中国弁護士 王 炳卉
北京魏啓学法律事務所
  
「商標法」第49条によると、登録商標が使用許可された商品の普通名称となっているときは、如何なる単位又は個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる。「商標審査審理指南」(以下、「指南」という)に基づいて、このような取消事件では、「普通名称となっている」の適用要件は以下のとおりである。

(1)登録商標がその登録を許可された時点において、指定商品の普通名称となっていないこと。

(2)登録商標が市場で実際に使用される過程において、商品の出所を識別する機能を喪失し、取消申請を提出された時点においてその使用商品の普通名称となっていること。

上記の適用要件を見ると、「普通名称となっている」の適用が2つの基準を重視していることが分かる。1つはタイミングであり、すなわちこのような取消事件では、取消申請を提出された時点において既に普通名称となっていることを証明する必要がある。もう1つは商標としての機能の喪失であり、すなわち関連商標標章が商品の出所を識別する役割を失ったことを証明することが求められる。実務では、争点は主に、商標が商品の出所を識別する役割を失ったことをどう定義するかという点にあり、すなわち、関連商標が商品の出所の違いを区別することに機能しているか、それとも商品の種類の違いを区別することに機能するようになっているかである。

● 司法解釈における規定

「最高裁判所による商標の権利付与・権利確定に係る行政案件の審理における若干問題に関する規定」第10条によると、法律の規定又は国家標準、業界標準により商品の普通名称に該当する場合、普通名称と認定しなければならない。関連公衆が、ある名称で1 種類の商品を指し示すことができると一般に考える場合は、広く認められている普通名称と認定しなければならない。また、「指南」下編の第4章にも記載したように、商品又は役務の普通名称に該当するかを判断するには2つの面から考えることができ、1つは法律の規定又は国家標準、業界標準に基づくもので、もう1つは、関連公衆の認知において、既に広く認められているか、又は普遍的に使用されているかにより判断するものである。 

上記から分かるように、商標が商品の普通名称となっているか否かを判定する際、行政段階も訴訟段階も、その判定基準には2つの面が含まれている。1つは、法定の普通名称であり、規範性と権威性がその特徴で、実務においては公衆の一般的な認識と一致しない場合がある。もう1つは、広く認められている普通名称であり、関連公衆の認識から由来し、長期的な社会実践を経て確定または形成され、広範性の特徴を備えている。 

● 商品の普通名称となっているかどうかの判定は客観性に従う

法定の普通名称と、広く認められている普通名称とは、どちらも客観的な事実を反映したものである。これらの普通名称はある業界や特定の範囲内で共用され、ある商品が他の商品と区別される特徴を根本的に反映している。

実務では、普通名称となっているかを判定する際に、客観性の原則に従い、商標権者が使用中に主観的な過ちがあるか否か、同業者の競争的な使用行為などを根拠としない。例えば、第14402363号「千頁」商標取消不服審判行政訴訟において、北京市高等裁判所は以下のように指摘した。登録商標が商品の普通名称となっていることはまず、法律事実の認定である。商標法は、登録商標が指定商品の普通名称になった後、登録商標を取消すべきであると規定する理由は、この時点で登録商標は商品の出所を区別する機能を果たすことができなくなり、消費者がブランドを見て買い物をするという基本的なニーズが保障されず、他の事業者が公共標章を自由に使用する正当な権利が妨げられる可能性もあることであり、当該規定は、商標権者が登録商標を有効に維持できなかったことに対する罰則ではない。そのため、商標の普通名称化の原因やそれを防止するための商標権者の努力よりも、普通名称化の結果が形成されたか否かのほうが重視される。商標権者の行為は普通名称化のプロセスと結果に影響を与えるが、普通名称化の結果が形成された後、当該登録商標が1種類の商品を指し示すと関係公衆に一般的に認識された場合、登録商標は取り消されるべきである。

● 商標が普通名称となっているかどうかの実務における具体的な判定基

1. 国家標準、業界標準に収録されているか

商品の法定の普通名称とは、法律規定または国家標準、業界標準に基づいて定められた商標の普通名称である。そのうち、国家標準は国家標準化管理委員会より発表され、強制性国家標準、推薦性国家標準などを含める。業界標準は国家標準がない場合に、全国のある業界範囲で統一される標準であり、国家標準化管理委員会へ届出の必要がある。

法定の普通名称は客観性を有するため、実務上、関連する証拠があるか否かの検討が優先されることが多い。メディア報道や商品の販売情報などのような資料はあくまでも参考資料であり、法定の普通名称に該当するか否かを判定する際の決定的な証拠として使用することができない。

例えば、第1126012号「天丝」商標取消不服審判事件において、申請者は新聞、定期刊行物、論文における天丝に関する記載を提出した。第16717963号「数字人」商標取消不服審判事件において、申請者は百度百科、360百科、Sogou百科、辞書及び「2020年デジタルヒューマン発展白書」に記載されている解釈などを提出した。これらは法律規定または国家標準、業界標準の文書ではなく、インターネット検索または個人的な見解を記したものである。そのため、商標局は関連商標が中国の関連法律または国家標準、業界標準に指定商品の普通名称として使用されることを証明できないと判定した。

2. 地域を問わず普通名称として広く認知されているか

広く認められた普通名称の判定について、一般的には全国の関連公衆の一般的な認知を判断基準とし、高い汎用性が求められる。例えば、上述した第14402363号「千頁」の商標取消不服審判行政訴訟事件において、申請者の清美公司は、公証人の監督の下、上海、北京、蘇州、嘉興、西安の異なる地域の5都市で街頭アンケートにより実施した消費者認知度調査状況を証拠として提出した。一定数のサンプルを集めた調査の結果、回答者の約87%以上が「千頁豆腐」は商標または大豆製品のブランドではないと考えており、61%の回答者が「千頁豆腐」という料理を提供しているレストランは多いと考えている。全国各地でランダムの人々に対する認知調査を実施することで、ある名称が普通名称として広く認められたことを証明した。また、当該申請者は同業者の使用状況も調査し、「千頁」は商標の形で具体的な主体を指すのではなく、名称の形で具体的な商品を指していることを証明した。

3. 商標全体の識別力と具体的な商品に注目

普通名称の認定は明らかな限定性がある。「指南」によると、もし標識の構成が「商品の普通名称のみからなる」ではなく、識別力を備えるほかの要素と組み合わせている場合には、当該商標が識別力欠如と直接に認定してはならないとのことである。商標は商品の普通名称に該当するか否かを判定する際に、商標標識の全体について審査しなければならない。また、認定は普通名称が指し示す具体的な商品に限定し、その商品と類似する商品を考慮すべきではない。

つまり、普通名称となっているという主張は商標標章中の一部の文字又は図形のみを対象にする場合、主張された要素を唯一の根拠とせず、商標全体の識別力を審査する必要がある。また、対象商品は普通名称が指し示す具体的な商品に限定すべきであり、その他の指定商品または普通名称が指し示す具体的な商品と類似する商品に及ぶべきではない。例えば、上述の「千頁」の商標は「豆腐、豆腐製品」についてのみ取消され、他の商品については登録が維持された。

——————————————————————————————————————————————————————

参考文献:
商評字[2020]第0000291437号重審第0000003602号
商評字[2024]第0000008655号取消不服審判決定書
商評字[2023]第0000082044号取消不服審判決定書