弁護士 陳 傑
周知のとおり、中国の知的財産権に係る法律は、特許関連法、商標関連法、著作権関連法及び不正競争防止法から構成されている。そのうち、不正競争防止法は、穴埋め保護法として、前の3法律が規制しかねる不正行為を規制する法律である。現在、不正競争防止法において、知的財産権に係る法律は、主に第5条、第9条及び第10条であるが、特に、第5条(2)(周知商品の特有の包装・装飾)及び第10条(営業秘密の保護)がより広く運用されている。
本文では、主に2事例の説明を通じて、周知商品の特有の包装・装飾の保護及び営業秘密の保護について検討し、さらに、現行法の適用状況及び裁判所の考え方を分析することを通じて、企業の特許、商標以外の知的財産権の保護のための参考とアドバイスを提供できればと望んでいる。
なお、本文に述べる2事例は、ともに弊所が代理人として業務を行った事件であるが、顧客の営業秘密に及ぶ可能性に鑑み、本文においては、事件当事者の情報及び判決の具体的内容を公開できないことをご了承願いたい。
I. 事例1(周知商品の特有の包装・装飾の侵害)
1、事件経緯
日本企業の中国子会社(以下単にY社という)の商品は、中国における販売高が年を追うごとに増加しつつあり、消費者に広範に認知されてきており、商品の周知度が高まるにつれて、市場では同社商品の包装に類似する商品も出回っている。とりわけ、中国企業X社の商品包装がY社の商品包装と酷似するので、消費者は、購入時において、少しでも油断すれば容易に買い間違う。そこで、Y社は、X社の前記行為が不正競争防止法第5条(2)に違反することを理由にX社に対し侵害訴訟を提起した。結局、当該訴訟において、X社は、自社商品の包装を変更し、一定の期間内に市場で流通しているすべての被疑侵害商品を回収することを承諾し、Y社に対し損害賠償金を支払った。本件は両当事者の和解をもって終結した。
2、事例の争点
不正競争防止法第5条(2)による訴訟事件における3つの核心的な問題は、周知商品の認定、特有の包装・装飾の認定及び不正競争行為の認定である。本件は、結局和解により終結し、裁判官も明確な判断を下さなかったものの、その調停の結果は基本的に裁判官の判断を示している。すなわち、裁判官は、本件における不正競争行為の構成を認め、開廷審理及び調停過程においてもいくつかの判断を下した。これから前記に基づき、次のとおり分析する。
(1)周知商品の認定について
周知商品の認定は、不正競争防止法第5条(2)の適用における重要問題である。2007年の初めに公布・実施された「最高裁判所による不正競争民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈」(以下、司法解釈という)第1条には、周知商品の概念と認定基準について詳細に規定されている 。
注意すべきことは、不正競争事件は競争の存在を基礎とするので、訴訟において、被告商品の販売範囲と被告商品の販売範囲における原告商品の周知度を考慮しなければならない。本件において、被告商品は、北京地域で販売されており、Y社の商品は当時上海と広東地域でより有名であり、北京での販売は未だ全面的に展開されていなかったので、提出できた証拠は、ほとんど上海と広東での販売・宣伝に係るものであった。したがって、被告も当該問題に対して反論を提出し、裁判官も質疑を提出した。当方は、一方でメディアによる宣伝範囲には北京も含まれていることを主張し、もう一方では北京で販売されていた証拠を補足することにより裁判官を説得した。
したがって、原告としては、一方で商品の広範な販売範囲を証明できる証拠を提出すると同時に、当該商品が被告商品の販売範囲内においても極めて高い周知度を有することを証明することが肝要である。
(2)特有の包装・装飾の認定について
司法解釈第2条には、「特有の名称・包装・装飾」の概念と認定基準について明確に規定されている 。通常、包装・装飾があまりにも簡単又は普通である場合を除き、原告は、包装・装飾の特有性のために挙証することを必要としない。しかしながら、被告が反論する場合には、当該包装・装飾が既に大量に存在しており、特有性を有しないことを挙証しなければならない。
被告は、本件において、市場で販売されている包装・装飾が原告商品と若干類似する多種の商品を証拠として提出したが、当方は、「かかる証拠は、現在の市場において類似の商品が存在することを証明できるだけであり、当該類似商品の包装が消費者に混同をもたらす場合には、同様に侵害商品となるため、原告は別途に法的措置を取ることができ、かつ、類似包装の同類商品における比率は少いので、当該包装・装飾が既に共有の包装・装飾であると説明することはできない。」と主張した。裁判官も当方の主張を認めた。
(3)不正競争行為の認定について
不正競争防止法及び司法解釈に基づき、消費者に混同と誤認をもたらすことが、不正競争防止法第5条(2)の適用前提である。したがって、不正競争行為を構成するか否かを判断する場合には、必ず混同・誤認の存在又は混同・誤認の可能性について審査を行わなければならない。混同と誤認の判断については、司法解釈第4条に規定されている 。
司法実務上、実際に混同が生じたことを証明できる証拠がない場合(例えば、消費者の告発状、苦情状など)、裁判官は、通常、実物間の比較を通じて、その類否を判断し、かつ混同を生じるか否かを判断する。したがって、裁判官は、かかる問題に対する判断において、ある程度の自由裁量権を有すると言える。当方は、本件において、開廷時に当方商品のサンプルと被告商品のサンプルを提出し、裁判官に対し極めて直感的感覚を与えたので、裁判官も類似の問題、すなわち、混同と誤認の問題について何らの質疑も提出しなかった。
3、事例の難点
類似するか否かについての判断が成り立ったので、原告にとって最も主要でかつ最も基本的な挙証責任は、原告商品が周知商品であることを証明することである。当該部分の挙証は、往々にして大量の証拠を求められる。また、中国の訴訟では、証拠の形式に対し非常に厳しく要求している。例えば、書証については原本の提出を必要とし、国外で作成された証拠については国外での公証を行わなければならない。この他に、裁判官は、証拠に対する審査において、通常、関連証拠を有するか否かに注意を払っている。例えば、裁判官は、契約に係る証拠を審査する場合、常に契約の履行証拠を有するか否かについて尋問する。したがって、原告としては、周知商品であると主張する際に重い挙証責任を負わなければならない。また、これは、かかる事件における難点にもなる。証拠の不足による不利な結果を避けるためには、挙証の際に、下記の問題に注意を払わなければならない。
(1)商品の販売に係る証拠、すなわち、受取領収書(必ず商品名称を記載すること)と宣伝証拠、すなわち、広告(必ず商品実物の写真があり、かつ包装・装飾を明示すること)は、周知度の証明において、最も有力な証拠であるので、重点的に収集すべきである。広告を掲載した新聞・雑誌のほかに、相応の広告契約とその領収書も重要な関連証拠となるので、併せて提出した場合には、その証明能力がさらに高まる。
(2)前述のとおり、販売証拠と広告証拠を提出する場合には、その販売と広告発布地域に注意を払うべきであり、できる限り広範な地域と被告商品の販売地域での販売・宣伝に係る証拠を提出すべきである。
(3)できる限り原本を提出する。原本を提出できない場合には、公証手続を利用して、原本をコピーし、かつ原本と複写本が一致することについて、公証することができる。このほかに、インターネット上から収集した証拠は、その証拠能力を保証するために、必ず公証しなければならない。
4、事件による示唆
(1)日常の資料保存と収集への注意
ある企業は、既に大量の宣伝を行ったものの、関連資料の保存に注意を払わなかったために、一旦、紛争が生じた場合、数年前の宣伝又は販売に係る証拠を見つけることができない場合があるが、これは、企業の権利保護に対し非常に不利である。したがって、常に商品の周知度に係る証拠を保存しておくことが、今後生じ得る紛争の解決又は権利の行使に大いに役立つ。
(2)商品の包装・装飾の重要性への重視
商品の特有の包装・装飾は、既に重要な商業標章になっているので、包装・装飾の模倣事例は一切許すべきではない。一旦、大量の模倣品が長期的に市場に出回ると、その包装・装飾は特有性を失い、最終的には権利者の利益を害することになる。したがって、市場において模倣品に対する監督・制御を行い、かつ適時に措置を講じるよう提案する。
II. 事例2(営業秘密侵害)
1、事件経緯
日本企業N社は、中国で子会社を設立した際に、日本で中国籍の社員D氏を採用し、かつ中国の子会社に派遣し、工場長などの管理職のポストに就かせた。その後、D氏は、退職し、自らN社と同一の商品を生産する企業S社を設立した。S社が対外的に公開した商品カタログに記載されている商品性能データは、N社の商品カタログと完全に同一であった。N社は、D氏とS社の生産技術の出所に対し疑いを持ち、弊所に対応の代理を委託した。弊所は、証拠を入手するために、裁判所に提訴すると同時に、証拠保全を申し立てた。訴状などの訴訟書類が転送される前に、S社の工場現場でS社の製造図面数枚、コンピューターにおけるデザイン図面と若干のプログラム、会計報告表数部に対し、その保全手続を完成できた。裁判所は、数回の開廷審理及び双方の図面、プログラムに対する対比を経て、最終的にD氏とS社の行為は、N社の営業秘密に対する侵害行為を構成すると判じ、侵害行為の停止、侵害図面の廃棄、損害賠償金の支払いを言い渡した。
2、事件の争点
本件は、営業秘密侵害に及んだ事件であり、その最も主な争点は
(1)N社の生産技術及び顧客リストは営業秘密を構成するか否か
(2)S社が使用した生産技術及び顧客リストはN社の権利を侵害したか否かであり
(3)このほかに、D氏が証拠として提出したN社により捺印された覚書はN社によるD氏への許諾となるか否かも大きな争点となった。
(1)N社の生産技術及び顧客リストは営業秘密を構成するか否かについて
「不正競争防止法」第10条第3項には、「本条において営業秘密とは、公衆に知られていない、権利者に経済利益をもたらすことができる、実用性を有する、又は権利者が秘密保守措置を取った技術情報及び経営情報をいう。」と規定されている。
すなわち、営業秘密を構成する3要件は、非公開性、実用性及び秘密保守措置である。そのうち、非公開性は一般的に被告に反論されやすいが、実用性は通常体現されやすいので、原告は、重点的に挙証のために取る秘密保守措置を必要とする。
本件訴訟の過程において、被告は、「御社の技術情報と経営情報は公開されたものであり、且つ御社は秘密保持措置を取らなかったので、営業秘密ではない」と主張し、かつ証人証言、特許書類、N社がS社に発送した書類、インターネット上の検索内容などを証拠として提出した。
当方は、関連の許諾契約・会社内部規則・社員と締結した秘密保持誓約書などを証拠として提出し、かつ審理現場でパスワード付管理システムの操作を実演し、N社が関連技術情報と経営情報に対し秘密保持措置を取っていたことを証明した。
最終的に裁判所は、N社の技術・ノウハウなどは実用性と価値を有し、かつN社は秘密保持措置を取っていたと認め、不正競争防止法に定める「営業秘密」の条件を満たしていると認めた。
一方、仕入先リストと顧客リストなどの経営情報について、当方は、関連リストとリスト記録システムを証拠として提出した。顧客リストが営業秘密を構成するか否かに対する裁判所の認定は比較的厳格であるので、往々にして、当該リストの作成に多大な努力を尽くしたことを証明するよう要求され、かつ当該リストには公開ルートを通じて査問できる情報のみを含んではならない。したがって、裁判所は、原告が主張した保護すべき仕入先リストと顧客リスト等の経営情報は、本件において営業秘密の条件を満たすか否かを判明できないので認めなかった。
(2)S社が使用した生産技術及び顧客リストはN社の権利を侵害したか否かについて
侵害となるか否かの判断は、営業秘密侵害訴訟の重点である。現在、かかる事件において、当該点に係る挙証は非常に難しい。本件において、最初から証拠保全を裁判所に申し立てたので、裁判所は、適時に被告及びその工場のコンピューターに保存されたファイル及びプログラムを抑えた。これらの証拠は、審理の際に非常に重要な役割を果した。しかも、当方は、裁判所に抑えられた技術書類とN社の技術書類との対比を経て、裁判官を説得した。
また、当方は、D氏が長期的にN社の重要な管理職のポストに就いていたので、原告の営業秘密に接触できる機会を有していたことを証明する証拠を提出した。
したがって、裁判所は、「本件の被告D氏は、長期的に原告の管理職のポストに就いていたので、原告の技術秘密と秘密保持措置に接触し、熟知することができた。なお、本件調査により明確になった事実から見れば、被告が株主の一人として使用していた製造図面及びコンピューターに保存された図面と技術情報は、原告の図面及び関連技術情報と極めて類似している。「接触+類似」の判断原則に基づき、両被告は原告の技術秘密を使用したと認定することができる。」と認定した。
(3)被告が証拠として提出したN社により捺印された覚書はN社によるD氏への許諾となるか否かについて
被告は、S社がN社の技術情報を自由に使用できることを証明するために、「覚書」を証拠として提出した。当該覚書には、「D氏がN社のために重大な貢献をしたことに鑑み、D氏が有能であると認めた場合、N社は、D氏がN社の技術を使用して商品を製造し、退職金とすることに同意する。」と記載されている。当該覚書には、代表者のサインがないものの、N社の捺印があった。
当該「覚書」は、D氏が作成したものであると判断できるが、N社の印鑑があるので、原告には非常に不利である。そのうえ、主審の裁判官は、合議体には当該覚書が技術秘密の許諾に属すか否かについて議論があり、異なる意見もあることを表明した。仮に、N社による許諾であるとみなされた場合、被告の行為は権利侵害を構成しない。当該覚書の取り扱いも争点の一つである。
当方は、D氏が嘗て管理職のポストに就いており、任意に会社の社印を捺印することができたので、当該覚書は捺印後の空白紙にプリントしたものであると主張し、当該覚書の作成時期に関する鑑定請求を提出したが、裁判官は、捺印が確かに本物である場合、鑑定を通じても、当該覚書の具体的な作成時期が捺印と同一期日であるか否かを鑑定しかねると表明した。それと同時に、当方は、D氏の退職の際にN社は既に別途退職金を支払ったことを証明する証拠を提出した。従って、N社がD氏に自由に自社の技術秘密を使用することを許諾することはありえない。
結局、合議体の議論を経て、裁判所は、「当該覚書には、原告N社が被告S社に許諾して使用させる技術書類の種類、範囲等について、明確に記載されていない。逆に、「N社はD氏が有能であると認めた場合に同意する。」と記載されているので、双方の技術許諾の約束は不明確であると認定できる。かかる状況においては、信義誠実の原則に基づいて解釈しなければならない。製造型の企業に対する技術図面と書類の重要性に鑑み、通常、他人のコピーと使用を許可しない。さもなければ、競争優越性が完全に喪失される。したがって、「N社は、D氏が有能であると認めた場合に同意する」との「有能であると認めた場合」に関し、「無断でコピー・模倣する能力である。」」と解釈すべきではないと認定した。
3、事件の難点
(1)営業秘密の担体を提出する
技術又は経営情報は無形物であるので、訴訟においては、当該秘密情報に係る有形担体を提出しなければならない。例えば、生産技術の図面、プログラム、顧客リストなどである。原告が主張した営業秘密の範囲はかかる有形担体を通じて確定しなければならない。
権利者は、往々にして被疑侵害者が既にどの程度の営業秘密を取得したかを確定しかねるので、時折、有形担体を証拠として提出することをためらう。なぜならば、仮に営業秘密に及んだとしても、すべての証拠は、双方当事者による証拠調べを通じてこそ、事実認定の根拠とすることができるからである。すなわち、一旦、原告が秘密情報の有形担体を証拠として提出した場合、被告はかかる秘密情報に接することができ、被告に対し秘密保持の保証書を作成させたにもかかわらず、依然として営業秘密が二次漏洩されるリスクが存在する。
したがって、営業秘密の担体を証拠として提出する場合、原告は、常に進退窮まる局面に陥る。本件において、営業秘密の担体を選択していた際、N社も非常にためらい、提訴時には数枚の図面のみを提出した。当然、挙証期間内に、さらに一部の図面を補足したものの、わずか数枚の図面にすぎず、主張できた営業秘密の範囲も非常に限りがある。しかも、当方は、保全された被告の書類を検討していたとき、N社の製造プログラムを見つけた。しかしながら、保全で当該プログラムを見つける前に、当方は、N社の製造プログラムを証拠として提出していなかったので、S社のコンピューター資料に接した後に補足証拠として提出した場合、被告から反論されやすくなり、当該プログラムの作成時期も証明しかねる。したがって、当方は、製造プログラムがN社の工場の設備内に保存されているため、提出しかねることを理由にして、裁判所に証拠収集を申し立てた。裁判官は、検討を経て当方の申立てに同意し、自らN社の製造工場に赴いた。そこで、当方は、裁判官の前で同工場の生産設備に導入された製造プログラム及びその機能を実演し、かつ、かかるプログラムが工場設備の運転過程中に既に存在していることを説明した。最後に、当方は、裁判官の前で工場設備の制御コンピューターから製造プログラムを一部コピーした。結局、裁判官は、当該部分の技術秘密を認め、かつ当該技術秘密が被告よりも先に作成されていたことを認めた。
上記の内容を纏めてみると、最高裁判所による明確な司法解釈が頒布されているので、すべての証拠は、必ず当事者による証拠調べを経なければならず、裁判官との協議を経て、被告に対し原告の提出した証拠に接触させないことを通じて、二次漏洩のリスクを回避することはほとんど不可能である。したがって、原告方は、提訴の前にできる限り被告が窃取した営業秘密の範囲を把握すべきであり、証拠の提出時においても、証拠の量を過少、若しくは一括して過多にしてはならない。また、できる限り常に裁判官と協議し、証拠の提出形式においても、できる限り裁判官からの了承を得るのが望ましい。
(2)侵害行為の証明について
被疑侵害者が如何なる生産技術を採用したかを証明することは、依然として原告が解決しかねることである。通常、営業秘密の侵害事例においては、「接触+類似-合理的ルート」ということを判断基準とする。すなわち、原告として、被告が嘗て原告の営業秘密に接したことを証明でき、被告の商品が原告の商品と同一又は類似であることを証明でき、かつ、被告が関連技術を取得できた合法的なルートを有することを証明できない場合、侵害行為の判定が成立する。しかしながら、それにしても原告の挙証責任は依然として重い。例えば、両者の商品が同一又は類似であることを証明するためには、常に専門家による鑑定を必要としなければならない。
本件において、侵害行為を構成するか否かについて、裁判官は、数回にかけて専門家による鑑定を考えていたものの、結局、専門家による鑑定を経ずに、侵害行為を構成すると判定した。その理由は、当方の申し立てた証拠保全が実施され、かつ被告の工場現場でその生産図面と製造プログラムについて保全を実施し、一部の図面とプログラムにN社の社名があったからである。しかも、当方は、大量の作業を展開し、保全を経た図面と当方が証拠として提出したN社の図面(約百枚)との対比を行い、説明し、保全を経たプログラムと裁判官の前でコピーしたN社のプログラム(約千枚)についても詳しく対比し、説明した。当方による対比・説明について、被告は如何なる反証もしなかったので、最終的に裁判官は、当該対比説明に基づき被告は確かに原告の生産技術秘密を使用したと判じた。
したがって、前記の難点を克服するためには、訴訟を提起すると同時に、証拠保全を申し立てることは、非常に有効でかつ重要な措置である。
4、事例による示唆
(1)秘密保持措置の強化について
秘密保持措置を取ることは、営業秘密の要件の一つである。本件において、N社は、営業秘密に係る管理において多少の欠陥が存在していた。例えば、生産図面を随意に工場の中に放置し、関連の生産書類には鍵を掛けていなかったことなどである。これらは、嘗て訴訟過程において何度も被告に指摘された。当方は、一連の証拠と主張を通じて、当方が既に秘密保持措置を取っていたことを証明した。例えば、図面には「受控ファイル」の文字が刷られ、一部の契約には秘密保持条項などを定めていた。当方の主張は、最終的に裁判所に認められたものの、多くの波瀾・曲折を経ざるを得なかった。したがって、企業としては、社内において健全な秘密保持措置を確立し、秘密の漏洩を防止するよう提案する。
(2)人員管理の強化及び健全な秘密保持契約の締結について
本件において、秘密を漏洩した社員は、高級管理職にあったので、在職中に職務上の便宜を利用して、容易に企業の生産・経営に係る大量の秘密情報を取得できた。また、退職時には会社は当該社員に対し秘密保持義務を確認・実行しなかったので、当該社員は、あわや実施許諾として認められるところだった覚書を入手できた。当該覚書は、当該社員が職務上の便宜を利用して、無断で捺印したものであったとしても、やはりN社の経営管理上の問題を露呈している。したがって、企業と社員との間、特に秘密情報に接する社員との間では、完璧な秘密保持契約を締結し、退職直前の高級管理職に対しては、安全を図るために、退職後の秘密保持に係る秘密保持契約を締結し、それをもって、社員の行為を制約し、かつ、今後、生じ得る紛争に備えて充分な証拠を保存する必要がある。
参考:中華人民共和国不正競争防止法
第5条 事業者は、次の各号に掲げる不正な手段を用いて市場取引に従事し、競争相手に損害を与えてはならない。
(1)他人の登録商標を盗用すること。
(2) 無断で周知商品の特有の名称・包装・装飾を使用し、又は周知商品に類似する名称・包装・装飾を使用して、他人の周知商品と混同させ、購買者に周知商品と誤認させること。
(3)以下略
第10条 事業者は、以下に記載する手段を用いて営業秘密を侵害してはならない。
(1)窃盗、誘引、脅迫又はその他の不正手段をもって権利者の営業秘密を取得すること。
(2)前項に定める手段を用いて取得した権利者の営業秘密を披露、使用し、又は他人に使用を許諾すること。
(3)取り決め又は権利者の営業秘密保守に関する要求に違反して具有している営業秘密を披露し、使用し、又は他人に使用を許諾すること。
第三者は前項に該当する違法行為であることを知りながら又は知りうる場合、他人の営業秘密を取得し、使用し、又は披露した場合、営業秘密を侵害するとみなす。
本条において営業秘密とは公衆に知られていない、権利者に経済利益をもたらすことのできる、実用性を有する、又は権利者が秘密保守措置を取った技術情報及び経営情報をいう。