一審判決がまだ発効されていない。
 
 物品の意匠が不正競争防止法の保護を受けられる条件

中国の「不正競争防止法」は1993年に制定され、2017年に1回目の改正が、2019年に2回目の改正が行われた。改正前又は改正後の同法において、いずれも物品の意匠に対する模倣を不正競争行為として明確に列挙していないが、上海中韓晨光文具製造有限公司が寧波微亜達文具有限公司、寧波微亜達製筆有限公司、上海成碩工貿易有限公司を訴えた知名商品の特有名称、包装、装飾を無断に使用した紛争事件において(一審事件番号:(2008)滬二中民五(知)初字第112号;二審事件番号:(2008)滬高民三(知)終字第100号;再審案件番号:(2010)民提字第16号)、最高裁判所は、物品の意匠が一定の条件を満たせば、不正競争防止法に規定されている知名商品の特有装飾に該当することをはっきり認定した。前記晨光筆事件以外にも、近年、複数の司法判例において、商品の形状、構造が知名商品の特有装飾又は一定の影響力のある商品の装飾として不正競争防止法の保護を受けている。例えば上海市第二中等裁判所は(2013)滬二中民五(知)初字第172号事件において、原告クロックス社の複数の「洞洞鞋(サンダルクロックス)」物品の意匠が知名商品の装飾に該当すると認定した。上海知的財産裁判所は(2017)滬73民終279号事件において、原告ハネウェル・インターナショナルのスキャナー物品の意匠は一定の影響力のある装飾に該当すると認定した。四川省高等裁判所は(2020)川知民終177号事件において、被上訴人(原審被告)成都科林分析技術有限公司の全自動ヘッドスペースサンプラーの意匠は一定の影響力のある装飾に該当すると認定した。浙江省杭州市濱江区裁判所は(2016)浙0108民初1401号事件において、原告カルティエインターナショナルの「LOVEシリーズジュエリー」商品が知名商品の特有装飾に該当すると認定した。北京知的財産裁判所は(2019)京73民終2033号事件において、ジャガーランドローバー社が主張した「攬勝極光」自動車の意匠は一定の影響力のある装飾に該当すると認定した。これらの事件において、裁判所はいずれも係争商品の意匠構造が不正競争防止法に規定されている知名商品の特有装飾又は一定の影響力のある装飾であると認定して、不正競争防止法による保護を与え、意匠を模倣する侵害行為を禁じるよう命じた。つまり、物品の意匠に対する模倣は不正競争防止法(改正前の第5条、改正後の第6条)によって規制できることが、実践において既に定論となっている。

晨光筆事件において、最高裁判所は(2010)民提字第16号民事裁定書において、「商品の装飾の文言上の意味は、商品の飾りのことを言い、商品を美化する役割を果たしている。通常、商品を美化する役割を有し、外部から可視できる飾りは装飾に該当する。広義では、商品の装飾は通常以下のような2種類に分けられる。1種類は、文字、模様種類の装飾、つまり商品の外部にある文字、模様、色彩及びその組み合わせである。もう1種類は、形状、構造種類の装飾、つまり物の中にあり、物の本体に属すが、装飾の役割がある物の全体又は一部の外観構造である。ただし、商品自身の性質によって決められる形状、ある技術的効果を実現するための必須な形状、又は商品に実質的な価値を持たせる形状は含まない。商品の意匠が同時に商品の包装又は装飾に該当することができるため、不正競争防止法の知名商品の特有包装、装飾にかかる規定に基づいて混同を制止する保護を受けることができる。この場合、当該意匠は以下の条件を満たさなければならない。1.当該デザインを使用する商品は知名商品でなければならない。2.当該デザインは実際に既に商品の出所を識別できる役割を有しているため、知名商品の特有包装又は装飾とすることができる。3、当該デザインは商品自身の性質によって決められるデザインでもなく、ある技術的効果を実現するための必須なデザイン、又は商品に実質的な価値を持たせるデザインでもない。4、他人による当該デザインの使用は関連公衆を混同又は誤認させる。」と明確に指摘した。

不正競争防止法が2017年の改正時に、製品包装、装飾の保護にかかる条項が第5条第1項第2号から第6条第1項第1号に改正され、文言からみれば、「知名商品」が「一定の影響力のある商品」に改正されたものの、実質的な保護要件は変更されなかった。したがって、現行不正競争防止法の下、物品の意匠が不正競争防止法の保護を受けられる要件は、依然として前記晨光筆事件において最高裁判所が指摘した以下のような要件である。

1.当該意匠を使用する商品は知名商品でなければならない。
2.当該物品の意匠が特別であり、商品の出所を区別できる顕著な特徴を有し、かつ既に商品の出所を識別できる役割を有している。
3.当該意匠は商品自身の性質のみによって形成された形状でもなく、技術的効果を達成するための必須な商品形状及び商品に実質的な価値を持たせる形状でもない。
4.他人が同一又は類似する物品の意匠を使用することは、関連公衆を混同又は誤認させやすい。

次は、前記「ロイヤルオーク」腕時計事件を通じて、上記4つの要件の具体的な基準、立証方法及び留意点を詳しく論述する。

1.製品の市場知名度

製品が市場知名度を有していることは物品の意匠が不正競争防止法の保護を受けられる前提であり、立証の最も重要な事項である。

「最高裁判所による不正競争民事案件の審理における法律応用の若干問題に関する解釈」第1条第1項に、「中国国内において一定の市場知名度を有し、関連する公衆に知られている商品である場合は、不正競争防止法第5条第1項第2号に定める『知名商品』として認定しなければならない。裁判所が知名商品を認定するとき、当該商品の販売期間、販売地域、販売額と販売対象、宣伝の継続時間、程度及び地域の範囲、知名商品として保護を受ける状況等の要素を考慮し、総合的に判断しなければならない。」と規定している。

2021年8月に公布された「最高裁判所による『中華人民共和国不正競争防止法』の適用の若干問題に関する解釈(意見募集稿)」の第4条は、「原告は、その標章の市場における知名度を拳証して証明しなければならない。裁判所が不正競争防止法第6条に規定されている標章が一定の市場知名度を有しているか否かを認定する際、中国国内の関連公衆の周知程度、商品の販売期間、地域、販売額及び対象、宣伝の継続時間、程度及び地域の範囲、標章の保護を受ける状況等の要素を総合的に考慮しなければならない。」と基本的に前記司法解釈の規定を援用した。

以上のことから分かるように、市場知名度について、商品の販売及び宣伝にかかる証拠は最も重要で、最も肝心な証拠である。例えば、本件において、ロイヤルオークシリーズ製品の市場知名度を証明するために、当方は広告の契約書、広告及び記事を掲載した新聞、雑誌にかかる図書館検索報告書、インターネット検索情報、経営主体の財務諸表、原告と代理店との間の契約書、原告の世界ブランド500におけるランキングなどの証拠を提出した。

ここで、販売額がいくらに達したらよいのか、どのぐらいの市場シェアを占めればよいのか、何件の販売契約書があればよいのか、どのぐらいの広告を行えばよいのか、または何回報道されればよいのかというような一定の市場知名度を有していることを必ず証明できる具体的な基準がないことを説明しなければならない。知名度にかかる証拠は多ければ多いほどよい。特に一般的な日常用品ではない場合、裁判官が関連業界をよく知らない場合、製品の知名度、業界における影響力などの証拠がより重要になってくる。本件のように、ロイヤルオークシリーズ腕時計は高級ブランドであるため、腕時計に興味のない一般大衆はよく知らない可能性が高いので、当方は大量の関連記事などを提出し、当該腕時計が世界で知名な腕時計であり、原告の長期にわたる大量の普及、宣伝、展示、販売などの活動を通じて、当該シリーズの腕時計が既に中国の腕時計業界において極めて高い知名度を有していることを証明した。

さらに、商標と商品の関係についても、注意しなければならない。多くの大手企業は知名度が非常に高い商標を有しているが、大量の製品を製造しているので、すべての製品が市場知名度を有しているとは限らないこともある。商標の知名度は必ず関連商品に広がり、立証する際、商標又は企業の知名度の証拠を利用できるものの、具体的な商品の販売、宣伝状況も不可欠であることに留意しなければならない。例えば本件において、当方は大量の証拠を提出し、係争ロイヤルオークシリーズの腕時計が原告の最も著名な製品シリーズであることを証明し、販売期間及び宣伝の立証にあたっても、ロイヤルオークシリーズと関連のある証拠を選択した。
 
2.意匠の顕著な特徴

顕著な特徴とは、商品の出所を識別できる役割を果たす特徴のことを言い、商標の登録条件を考察するときの標章の顕著性に類似している。立体形状が商品の出所を識別できる顕著性を有していることを証明する難度は、平面標章よりはるかに高い。これも立体商標の登録が困難な原因になっている。顕著な特徴に対する立証は、物品の意匠が不正競争防止法の保護を受けるための難点中の難点であると言える。
 
最高裁判所は(2010)民提字第16号民事裁定書において、「形状構造そのものが商品の本体と分割不可であり、関連公衆は通常形状構造を商品の特定の製造者、提供者を直接結び付けるのではなく、商品本体の構成部分と見なしやすい。」、「形状構造類の装飾について、当該種類の形状構造を使用した商品が既に知名商品になっていることに基づき、当該種類の形状構造が既に商品の出所を識別できる役割を果たしているとは当然みなすことができず、さらに当該種類の形状構造を使用した商品が既に知名商品になっていることに基づき、当該種類の形状構造が知名商品の特有装飾に該当すると推定してはならない。したがって、形状構造類の装飾が知名商品の特有装飾に該当すると認定するとき、一層十分な証拠をもって、当該種類の形状構造が商品の出所を識別できる役割を果たしていることを証明する必要がある。したがって、商品の外部にある文字、模様類の装飾に比べ、商品の内部にある形状、構造類の装飾が知名商品の特有装飾に構成するためにより厳しい以下の2つの条件を満たさなければならない。1.当該形状構造には一般的なデザインと区別できる顕著な特徴を有さなければならない。2.市場における使用を通じて、関連公衆は既に当該形状構造を特定な製造者、提供者と結び付けることができ、すなわち、当該形状構造が使用を通じて、第二の意味を獲得したことになる。つまり、形状構造が知名商品の特有装飾になるため、新規性及び独創性を有し、消費者を引きつけるだけでは不十分であり、商品の出所を識別できる役割を有さなければならない。十分な証拠をもって、当該形状構造が商品の出所を識別できる役割を獲得したことを証明できれば、知名商品の特有装飾に基づいて保護を受けられる。」と指摘した。

当方は本件において、一般的な生活常識によれば、市場におけるほとんどの腕時計の文字盤の形状は円形、楕円形、正方形、長方形であり、文字盤の外輪が滑らかで規則的であり、部品が意図的に隠されているのに対して、原告のロイヤルオークシリーズの腕時計はその誕生以来、タフなスポーツスタイルを顕著に表すことができる八角形のリングと露出している8つの六角形ネジ頭で著名となり、当該デザインが従来の美的コンセプトを覆した。このような八角形のリングと8つの六角形ネジ頭から構成されているデザインも、原告製品の象徴的なデザインとなっていると強調した。さらに新聞、雑誌、インターネットにおける「ロイヤルオーク」、「ロイヤルオークオフショア」シリーズ腕時計の構造デザインの独創性に対する大量の記事と評価を列挙し、関連公衆において非常に高い識別レベルを有していることを、顕著な特徴を主張する根拠としている。

前記の通り、物品の意匠特徴が既に製品の出所を識別できる役割を有していることを証明するのは容易ではなく、関連公衆の認識が非常に重要である。記事における評価、消費者の製品購入後の評価などが比較的有力な証拠になっている。しかし、(2016)滬0112民初697号事件において、原告リモバ社(RIMOWAGMBH)のそのスーツケース物品の意匠が知名商品の特有装飾に該当するという主張が裁判所に認められなかった。裁判所がその主張を認めなかった理由の一つとして、「原告、被告とも関連公衆がスーツケース本体のデザインを通じて原告製品を識別できるかについての調査を行った。つまり、たとえ原告、被告が提出した関連証拠がその内容の真実性を証明できたとしても、本件においてそれぞれの主張を十分に支持できないので、当裁判所は原告、被告の関連主張をいずれも採用しない。しかし、確認できるのは、調査の過程において、少ない調査対象のみ商標標章が覆われたスーツケース本体のみを通じて被調査スーツケースが原告により製造されたと識別できた。原告の主張した6つのデザイン要素の全体又はその要素のうちの1つを通じて、調査されたスーツケースを識別できた調査対象がわずかであったので、客観的に原告の主張した6つのデザイン要素が商品の出所を識別できる役割が弱いことを反映している。」と挙げた。

したがって、物品の意匠に顕著な特徴を有することを立証して説明すると同時に、関連公衆が既に当該顕著な特徴に対して高い認知度を有していること、つまり当該顕著な特徴を通じて製品の出所を識別できることを証明することが非常に重要である。
 
3.商品自身の性質によって形成された形状ではない場合

前記2の製品が製品の出所を識別できる顕著な特徴を有することを証明するとき、明らかに当該物品の意匠が一般的な又は汎用な形状ではないことが分かる。その他の一般的な又は汎用な形状が存在しているため、顕著な特徴を有しているデザインは、通常商品自身の性質によって形成された形状である可能性が低い。したがって、2番目の要件が既に証明された状況において、当該要件に合致させることが比較的容易である。

本件において、当方は、腕時計の文字盤リングのデザインが、一般的には円形、楕円形、正方形、長方形などの形状を含み、さまざまであることを主張した。市場におけるさまざまな腕時計の文字盤のリングは、原告の八角形のリングと8つの六角形ネジ頭のデザインが、完全に原告の腕時計の美的コンセプトに基づいて、その製品のタフなスポーツと頑強なスタイルを顕著に表現しており、腕時計の性質と関係なく、特定な技術的効果を実現するための必須なデザイン又は腕時計に実質的な価値を持たせるデザインでないことを証明できる。
 
4.混同誤認

 不正競争防止法第6条に規定されている混同誤認は、混同誤認が既に発生したことを要求せず、混同誤認させやすい、つまり混同誤認の可能性があることだけを要求している。したがって、前記要件を既に具備し、被疑侵害デザインと係争商品の形状との類似程度が比較的に高い状況において、通常混同誤認させやすいと認定できる。もちろん、混同誤認が実際に発生したことを、原告が立証できる場合、非常に有力である。例えば、本件において、当方は被疑侵害製品のネット販売のリンクの評価において、複数の消費者が原告のロイヤルオーク腕時計に言及したことから、事実上混同誤認が既に発生したことを明らかにできると強調した。

被告は本件において原告製品の価格が被告製品の価格とは全く同じレベルのものではなく、かつその販売ルートも原告製品と異なっているため、製品の出所に対する混同誤認が生じないと主張した。これに対して、当方は、販売ルートと販売価格の違いによって、購入するとき購入者を混同誤認させることはないかもしれないが、関連公衆を全く混同誤認させないわけではない。商標法においても、不正競争防止法においても、混同を購入するときの混同誤認に限定しておらず、不正競争防止法の司法解釈においても「同一の商品に同一又は視覚上基本的に違いのない商品の名称、包装、装飾を使用した場合、他人の知名商品と十分に混同を生じさせるとみなさなければならない。」と規定している。しかも、被疑侵害製品を購入した消費者を含む多くの消費者は、被疑侵害製品が高いレベルの模倣品、安い代替品と直接言及したため、既に両者の高度混同性を明らかにし、購入者以外の関連公衆は通常の注意力を払って、商品の出所を明らかに混同誤認すると主張した。裁判所も最終的に被告の答弁意見を採用しなかった。

そのほか、法律条項において、主観的過失の要件は規定されていないが、北京知的財産裁判所が(2017)京73民終792号事件において、「(物品の意匠の不正競争防止法による保護は)商標法の登録商標に対する保護に比べると、両者の保護はいずれも標章の識別能力であるが、区別もある。主に原告名称、包装及び装飾の知名度と被告の主観的過失に対する要求に体現されている。登録商標は公示する役割を有しているため、関連公衆は通常、当該商標が登録状態にあることを知っていると推定し、被告の主観的過失をさらに判断する必要はなく、かつ侵害の判定は原告の商標使用を前提としない。しかし、商品の特有名称、包装、装飾については、当然主観的過失があることを推定できなく、通常原告より使用証拠を提出することを通して、客観的に既に商品及び役務の出所を区別する役割を果たしていることを証明する必要がある。これに応じて、その他の経営者は当該知名度を知っているものの、依然として被訴商品の名称、包装、装飾を利用している状況のみ、当該経営者に主観的過失があると認定できる。」と指摘した。本件において、一審裁判所も被告は主観的に原告の商業名誉にただ乗りする故意を有すると評価したことから、実務において、被告の主観的な状態も考察されることが分かる。製品の知名度が被告までカバーでき、被告は当該意匠の物品の出所の識別役割を知っているはずであるものの、依然として使用した場合、主観的過失があると認定できる。つまり、この場合、前記知名度、顕著な特徴の証明及び被告の実際の侵害行為の情状を合わせると、主観的過失を証明できる。
 
おわりに

不正競争防止法における「一定の影響力のある包装、装飾」は、商標、専利が登録によって権利が生じるのと異なり、特定の権利証明書がなく、実務において、権利保護を受けられるハードルは高くなっている。特に、製品の形状そのものが一定の影響力のある商品の装飾に該当しなければならないので、認定の基準が比較的厳しい。司法実務において、成功する事例は一握りにすぎない。弊所弁護士は当事者の協力の下、大量の証拠を収集し、原告製品の知名度、腕時計の文字盤リングの形状及びデザインの多様性、原告の腕時計のデザインの独創性及び公衆の認知程度などの多くの面から、原告の腕時計の意匠が、不正競争防止法における一定の影響力のある包装、装飾に該当することを証明し、さらに被告製品の消費者評価などをもって被告が原告のロイヤルオーク腕時計の意匠と極めて類似している意匠を使用したことは、消費者を混同、誤認させやすいことを主張し、最終的に一審裁判所の支持を得ることができた。本文及び本事例が、類似事件における物品の意匠の保護にある程度の参考価値を有することを切に願う。