中国弁理士 弁護士 郭 成昇
北京魏啓学法律事務所
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主題名は、クレームの不可欠な構成部分であり、クレームの前提部分の一部として重要な役割を果たしている。オールエレメントルールからすれば、クレームの技術的範囲を判断する時、クレームにおけるすべての構成要件を考慮する必要がある。しかし、実務において、主題名がクレームの技術的範囲への限定となるか否かは、一概には言えない。本稿において、法律法規及び最新事例2件から、主題名がクレームの技術的範囲への限定となるかどうかについて考察していく。
1. 関連する法律法規
中国最高裁判所の「特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈(二)」第5条には、「裁判所が特許権の技術的範囲を判断するにあたって、独立クレームの前提部分、特徴部分及び従属クレームの引用部分、限定部分に記載されている構成要件はいずれも、技術的範囲への限定となる。」という規定がある。上記の司法解釈には、主題名を含む前提部分は技術的範囲への限定となることは規定されているが、クレーム範囲の解釈時に主題名をどのように捉えるべきかについては、詳細な説明はない。
中国特許審査基準第2部第3章3.2.2には、用途限定を含む主題名について、「用途限定を含む主題名を有するクレームについて、その用途限定はこの物クレームの技術的範囲を判断する時に考慮すべきであるが、実際に限定となるか否かは、かかる物自体に与える影響による。」という規定がある。審査基準には、主題名が用途限定を含む場合についての例示説明がある。
また、参考となる見解として、北京市高等裁判所の「特許侵害判定指南(2017)」第25条第1項には、主題名に含まれる適用分野、用途や構造などの技術的事項がクレームに係る発明に影響を与える場合、この技術的事項はクレームの技術的範囲への限定となることが記載されている。
2. 「主題名」とは
クレームの発明は、いくつかの構成要件からなるものであり、クレームの主題名は、すべての構成要件からなる発明を簡潔に総括したものである。主題名の役割からすれば、その最も基本的な役割は、当業者がこの特許の技術分野及び基本的なカテゴリーを把握できる発明の名称となる。実務において、主題名には、例えば、用途限定や効果・機能的記載、さらには構造等の技術的思想を反映する記載が含まれることがある。
北京市高等裁判所編著の「<特許権侵害判定指南(2017)>の理解及び適用」には、主題名が「単純型」主題名(例えば「コンピューターシステム」)と「非単純型」主題名とに大別されている。
単純型の主題名の場合、余分な修飾語がないため、技術的範囲が広く、侵害判断の時に争点になる可能性も低い。一方、非単純型の主題名の場合、例えば、用途限定や効果・機能的記載等を含む場合、通常、クレーム範囲への限定となるかどうかをケースバイケースで検討する必要がある。
3. 主題名のいくつかのパターン及び事例
(1)主題名に用途限定が含まれた場合
審査基準には、用途限定を含む主題名について、この用途が物の構造に実質的な影響を与えなければ、この用途限定を含む主題名がクレームの技術的範囲への限定とならないと明確に規定されている。例えば、「…に用いられる化合物X」について、「…に用いられる」という用途が化合物X自体に一切影響を与えなければ、この化合物Xが新規性、進歩性を有するか否かを判断する時に、この用途限定は技術的範囲への限定にならないと考えられる。
一方、この用途限定が、物が所定の構造、組成などを有することを意味していれば、この用途限定を含む主題名は、技術的範囲への限定となる。例えば、「溶鋼鋳造用鋳型」を主題名としたクレームについて、「溶鋼鋳造用鋳型」の用途が主題の「鋳型」への限定となる。「アイスブロック成形用プラスチック成形型」は、「溶鋼鋳造用鋳型」よりも融点が遥かに低く、溶鋼鋳造に用いることが不可能であるため、上記クレームの範囲に属しない。
(2)主題名に効果・機能的記載が含まれた場合
中国最高裁判所の判例からすれば、主題名には効果・機能的記載がある場合は、さらに下記の2つの場合に分けて検討する必要がある。
場合① 効果・機能的記載が、特徴部分の物の構造、組成等により達成できる効果・機能に関する記載である場合、主題名に記載されている効果・機能は、実質的に、特徴部分に記載されている構成要件により達成できるため、この主題名はクレームの技術的範囲への限定とならない。
場合② 効果・機能的記載が、特徴部分の物の構造、組成等で達成できる効果・機能に関する記載でない場合、特に主題名に記載されている効果・機能が先行技術と差別化するためのものである場合、この主題名は直接的・間接的にクレーム発明の構成要件となっており、クレームの技術的範囲への限定となる。
事例1:(2019)最高法知民終657号
この事例では、対象特許のクレーム1の主題名は「水位高さ調節機能付きスロット接続型緑化ブロック」となり、「水位高さ調節機能」は機能的記載である。クレーム1の特徴部分には、水位高さ調節機能を達成する具体的な方法として、「土壤収容部の傾斜面には少なくとも1つ又は複数の水位高さ調節オーバーフロー孔が形成されており、水位高さ調節オーバーフロー孔は底部が貫通される直前のブラインドホールである」との2つの構成要件が規定されている。このため、主題名における「水位高さ調節機能」という記載は、実は、特徴部分に記載されている構造により達成できる機能である。したがって、クレーム1の主題名の書き方は、上記場合①に該当する。「水位高さ調節機能」という記載は、実は、発明全体の技術的範囲への実質的な限定とならないと言える。
同事例において、独立クレーム10の主題名も「水位高さ調節機能付きスロット接続型緑化ブロック」であるが、クレーム10の構成要件には、水位高さ調節機能を達成する具体的な方法に関する記載がない。明細書の記載からすれば、水位高さ調節機能を達成する方法は、先行技術に対する実質的な貢献をもたらす改良であり、先行技術と差別化する特徴的なものである。このため、「水位高さ調節機能」という記載は、クレーム10の前提部分の主題名に記載されているにも関わらず、具体的な構成要件となっている。中国最高裁判所は、クレーム10の技術的範囲の判断において、クレーム10における「水位高さ調節機能」を機能的要件と認定し、具体的な実施形態まで解釈した。したがって、クレーム10の主題名の書き方は上記場合②に該当し、「水位高さ調節機能」という記載は、発明全体の技術的範囲への実質的な限定となる。
(3)主題名の技術用語と特徴部分の技術用語が重複または引用関係にある場合
クレームの記載は、簡潔かつ正確でなければならない。同じ技術用語が主題名と特徴部分において繰り返して記載された結果、クレーム解釈のために相互に参照される可能性が極めて高く、文言解釈の観点から区別できない場合も、主題名はクレームの技術的範囲への限定となると考えられる。
事例2:(2020)最高法知民終1469号
この事例では、対象特許のクレーム1の主題名が「商品棚特定方法」である。クレーム1において、主題名には「商品棚」という用語があるに加えて、特徴部分には「商品棚群」「商品棚」等の技術術語が数箇所ある。中国最高裁判所は、「商品棚」という用語が対象特許のクレーム1の主題名と特徴部分において繰り返して記載された結果、文言解釈の観点から区別できないため、対象特許のクレーム1の主題名がクレーム1の技術的範囲への限定となると認定すべきであると判断した。
また、中国最高裁判所は、「商品棚特定方法」が、先行技術における「商品格納部特定方法」との差別化につながるとして、クレーム発明の構成要件となっていると認定し、この観点からも、この主題名が技術的範囲への限定となると判断した。
4.小括
主題名がクレームの技術的範囲への限定となることは、特許権の行使に悪影響を与える可能性があるため、クレームを作成する時に、主題名の書き方を十分に考慮する必要がある。「単純型」主題名の書き方は、一般には、技術的範囲に悪影響を与えないため、優先的に使用することはオススメである。主題名が発明全体への総括となることを考慮して先行技術と差別化したい場合、主題名の記載と特徴部分の記載とのずれによって主題名がクレームの発明全体へのさらなる限定となることをできるだけ回避するために、主題名をクレームの特徴部分の記載に十分に対応して記載すべきである。